第13話 市場でお買い物

「市場は石畳で舗装されているんだね」


 私は歩きながら足元を見て言った。


「市場に来て急な雨で足元が土だとドロドロになりそうだし、舗装されてて良かったよ」


 コウタはそう答えながらも、さかさか歩く。

 時は金なりかな、先頭を歩くコウタも歩調がやや早いから、私達も早足で歩いてる。


「あ、可愛いサンダル発見、ねえ、カナデっち、あれ宿や室内で履くと良くない?

コータ君もローマ系の服を着るならサンダル系の方が似合うと思う」


 紗耶香ちゃんの声にコウタと私は足を止めて、靴屋を確認した。

 ゴザのような敷物の上にずらりと靴やサンダルが並んでいる。


「うーん、今が秋なら次に来るのは冬だと思うけど、本当にサンダルでいい?」

「え、あ、ブーツの方が良いのかな」

「予算が潤沢なら一足くらい良いと思うけど、私はもう少し様子見してから買うよ」


「俺は一足買うかな、確かに服と足元がチグハグだと、悪目立ちしそうだし」

「え、コータ君は買うんだ? えー、サヤはどうしよ」


「水木さんもひとまず一足買っておけば? ブーツはともかくサンダルならたいして足のサイズ変わらないなら、女の子同士なら貸し借り出来るんじゃないか?」

「じゃ、ここはサヤが買っておくね、カナデっちも借りて良いから」

「紗耶香ちゃん、ありがとう」


 コウタと紗耶香ちゃんの二人はサンダルを買ったけど、私はまだ財布の紐を緩めなかった。


 次に本命の石鹸屋に向かった。


「よし、石鹸の店に着いたぞ、洗濯用にお得な石鹸はどれかな……」


 緑色の布テントの前に来た。


 店主がコウタの呟きに反応して、「お兄さん、洗濯用ならそこの石鹸がいいよ、大きくてお得」と、セールストークをかまして来た。

 薄い茶色の石鹸だった。


「ありがとうございます」


 コウタは礼を言ってから店主のおすすめ石鹸を三つ手に取った。


「顔や体を洗うのにはどれが良いですか?」


 ついでに私も質問してみた。


「そこの石鹸が良いよ。柑橘系の香りもついてる」


 手の取って嗅いでみたら、確かに柑橘系のいい香りがした。


「あ、さりげ良い香りじゃね?」

「うん、じゃあこれも買おうか」


「カナデっち、買ったばかりの残りの高級石鹸はどうする?」

「自分で使うのもったいないからまたあの美肌石鹸は削って、口紅と一緒に売るとかどう?」


「あー、なる。

とても美肌にいいって言えばオシャレに気を使っている人に売れそうだよネ」


 私達は石鹸を数個買った。


 次に、食欲をそそる香りが風に乗って来た。

 煙の来た方向を見ると、串焼き屋が目に入った。



「やば、肉の焼ける匂い、お腹空いて来た」

「ミニウインナーロールパンはミニだから、やっぱすぐにお腹空いちゃうね。

買って食べようか」


「ああ、焼き鳥屋をやるなら串焼き系ライバル店の味も知っておくべきだな」

 三人とも、食欲には負けた。


「串焼きを3本下さい」


 おや、ここはコウタが私達の分もまとめて買うみたい。


「ヘイ毎度! 銅貨9枚ね!」

「串焼き一本が銅貨三枚なんだな。把握」


 コウタは銅貨9枚を支払った。


「はい、どうぞ」

「え? コータ君、これ奢り?」

「うん、さっきの布地店での洋服アドバイス料だと思ってくれたら良い」


「マジで!? ゴチ!」

「コウタ、ありがとう、いただきます!」


 我々は串焼きを買って、移動し、ベンチを見つけて三人並んで座って食べた。


「あ、香辛料がちょいピリ辛でなかなか美味しいのでは?」


 紗耶香ちゃんの評価もなかなかだ。


「これと同等か上を行かねば」


 コウタが難しい顔をして言ったので、私は力強いセリフを言った。


「我々には食に五月蝿い日本人キャンパー達にも大人気の例の調味料が有る! リストにあった! 勝てる!」

「味が良いのは分かるが、コスパの方は?


