新生活



2006年 7月



ジメジメっと蒸し暑いこの頃、隼瀬と冬未は姉、暁美にとある相談をしていた。



「2人暮らし?籍入れてからでよかたい」



「ばってん冬未も今でん家に入り浸っとっとは寂しさもあるけんで・・・ずっとここおっても気遣うどし、そんなら2人で暮らして、帰ってきて必ずどっちかがおる感じにしたら・・・・・・」



「・・・冬未ちゃん、亮おじさんと春美おばちゃんはなんて?」



「お父さんもお母さんも結婚前に同棲するのはいい事だって」



「あーそういやあん人達もあんた達と同じ・・・で、隼瀬。お父さん達にこの事話した?」



「うん、冬未が望むならて・・・そんで、一応姉ちゃんにも相談しろって事で」



「なるほど・・・まあ親達が賛成なら私がどうこう言う事もなかばってん・・・ただ、あんた達にひとつ条件がある」



「「な、なんね」」



「もし、2人で生活する上でどうしてもきつくなったら、絶対帰ってくる事」



「「そんだけ?」」



「うん、まああんた達もそろそろ私から離れた方がよかかなて思いよったし、いや、逆か。こんままだと私があんた達から離れられんくなるけん」



「「(お)姉ちゃん・・・・・・」」



その姉の覚悟の決断に深々と頭を下げる2人。そして、この後すぐに2人の新居の入居日も決まって、家を出る日・・・・・・



「隼瀬、冬未ちゃん、これ持っていきね」



そう言って押し付けるように渡したのは、印鑑となぜか冬未名義の銀行預金通帳とキャッシュカード、そして暗証番号のメモ。新居に着いてからそれを開いてみると、高校生の2人の今まで稼いだバイト代貯金数十万の倍以上の額が刻まれていた。



「姉ちゃん・・・」



「これは・・・簡単に帰ってくるなよって事か」



「てか姉ちゃんずっと本当にお金使ってなかったんだな。僕たちの為に・・・」



「凄いねやっぱあの人」



その姉の自分達への思いに2人して双眸を崩す隼瀬と冬未であった。そして、その次の日の学校。



「え、隼瀬と冬未ちゃん同棲始めたん?おお、ええなあ。これから毎日あれたい」



「あれてなんね、充希」



「あれはあれたい。隼瀬も男子なら分かっどたい」



「ば、ばか!充希はそぎゃんこつ言う子じゃなかったでしょ!」



「そらあっちん世界じゃそぎゃんかもばってん、俺こっちの世界の俺ばい」



「あ、そっか・・・うーん、そぎゃんとこはまだ慣れんなあ」



「まあ確かにあんた達の場合はだいたい冬未ちゃんの方がケダモノっぽそうよね」



「ちょっとみっくん、やめんね。でね、あれならみっくんと咲良も遊び来んね?」



「あー、よかね。充希達にも僕達ん部屋見てほしかし」



「ばってん本当、邪魔んならん?」



2人で暮らし始めたばかりで、邪魔しちゃ悪いと咲良も充希も言うが、隼瀬も冬未もそんなのは気にしない性格で、何より親友に遊びに来て欲しいと純粋な思いで全然大丈夫だよと答える。




放課後



「おお、案外広いね」



「でしょ?これでん家賃は駐輪場とか管理費とか光熱費も全部合わせて3万6千だし、この辺にしては破格よね」



不動産屋で間取りを見た瞬間、内見もしていないのに、ここにしようと隼瀬が言って決まった部屋を冬未も大変気に入って、都心から離れているとはいえ駅近でこれは安いよねと自慢気に咲良に語る冬未。で、この部屋はあっちの世界から来た隼瀬の影響で大変かわいい仕様になっており、充希は眩しそうに目をパチパチさせる。まあこっちの隼瀬も昔から周りに女の子が多い影響で多少そういったところはあるが。



「目ぇチカチカすっ・・・ほんと、隼瀬と冬未ちゃんってなんか逆に産まれて来たって感じよね」



「まあ確かに隼瀬は昔っからかわいかばってん・・・あ、2人ともご飯食べてくど?」



「ちょっと待って」「そん言い方だとなんか冬未がするごた感じ・・・」



「な、なんね、何か不満?!」



充希は以前、中学の時に隼瀬のついでに貰った義理チョコの宇宙の真理に触れてしまいそうな味を思い出し、咲良も充希から聞いたその話を思い出して冷や汗をダラダラとかく。果たして、咲良と充希は無事にこの部屋を出れるのだろうか・・・・・・




つづく

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