新たな家族



まだ残暑が厳しい中、比較的涼しい早朝にジョギングをしていた隼瀬と冬未は下江津湖の近く、小さな川にかかる橋のたもとにポツンと置かれたダンボール箱を見つける。覗いてみると、新聞紙が敷かれた上に小さな子猫が怯えたようにか細い声で鳴いていた。



「捨てられたんかね・・・だいぶ弱っとう」



「かわいそかね・・・ばってん病院連れてくにもこぎゃんはよから開いとるとこなんかにゃあし・・・」



「この子いつからここに・・・よし、ちょっと冬未その子見よって」



そう言ってどこかへ走っていってすぐに袋を持って戻ってくる隼瀬。



「たまたまコンビニに猫ちゃん用のミルクあったけん・・・ほら、こんタオルで包んで・・・」



子猫を抱きかかえ、スポイトもないので自らの指でミルクを与える隼瀬。



「よかった、飲んでくれた。冬未、この子1回連れて帰ろ」



「まあうちは一応ペット可ばってん、トイレとかちゃんとせにゃんたい」



「そうね・・・さしよりこんまま連れて帰ってから後で病院連れてってからね、ほしたら車あった方がよかけん姉ちゃんに話してから・・・」



「そうね・・・」



そして、捨てられていた状態のまま一旦アパートへ連れ帰って、ケージもないのにバイクで病院へ連れて行ったりするのは難しいため、今日仕事が休みの姉に事の次第を話し、暁美の車で一旦、動物病院へ連れていってもらった。



「おそらくずっと餌を貰えずにいたんでしょう。見つけて連れてきてくれてよかった、それにミルクも与えて少し元気が出てきたようですね」



「よかった・・・先生、ありがとうございます」



「いえいえ、こちらこそ獣医として、ひとつの命を助けてくれてありがとうございますと言いたいですよ。今後ワクチン接種などもありますので定期的に連れてきてください」



そして、病院を出てその子のためのものを色々買って、アパートに戻る。



「ほんと、助けられてよかった・・・姉ちゃんも急にごめん、ありがとう」



「んねんね、あんた達がそういう性格なのはお姉ちゃん分かっとるけん。ほんで、この子名前どうすっと?」



「「あ、決めとらんだった」」



「見つけてから今までずっとバタバタだったけんね・・・どうしよかね」



結局、暁美が帰るまでには決まらず、2人して悩みに悩んで、夜になってその茶トラの女の子の名前はミャーミャーと鳴く事から「みやこ」に決まった。2人がみやこと呼ぶと、心做しかみやこも嬉しそうにミャーと鳴いて隼瀬の膝に乗る。



「なんか気に入ったごた」



「よかったね、これでみやこも本当に僕達の家族だ」



「うん、私達の長女や」



2人はこの日から新たな家族、みやこを我が子のように大事に大事に育てていくのであった。




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