第6話 お買い物とハンバーグ

 最初の仕入れで意見を出し合う相談中、コウタが急に思い出したと、充電器を出した。


「とりあえず、充電機を日向で充電しといたから、使って良いよ、はい」


 コウタが貸してくれるのはソーラーパワーでスマホを充電出来る優れものだ。


「「ありがとー」」

「紗耶香ちゃん、先に使っていいよ」

「マ? カナデっち、ありがと!」


「で、さっきの議題、何を仕入れるかだけど……」


 コウタの話に顔を上げた紗耶香ちゃんが挙手した。


「ハイハーイ! ちょい思いついた! 下に食堂あるじゃん? 

材料持ち込みで使わせて貰う代わりに賄い作るって交渉してみようか? 

運が良ければ味が気に入って、食堂で新メニュー売らせて貰ったりとかワンチャン可能性有るんじゃないかってさ。

集客に繋がるなら食堂側にも利点あるっしょ?」


「賄いっていうか、デザートでもよくない? 

チョコやアイスなら勝ち確じゃない?

特に甘い物好きの女性に特攻効果有り」


「かなでっち! それ、すっごく良いんじゃない!?」


「二人とも、待て。いきなりアイスやチョコは強すぎないか? 

初手で秘奥義出すレベルでは?」


「そ、そう? そっか、いきなり強すぎるカードを出すのもアレか」


 私は意気消沈したけど、確かにもっと慎重になった方がいいかも。


「それにチョコとか仕入れ先を聞かれた時に、どう誤魔化すか問題も有るしな」


「商人ならそこは企業秘密でいけそうな気もするけど、手に入りそうな素材の料理から攻める? 

スパイスくらいなら企業秘密で通すとして」


「カレーとかならイケるかなぁ? アタシ、カレー好きだし」


「でも賄いだろ? 辛いの苦手な人もいるかもしれないから、無難にハンバーグとかはどうだ?」

「そうだね、ハンバーグくらいなら」


 私と紗耶香ちゃんは頷いた。


「てか、こっちの世界は冷蔵庫と冷凍庫あるのかな? 

食堂で見せて貰おうか?」


「そうだね。私達のアイテムボックス内なら溶けたり傷んだりはしないだろうけど、売るために食堂に置く事もあると考えたら……」


 私はそう言った後で、自分が今、椅子代わりに座ってるベッドのシーツを無意識に撫でさすると、手触りはあんまり良くなかった。


「シーツごわついてるし、ちょい黄ばんでるかな?」

「異世界の安宿だから、贅沢は言えないぞ」

「サヤのスキルがコスメ限定ではなくてドラッグストアに有る物ってのなら柔軟剤や漂白剤も買えたかもしれないのにな〜」


「でもそれはそれで、ここらの水源を汚染するの可能性が怖いよ、化学薬品的な物は」


「あー、そういや、その問題があったね。てかさ、汚れを落とす繋がりで思い出したけど、お風呂に入りたい。でもさりげこの宿、お風呂なくない?」


「あー、そうね、お風呂入りたいね。

宿の人に言えば大きな樽にお湯入れて持って来てくれたりするのかな?」


「安宿にそんなサービスあるだろうか。

それよりこの辺、お風呂屋さんはないのかな? 

ローマのテルマエレベルの物が有れば良いけど」


「それも聞いてみる? 

こういう場所じゃお風呂って社交場の可能性も有るよね。

漫画で読んだ知識だけど」


「じゃあお風呂の前にとりあえず、私達の夕食用と交渉用の賄いハンバーグの為にひき肉と玉ねぎと塩胡椒と砂糖、パン粉と卵、油、ケチャップ、マヨネーズ、ソースを日本円で買うよ?

あ、ナツメグとかは節約で省く」


「パンとレタスとチーズも買えばハンバーガーになるぞ」

「いいね、野菜も大事だもんね」


 そうね、パンも付ければちゃんとした食事になるよね。


「支払いじゃひとまず割り勘で。使った金額はスマホのメモに書いとこう」

「りょ」

「分かった〜」


 私はステータスを開いて食料品リストを呼び出し、必要な食材を選び、支払いボタンを押した。


「わ、魔法陣からトレイ出て来た! これにお金入れるんだね!」


 恐る恐る、魔法陣から出た長方形のトレイにお金を入れてみた。


「ちゃんと数円でもお釣りくれるんかな?」

「……あ、お釣りもちゃんとくれたわ」


 魔法陣からトレイに乗って小銭が出て来た。


「奏、お買い物画面の商品受け取りボタンが光ってるぞ」

「はい! ポチっとな!」


 私は意を決して、空中に映し出されるタッチパネルのようなものの商品受け取りボタンを押した!


 魔法陣が光ってダンボールが出て来た!


