バレンタイン 後編




バレンタインデーの夕方、花岡山で絶景を堪能した後、じゃあ次は私が行きたいとこ連れてくねと山を降りて、目的地も告げずに車を走らせて、熊本市西北部の海沿いの町、河内まで隼瀬達を連れてきた暁美。



「お姉ちゃんどこさん行きよるかと思いよったら、山の次は海か。ここに車とか止めて景色見れるごつなっとっとね・・・あっちに見える明かりは島原とかの?」



「うん、夜の海もよかでしょ」



「僕もこっちん方てあんま来たこんにゃあし新鮮ね、長洲からフェリー乗って雲仙行く時もこっちからは来とらんし」



「まあ普通に家ん方からなら回り道だけんね。ほんでここで海見て、ほんでせっかくこっちまで来たけん玉名の温泉行こか」



「「おお、温泉!」」



「てか暁美、よう色んなとこ知っとるよね」



「18で免許取ってから運転楽しくて、あんた達も連れてったりしてあちこち行きまくったけんね。なら行こか」



ちなみにここからだと隣町となる天水の草枕温泉の方が近いのだが、そこは大浴場しかなかったなと思い出した暁美は、玉名は立願寺りゅうがんじにある比較的最近の2005年10月にできた大きめの温泉施設へ行く事にしたのだ。

そして、玉名市街からほど近いそこの家族風呂を堪能する3人。



「やっぱ大浴場よりよかね。暁美、連れてきてくれてありがとう」



「まあいつもアパートの狭い風呂だけんたまにはね」



「はは、確かに家で3人で入ってこぎゃん足伸ばせんしね。私は隼瀬と密着できて好きばってん」



「私も。上がったら下の売店でアイスかなんか買うか」



「「さんせーい」」



で、2階にある家族風呂から上がって、下の大浴場受付前の売店で、同市横島町産のいちごのアイスを食べる3人。



「はぁ、幸せ」



「「あんたのそん顔で私達も幸せたい隼瀬」」



「その文字数でよう息の合うね・・・てか暁美、こぎゃん遅なると思わんけんみやこば心配しよったら、お義父さんばうちに呼んどったつね」



「うん、元々今日はこぎゃん予定立てとったけん、うちんお父さんお母さんにも電話したばってん明日なんかあるけん来れんて言わして、亮おっちゃんと春美おばちゃんに電話したらおばちゃんな分からんて言わしたばってんおっちゃんな2つ返事でね、隼瀬にもよろしくて」



「ほんとよか人ね・・・」「って私は?!実の娘の私にはよろしくせんとかい!」



「まあ冬未はそんだけ信頼されとるって事だろたい」



「そぎゃんかな・・・あ、て事はお姉ちゃん、今日はまだまだ?」



「当たり前たい。今日は愛の日よ、よっと知らんけど」



「知らんのかい」



でも冬未も隼瀬も今日みたいなデートは初めてで、まだ帰りたくないなという思いもあり、暁美に従う。で、温泉を出た3人はせっかく玉名まで来たしと、ラーメンを食べに行く事にした。



「ラーメン500円、チャーシューメン650円か(今は200円くらい高くなったが2007年頃は玉名のどこの店もラーメン500円前後だった)・・・」



「炒飯もうまそうばってんあんまたこつく(高くなる)とね」



「いつも外食行く度思うばってん、隼瀬も冬未ちゃんもそぎゃん値段とか気にせんで好きなだけ頼みね」



「「いやあ、2人でやっとった時の癖で」」



「もう、自分で言うともなんばってん私お金持っとるけん、あ、ばってんここの炒飯結構量あるけん1つにしとこね」



今、3人が食べに来ているラーメン屋、言ってしまうと玉名市高瀬にある千龍は元々なんでも普通盛りで結構な量があり、筆者が父親と2人で行って食べきれず持ち帰った経験もあったりする。で、冬未と隼瀬がチャーシューメン、暁美がちゃんぽんを頼んで、皆で食べるように餃子と炒飯を頼む。



「ほんなこて炒飯多かね・・・てかお姉ちゃん、これ知っとったて事は来た事あるとよね」



「うん、会社に玉名ん人のおってね、ここが一番うまかて言わして。それにラーメンもばってん、こんちゃんぽんとかもうまかつよ」



ちなみにここのラーメン屋行ってみたいと言う方に説明しておくと、暁美の頼んだちゃんぽんは2022年に筆者が行った時点ではメニューから消えてました、他にもこの時代からコロナ禍を経て人手不足などからメニューは大幅に減ったようです。そして、なんだかんだ玉名のラーメンは初めて食べる隼瀬と冬未はうまかうまかと食べ進め、暁美も連れてきてよかったと微笑む。



「僕これ熊本のラーメンより好きかも」



「私も。なんか思ったほどどっかりはせんし。こってりした中にあっさり感もあって・・・ただこの後歯磨きせんと・・・あ、だけんお姉ちゃん旅用の歯ブラシやら香水やら持って来させたんか」



「そうたい。まあすぐには匂いとれんどばってん・・・あー、なんかこん上の野菜だけでだいぶ腹溜まってきた」



「お姉ちゃん、食べきらんなら私食べるばん。まだちっと足りんし」



「僕にもちっとはいよ(ちょうだい)」



「あんた達よう食べるね・・・」



いくら育ち盛りといっても、この子達本当によう食べるな、隼瀬はその小さい体のどこに入るんだろと不思議そうに見つめる暁美である。そして、冬未も隼瀬もお腹いっぱいになってラーメン屋を出て、暁美はそっち系にしては少し豪華なホテルに2人を連れていく。



「ここが最終目的地、今日は声とか気にせんでよかけんね」



「なんだかんだ初めて来たなこぎゃんとこ、じゃあ今夜は一晩中隼瀬ば・・・」



「そういう事」



「一晩中ね、もう僕も覚悟してます」



「「おぉ、言うたな」」



というわけで、2人の妻達といつになく甘いバレンタインの夜を過ごす隼瀬であった。































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