バレンタイン 前編



2007年 2月14日 朝



出かける前に暁美の分のチョコを渡し、冬未の分は学校で渡す事にした隼瀬。



「はい冬未、これはちゃんと待っとってくれたご褒美」



そう言って、教室で皆の前でキスをして口移しで冬未に食べさせる隼瀬。それを見た咲良と充希も同じ事をして、甘々な両夫婦にクラスメイト達もとろけてしまう。



「はあちゃんてあぎゃん大胆な子だったかな・・・よし、私達もしよ、広海」



「恥ずかしい・・・とか隼瀬達見よったら言うとれんか」



で、この口移しが他のカップルの子達、今まさに告白して結ばれた子達にまで伝わって、始業前の教室中に甘い香りが充満していく。そしてそんな光景を芙美子はいつ中に入ろうかと見守って、最後に冬未が満足して終わったところで、そんな生徒達へのチョコを持って教室へ入る。



「みんな、おはよ〜。今日はバレンタインだけん、先生からも皆に、男子も女子もクラス全員分、チョコ持ってきたので、配りたいと思います」



「先生それ手作り?」



「そうよ、流石に皆作ってくるどて先生が買ってくるわけいかんたい」



「えー、なんか先生の触った、体液とかついたもん隼瀬に食べさせるとか複雑」



「体液て変な言い方やめんね冬未ちゃん?!ちゃんと清潔にしてます!それにあんたとお姉さんがすぐ上書きするでしょが」



「先生もなん言いよっとね、実際今日帰ったらするばってん」



「冬未も先生もその辺で・・・」



妻と教師の会話に居た堪れず顔を真っ赤にする隼瀬。して、午前の授業が終わって昼休み、いつになく隼瀬にベタベタする冬未。



「義理だけんて、皆隼瀬に手渡ししてきて・・・私がちゃんと毒味してやるけんね」



「もう・・・」



「冬未、やりすぎだろ。隼瀬ちゃん困っとらすたい」



「咲良もそぎゃん言うて、みっちゃんにもろた義理チョコ全部横から取り上げよったたい」



「だってそら私もなんか・・・」



なお、隼瀬と充希への義理チョコを目の前で取り上げられた女の子達へは彼らからちゃんとフォローはしていた。



「隼瀬、お互い大変な人と結婚しちゃったね」



「そうね・・・それに僕はこれがもう1人おるわけで・・・まあばってん僕達的にもこれがなんかよかよね」



「うん、そんだけ思ってくれとるのは分かるしね。ありがと、咲良」



「ありがと、冬未」



可愛い夫達の笑顔に、アメリカのシットコムドラマの観客のように「はぁ〜ん」と声が漏れる冬未と咲良。



放課後



仕事を早めに切り上げて先に帰っていた暁美が隼瀬達を迎えに来て、帰ってみ隼瀬も冬未も着替えてから、みやこにまたちょっと出かけてくるねと声をかけてデートに出かける3人。まず来たのは市内定番のデートスポット、花岡山だ。



「なんかここ夜景のイメージばってん、こぎゃんしてまだ明るい時間に見る景色もよかね」



「隼瀬は昔からここ好きよね、こまか時から私が抱っこして景色見せよったもんね」



「うん、独鈷山もそうばってん、ここから見下ろす熊本はなんかいつもと違うごつ見えるど?」



「確かに、私も初めてお姉ちゃんに連れられて来た時は感動したなあ。今見ても、あん頃から変わったもんも変わらんもんもあって・・・」



隼瀬と冬未の記憶では90年代前半、幼稚園の頃から、暁美にとってはその少し前から、ずっと熊本を見下ろしてきたこの思い出の場所で感慨に浸る3人であった。そして、山を降りて、車のハンドルを握る暁美は少し遠出しようと言って、市中心部や自分達の住む水前寺、出水、江津などのエリアからは逆となる方向へ車を走らせる。

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る