「「「出た──っ!!」」」


 我々三人の興奮した声がハモった。


「カナデっち! ほら開けて、開けて!」

「オッケー!」


 バリバリビリ──ッ! と、私はガムテープを剥がして中身を出した。


「よっしゃ! しっかり入ってるな!」

「ねえ、これ、ガムテープの封いる!?」


「落ち着いて、紗耶香ちゃん。

箱の蓋がパカーンて開いた状態で届くのも微妙じゃない?」

「ん〜〜それもそうか〜〜」


「あ、肉は葉っぱみたいなのに巻かれてて、調味料系は素焼きの壺やレトロっぽい瓶に入ってるっぽいね。

ちょっと可愛い」


 私は瓶にラベルがないので、匂いを嗅いでみたり、手に数的垂らして味を確認した。


「わざわざこっちの世界風の容器に入れ替えする手間を省いてくれてるのかも」


「日本語で塩とか、マヨネーズとかラベルに書かれたまま来られたら、確かに地味に困るもんな。

万が一、こっちの人に見られた時に」


 コウタの懸念は私も分かるわ。


「よし、これ持って、下の食堂の主人に交渉ね、紗耶香ちゃんの交渉スキル会得の為に、次の交渉は頼んだよ」

「りょ!」


 紗耶香ちゃんは任せろとばかりにグッと親指を立てた。



 夜になると宿の下にある食堂は酒場に様変わりし、店前にまでテーブルセットを出していた。

 冒険者風の人達で賑わい、酒と肉料理を楽しんでいた。


「あの〜、ご主人。皆さんの賄いのおかずを用意するんで、持ち込みの材料で料理してもイイですか?」


 紗耶香ちゃんは笑顔で、厨房の料理人のおじさんに向けて、可愛いらしくコテンと首まで傾げて交渉をした。


「なんだ、俺らの飯まで作ってくれるならありがてえ話だ、そこの端っこ使って良いぞ」

「あざまーす!」

「「ありがとうございます」」


 我々も一応重ねてお礼を申し上げておく。

 好感度稼ぎだ。


 厨房でハンバーグを作る。

 アイテムボックスの偽装カバンの存在はもう荷運びで知られてるので、カバンから出してまた偽装。


 お肉は大きな葉っぱのような物に包まれた上で紐で結ばれていたので、紐を解く。


 あの日本でさんざん見てきた、白いトレイの上にラップの状態だとこちらの人が見た時に、見た目に違和感があり過ぎなので、包装は変えてくれてるようだった。

 見知らぬ通販担当者の方、ありがとうございます。


 ダンボールはそのまんまダンボールだったけど。


 あ、冷蔵庫は魔道具として存在してた。良かった。

 

「サヤ、料理はチャーハンとか目玉焼きみたいな簡単なのしか作らないから、ハンバーグの作り方、不明なんだ。カナデっち、アタシでもやれる事あったら指示して」


「分かった、じゃあ紗耶香ちゃんはレタスを洗って、千切って」

「りょ」


「奏、俺はハンバーグ作れるけど」

「コウタはそう言えば料理出来る男子だったんだわ! じゃあ一緒にハンバーグ捏ねよう、厨房の人の分もあるし」

「分かった」


 レタスの準備が終わった紗耶香ちゃんが厨房の人にお風呂屋が近くにあるか、聞いてみたら、大きめのがあるとの事だった。

 良かった!



「……出来たよ〜〜」


「どうぞ、皆様、パンなどと一緒にお召し上がりください」


 コウタが執事のような丁寧さで宿にいる主人の料理人と女将さんと、ウェイターとウェイトレスの分をお出しした。


 賄い用は皿の上にレタスを添えてハンバーグがのってる。


「お、こりゃあ、美味いな!」

「フォークで割ったら肉汁が溢れ出したわ、美味しそうじゃないの」

「あ、本当だ、凄く美味しい」

「かかってるソースも美味いな」


 ケチャップとウスターソースをブレンドした物だ。


「レタスにかかってる白いのも美味いな!」


 マヨネーズである。

 厨房の人はライ麦パンのような物と一緒に食べていた。


「じゃあ、アタシ達も食べて来ますね。お皿とかお借りします」

「あいよ! ご馳走さん!」



 我々は本来は客なので、厨房から出て客用のテーブル席に移動した。


「はい、パンと、チーズとレタス、調味料はここに置いとくからね」

「りょ」


 丸いパンでハンバーグとレタスとチーズを挟んでハンバーガーにして食べる。


「……うん、美味しくできてるわ」

「上出来だと思う」

「二人共、料理上手いんだね、マジリスペクト! ゴチになりました!」


「あ、そう言えばハンバーグを新メニューにしてここで売ってもいいかって話は聞かなかったね。

そんな話出る前にこっちに食べに来ちゃったし」


「あ、ごめん。厨房借りてハンバーグ作った所でミッションクリアした気になってたわ。

早く食べないとせっかくのハンバーグが冷めるし……」


「でもいちいち料理して売るより効率よく商売出来る物もあるだろうし、焦る必要は無い」

 

 我々は食欲に負けて、交渉がおざなりになった。ウケる。

 まあ、厨房借りて料理はさせて貰ったし、よしとしよう。


「じゃ、後はお風呂よね」

「一人だと知らない風呂屋、超ビビるけど、カナデっちがいて良かった〜」


 異世界のお風呂屋とか初だもんね。分かる。


「俺は男湯なんで別だろうけど、まあ、きっと大丈夫だろう」

「まさか混浴じゃないでしょ。風紀が乱れる」

「コータ君、何かあったらガチめに叫んで助けを求めなよ?」

「わ、分かった」


 コウタは知り合いがいない状態でボッチでの異世界風呂になるので、緊張してるっぽいけど、お風呂は入りたいから、諦める選択肢は無い感じである。

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