 コウタは真面目な顔で訊いて来た。

 そうか、お値段……。


「あ、味の研究を試行錯誤するにも時間とお金がかかるなら、ひとまず人の調合した調味料に頼るのも、やむ無しかと思われ……」


「醤油と砂糖と料理酒で照り焼き味にしても美味しいと思うぞ」

「あ、その手もあったわね」

「まあ、それはそれとして、例の調味料は自分達用に欲しいわな」

「サヤもそう思う!」


 なんだかんだと欲望には正直だった。


「例の調味料も買うわ」


 自分達用に日本のスーパーで売ってる優秀なスパイスを買う事に決定した。


「ねー、どこの肉屋から買うの? 照り焼なら鶏肉? 鶏飼うの?」


 紗耶香ちゃんが周囲をキョロキョロしながら問うて来た。


「に、鶏を飼うなら庭付きの家がいるわね。ひとまず肉屋さんを見に行こう」

「まだ家買うレベルじゃないから、ひとまず肉屋だな」


 我々は次に肉屋を探した。

 肉屋ゾーンがあったので、そちらへ向かった。

 沢山のお肉がずらりと吊られてるし、台の上にもいっぱい並んでる。


「凄い、豚の頭まであるじゃん」

「水木さん、それは沖縄でもあったと思うよ」

「あー、沖縄! そういやミミガーをお土産に貰った事あったわ」

「豚の耳皮のジャーキーでしょ、私も聞いた事はあるわ」


「ひとまず、売り物用に鶏肉と自分達用に豚バラ肉探そう」


「安いよ安いよー! どこよりも安いよー!」

「あそこ、どこよりも安いんだってさ〜〜」


 紗耶香ちゃんが安さが売りのお店を見つけた。

 しかし、あそこ肉にたかるハエが多い……ような。ちょっと怖い。


「うちは安心安全、新鮮なお肉だよー! 見てってー!」


「新鮮で安全だって、あそこの肉屋見よ」


 私は安全思考な日本人だった。



「そうだな、食中毒を出す訳にはいかない、できれば安全そうなところに行こう」

「そだね」



 お試しで新鮮安全が売りのお店もお肉を買って行こうって話になった。


「えっと、他に買う物は、何かある?」

何か忘れている気がするので、聞いてみた。

「バーベキュー用の炭とか薪とかかな。あと、店出すなら屋根、テントみたいなのも欲しい気がする」



 色々物入りだわ。


「炭はともかく薪はその辺の森で拾って来ちゃダメなの? 節約!」

「誰かに聞いてみようか」


 私はそう答えて、周囲を見渡した。


 お酒や買った物を食べる飲食スペースにいる冒険者が目に止まった。


 え!? 待って! 私の大好きなゲームキャラに似た感じの人がいる!

 かっこいい! イケメン!


「ヤバい……」

「カナデっち、どしたん?」


「あそこに、めちゃくちゃかっこいい人いる、ほら、黒髪で、オールバック風だけど、前髪の一部がちょろっと降りてて、襟足が長い、肩幅が広い冒険者風の男の人」


「あー、カナデっち、意外にワイルダー系の男前が好きなんだね?」

「ほー」

「カナデっち、せっかくだし、話しかけてみなよ」


 紗耶香ちゃんは物理的にも私の背中をぐいぐいと押してる。


「え、でも!」

「サヤの色付きリップ使う?」

「な、何を話しかければ、初対面なのに」


「さっき自分で言ってたろ、森で薪とか勝手に拾っても良いですか? って聞けば良いんじゃないか?」


「な、なるほど……、い、行ってみるね!」

「ファイト!」


 推しにそっくりな人がいたので、せっかくだし、頑張って声をかけてみた。


「木の枝とかの薪? 個人が抱えきれるくらいの量なら構わないはずだぞ。

でも森には魔獣が出る事もあるから気をつけろよ。

あんた冒険者とかじゃ無いんだろ?」


「あ、はい、分かりました、気をつけます」


「森の深いとこまで探索する時は、冒険者とか雇った方がいいぜ」

「はい、あの、お兄さんは冒険者ですか?」

「ああ、俺の名はラウル。冒険者だ」


「あ、私はカナデと言います。情報ありがとうございました。この小袋、塩胡椒です、お料理に使って下さい」


 私は耳元で囁いて、小さな小袋をラウルさんの目の前に置いて去った。


「え!? その程度の情報で、これは過分な返礼だぞ!?」


 後方から声が聞こえたけど、返品は受け付けない。

 知ってる! 胡椒が高いんでしょ、でも、推しには課金したい派!


 私はそのまま紗耶香ちゃんとコウタを連れて炭を探しに移動した。

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