第8話 値引きもあるんだって

「うっかり失念してたけど、歌劇だったらヤバかったわ」


 スマホの録音とワイヤレスイヤホンはきちんと機能し、演劇の舞台は無事に終わった。


 脚本はセリフを通しで録音した。

 男性パートをコウタが吹き込み、モブ女のセリフを私が吹き込み、ヒロインのセリフを紗耶香ちゃんが吹き込んだ。

 それを舞台でカンペ代わりにした。


「普通の演劇で良かったね、無事に演技をやり終えたし、紗耶香ちゃん、本当にお疲れ様! えらかったね!」


「サヤさん、本当にありがとう、助かったわ。

次の公演は七日後なので劇団員の中でヒロインを選んでセリフを覚えて貰うから、あなたに頼るのは今回ので終わりだけど。これ、うちはあんまりお金ない劇団なので、謝礼が少なくて申し訳ないけど」


「え? 貰えるとは思って無かった、あざまーす!!」


 紗耶香ちゃんは遠慮なく謝礼金を貰った。正直な人だ。

 でもこの世界の通貨も少しでも欲しいものね。生きる為にはお金がいる。


「あ、今何か音鳴った! ピロロンみたいな」


 紗耶香ちゃんが私の耳元でそう囁いた。


「何かレベルアップかな? 宿に帰って確認しよ」

「うん!」


 結局私達は赤星の宿に連泊することになってる。


 夕方から夜8時くらいに終わる公演だったので、会場近場の酒場も既に盛り上がっているのを、私は横目でチラッと確認した。


「紗耶香ちゃんの劇も無事終わったし、私達でプチ打ち上げしよっか」

「え? でも、カナデっち、今から料理すんのキツくない? あ、食堂のご飯?」

「私がお惣菜を出すの。スキルのアレで」

「マ? いいの? 惣菜はちょっと贅沢じゃない?」


 確かに材料買って自分で料理を作る方が安い事が多いけどね。


「トイレ休憩中にこっそりリストをトイレで見たら何か夕方のタイムセールやってて、決済までやってる。

後は商品の受け取りボタン押すだけ」


「マジか!? タイムセールとかがあんの!?」

「タイムセール!」

「そうよ、コウタ、紗耶香ちゃん、二人とも、時間がある時にマメに覗くと良いわ」


 お惣菜関連が100円引きになっていた。


「む。分かった!」

「りょ!」


 私達は食堂兼、宿屋に着いた。



「じゃあ今夜はコウタの部屋で打ち上げやろ! あと、紗耶香ちゃんのステータス確認!」


「いいけど、何で俺の部屋?」


「パーティーの終わりに、さあ自分の部屋に戻ってと言われ、一人でトボトボ帰るの可哀想な気がするから」

「そ、そういう気使いか……」

「あはは! カナデっち、さりげ優しい」



 私達はコウタの部屋に集まった。


「まず、紗耶香ちゃんのステータスを確認しよ」

「うん! あ! 商人レベル1の隣に女優レベル1が新しく付いてるんだけど!」

「え!? 女優!? 凄い!」

「アタシ臨時の代理なのにウケる!」


「今回は交渉もついてるじゃないか! おめでとう!」

「それに魅力数値が72だったのが80までいってるよ!」

「何か知らんけどやった! 今日は祭りだね!」


 よし! と、ばかりに私はショップ画面を呼び出し、精算済み商品を受け取った。


「コロッケだ! 唐揚げとおいなりさんもあるし、ジュースも!

ありがとうカナデっち! 後でお金払うね!」


「今日は私の奢りでいいよ」

「今日臨時収入あったのはアタシだよ! ちゃんと出すから!」

「そ、そう? ありがとう。

あ、プチウインナーパンの袋詰めは明日の朝食べる用に買っておいたわ」


「おお!」

「カナデっち、えらーい!!」


 ミニロールパンにウインナーが挟まってる可愛いパンだ。


「コウタの分を袋に取り分けて渡しておく? 朝、私達と一緒に食べる?」

「俺多分朝早いから今、貰っておく。ありがとう」


 私はコウタの分を取り分けて渡したら早速アイテムボックスに入れていた。

 その方が傷まないものね。


「ピザと焼き鳥も買うか悩んだんだけど、流石にお金使い過ぎても今後が怖いのでね」

「いーよ、十分だよ! グレープジュースもあるし!」


 私は食堂で借りて来たコップにジュースを注ぎ、お皿に惣菜を取り分け盛り付けた。


「俺はキャンプ用のコップ持ってるけど、他の食器やコップも買った方がいいかもな」


「あ、私異世界の市場にも興味ある」

「アタシも!」


「俺はせっかくなので市場で何か売ろうかなって。売るなら先に商人ギルドに登録がいるけど」

「そういや商人ギルドがどうとか話してたね」

「私、女優やった時、手持ちにあった色付きリップつけてたら劇団の人にめちゃ綺麗だって褒められたんだ。

似た色のリップか口紅を市場で売ってみようかな」


「化粧品は単価高くないか?」

「金物だって高いんじゃ?」

「あ、閃いた」

「何? カナデっち」


「昔の人って、貝殻に口紅入れて無かった? 市場で貝を買って食べた後に殻を、貝を綺麗に洗ってさ、そこに口紅ちょっとずつ入れて売るとかどう?

一本丸ごと売るより、安く売れる気がするし、何よりあの元の容器のままで売ると悪目立ちするだろうし」


「ああ! カナデっち頭良い!」

「それは容器代が浮くな」

「貝料理自体は下の食堂で見たから、海はそう遠くない場所にあるはずなんだよね。

冷蔵庫も魔道具とやらで存在してたし」


「あ、ところで、俺、他にもやってた人がいたから真似して、お風呂でどさくさに下着洗って来たんだけど、洗った状態でこっそりとアイテムボックス入れたんだよ、窓辺に干して良い? 

後でバスタオルで下着は見えないように視界塞ぐから」


「ど、どうぞ」

「りょ」


 コウタが窓辺に洗濯物を干してる間、私と紗耶香ちゃんは扉の方を向いた。


「てか、風呂屋で下着洗う発想は無かったわ。サヤも洗濯しないと着替え使い切るわ」


「嫁のいない独身男性は割と風呂屋で洗濯する人多いのかな?

女湯でそんな事してる人はいなかったよね」

「洗濯は見てない、ぽろんしてる女性達のおっぱいはチラッと見たけど」

「お……っ!?」


「あ、ごめん、コータ君、男子そこにいたんだわ」

「忘れないでくれ!」


 背後からコウタがここにいますと叫んだのが聞こえた。


「え、アタシらはどうしよう、明日朝一でタライ借りて、洗濯して、それから市場行きかな。

あ、干し場はどうすんの? 借りる?」


「日本のブラやパンツは目立たないように部屋干しがいいかな?

紐と……あ、コウタ、針金ハンガーと洗濯バサミ買えるか後でリストで見て!」


「分かった! もうこっち向いても良いぞ」


 青いバスタオルが紐に引っかけて干されてる。

 どうやらその向こうに下着を干しているようだ。


「えーと、洗濯バサミとハンガー。あ、金属部分が有るせいか、リストにあったぞ、セーフ!!」


「やった! コウタそれ! 買っといて!」

「分かった」


「あれ、コータ君、その洗濯物ひっかけてる紐はどっから出たの?」


「部屋で干す客が他にも居るのか、ベッドサイドの引き出しに入ってたぞ。

窓付近には紐がくくれる釘も有るし」

「マ? 後で女子部屋もちゃんと見よう」

「そうだね」

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