お姉ちゃんとして




6月のジメッとしたある日、学校とバイトが終わった隼瀬が向かいの家に冬未を送り届けて帰ってきたところを姉が玄関で待っていた。



「隼瀬、ちょっとよか?」



「え、なんね、僕なんか・・・」



「んね、ちょっと・・・」



そのまま姉の部屋に連れられ、どうしたんだろうとビクビクしている隼瀬に、暁美は一呼吸置いて声をかける。



「隼瀬、冬未ちゃんと付き合ったばかりのあんたに言うともあればってん・・・もう言うね。お姉ちゃん、あんたが好きだった」



「僕も姉ちゃんは好きよ」



「いや、そのあんたの言う好きと違うちゅうか・・・冬未ちゃんと一緒の気持ち。私はあんたば1人の男として見てしもとった」



「え・・・そ、そんでそれば今言うたつは?」



「あんた達の「お姉ちゃん」として踏ん切りばつけるため・・・のはずばってん、なんだろねこれは・・・」



そう言った刹那、隼瀬を押し倒す暁美。



「姉ちゃん?」



「ごめん・・・弟離れできん、実の弟にこんな事したくなるお姉ちゃんで・・・・・・」



「・・・・・・どっちの世界でも姉ちゃんは姉ちゃん、でしょ?」



その姉ちゃんに襲われそうになっているのに優しく微笑む隼瀬に更に罪悪感を覚える暁美。



「隼瀬、ごめん、ごめんなさい・・・」



「ほら、泣かんでよか」



自らに覆いかぶさったままの姉の涙を拭って、抱きしめる隼瀬。優しい彼は何も姉のその気持ちを否定しなかった。



「そっか、姉ちゃん全然彼氏とか連れてこんし、それは僕達の面倒見てくれよったせいと思いよったばってん、そうだったつか。ねえ、それっていつから?」



「隼瀬が高校入ったくらいかな・・・冬未ちゃんな気付いとったろばってん何も言わんでおってくれた・・・・・・」



「まあ僕はその辺鈍感だしね。ねえ、姉ちゃん、これは今だけよ」



そう言って、目を腫らす暁美の顔を持ってキスする隼瀬。



「っ・・・隼瀬、なんか上手い」



「まあ冬未が・・・じゃあこれで姉ちゃんも僕ん事は「やだ」



「は?」



「その・・・したい」



「いやいや流石に姉弟で・・・」



「キスは姉弟のキス?」



「そうたい」



流石にその一線を越えてあげる勇気は隼瀬にもなく、そそくさと逃げるように風呂に入る。



(キスだけで満足してもらおうと思ったばってんな・・・流石に冬未も姉ちゃんとそっちの意味で姉妹になるのも嫌だろし、って僕もやっぱ嫌だしな・・・・・・)



そんな事を考え目を瞑っていると、なんだか柔らかい感触を覚え、びっくりして目を開ける。



「どした隼瀬、難しい顔して」



「は?ふ、冬未?!あんた今日は親もおるけん自分家で寝るて言いよったろが」



「いやあ、それがまたお父さんもお母さんも急に仕事入ったとかで、やっぱ1人だと寂しいし・・・ほしてふらっと来たら今隼瀬が風呂入っとるけん一緒入りねってお義母さんが」



「そうね・・・あーびっくりした」



「てかなんで胸まで隠しよっとね。向こうの世界じゃ男子がそうなん?」



「そうたい!てか冬未は堂々としすぎ!」



「なーん、初めて見るわけじゃなかっだけん。ほらほら」



「なん押し付けよっとね変態」



「ふふふ、可愛い」



そうしてなんだかんだイチャイチャしながらお風呂時間を楽しんで、若干のぼせ気味になりつつ上がって、双子のような姿勢でコーラをぐびぐび飲む2人。



「「あーやっぱこれね」」



そして、ご飯を食べて隼瀬の部屋で2人くつろいでいると冬未が妙な違和感を覚える。



「ねえ隼瀬、お姉ちゃんとなんかあった?」



「え、なんで?」



「なんとなく、幼なじみの勘ちゅうか・・・」



「実は・・・・・・」



冬未に隠し立てなどできないと思った隼瀬は、彼女が来る前の姉との一連の流れをありのままに話す。



「そっか・・・お姉ちゃん我慢できんかったか。隼瀬はそれでお姉ちゃんの事、今どう?」



「まあ、なんにしたっちゃ姉ちゃんは姉ちゃんしかおらんし・・・冬未もでしょ?」



「そうね・・・隼瀬がキスしてあげたつもそぎゃん意味?」



「うん、これで姉ちゃんも僕達ん事ばっか気にせんで前に進めたらて・・・」



「隼瀬・・・あんたやっぱ隼瀬ね」



「どゆこと?」



「その優しすぎるとこ、考えすぎるとこ、なんでん背負からいすぎるとこ。どっちの隼瀬もいっちょん変わらん」



そして、そんな隼瀬だからこそ私も姉も惚れるんだと呟いて抱きしめる冬未。

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