動き出す時間



前回、菊池渓谷へ遊びに行った隼瀬達はそこの食事処で偶然にも、行方不明となっていた亮の姉、佳代に遭遇。人の多いとこじゃあれだからと、自分達の車に乗せて話を聞く。



「佳代さん、私も同じく弟を男として愛している者として聞きますが、なぜあの2人の前からずっと逃げ続けるんですか?」



「逃げ・・・そうね、私は逃げた。そっか、暁美ちゃんは覚悟できたんだ」



3人が同じ指輪をしている事に気付き、自分もあの時ちゃんと春美の話を聞いていたら・・・と後悔の涙を流す佳代。



「おばちゃん、なんでお父さん達に手紙ひとつもずっとよこさんと?2人ともずっと心配しとっとよ」



「だって暁美ちゃんの言うたごつ私はあん子達の前から逃げて・・・春美ちゃんに「お姉ちゃんもずっと一緒に」って言われたつに、亮にもはっきりふられたわけじゃなかったつに勝手に私が思い込んで・・・・・・そぎゃん私があん子達に受け入れてもらえるわけなかって・・・・・・」



「・・・だってよ、お父さん」



「え?」



実はこの話の最中、冬未はこっそり亮に電話を繋いでおり、全部を聞かせていたのだ。そして、亮はここから佳代と2人きりで話す。



『姉ちゃん・・・久しぶりね。この20年、僕も春美もずっと探しよったつよ。それに20年前の僕の優柔不断のせいでこぎゃんなったっだけん、僕も春美も姉ちゃんの逃げたとか思とらんよ。あきちゃんも冬未も気持ち分かるけんこそそぎゃん言いよるだけだと思うけん』



『あんたの優しかとこ変わらんね、あんた達の義理の息子の隼瀬ちゃんもなんか亮のそぎゃんとこ似とる』



『ふふ、はあちゃんなよか子だろ?ほんで姉ちゃん、僕も春美も会いたいけん3人について



『亮・・・わかった、私ももうあんた達から逃げるとはやめる』



『うん、なら後で』



電話を切って、皆まで言わないまでも3人にも一緒に帰りましょう、ついてきてくださいと言われ、3人の車の後ろについて西久保へ向かった佳代は、20年ぶりに亮と春美と3人で話す。



「「(お)姉ちゃん、久しぶり」」



「本当にね・・・ごめんなさい2人とも、ずっと心配してくれとったなんて思わんで・・・・・・」



「そらいきなり消えて生きとるか死んどるかも分からんだったっだけん当たり前たい。まさかずっと熊本におったとはね・・・灯台下暗しって感じよね、あっくん」



「そうねえ、それも冬未の顔で僕達の娘て気付く辺りが姉ちゃんらしかね」



「だってあの子昔の春美ちゃんそっくりだったけん・・・そっか、もう2人とも子供が結婚する年になったか」



「お姉ちゃんはこの20年で結婚したりした?」



「んね・・・あんた達の顔思い浮かんでなかなか踏ん切りつかんでね」



「そっか、よかった」



「え?なんがよかね春美ちゃん」



「ん、いや、あっくんの事今でもちゃんと思い続けとるんだなって。ねえお姉ちゃん、今からでん遅にゃあけん、私達と一緒に・・・」



「僕からも・・・僕のせいで姉ちゃんばこの20年苦しめたけん・・・だけん、帰ってきて!」



「「お願い!!」」



「あんた達・・・もう、相変わらず私のおらんとダメね2人とも」



「「(お)姉ちゃん!!」」



年甲斐もなく佳代に抱きつく2人。ともあれ、20年前から止まったままだった3人の時間はこの日よりまた動き出したのであった。






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