勇者に追い詰められた魔王の私は世界の半分をあげるから許して欲しいと命乞いをしたら、そんなものよりあなたが欲しいと押し倒された

シャルねる

第1話

 やばい。やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。このままじゃ死ぬ。殺される。

 どうしたらいい? どうすればいい? どうしたらいい生きられる? どうしたらいい死なないで済む? 


 私は勇者に剣を向けられた状態で、頭を回した。

 ただ、打開策は浮かばなかった。

 魔力を使い切り、体の力ももう出ない。気を抜いたら、今にでも気絶しそうだ。

 部下ももう全部殺された。

 特別部下に思い入れがあったわけじゃない。だって、あいつら、私のこと嫌ってたから。だから、死んだこと自体はどうでもいい。ただ、もう少し後に死んで欲しかった。今、あいつらの一人でも居たら、この勇者を襲わせて、逃げられたかもしれないのに。……くそっ、最後まで、本当に役に立たなかったな。あいつら。

 いや、あいつらの愚痴は今はいいんだよ! 今すべきことはどうやってこの状況を打開するかだ。


 メリット! 何か、私が生きてることによってこの勇者に何かの特を示さないと。

 

「せ、世界! 世界の半分、あげるから! 私が、私が死んだら、今、私の力で抑えられてる種族が動くから、私を殺したって、世界の半分は奪えない! だから、こ、殺さないでください」


 プライドなんていらない。そんなの、死んだらなんの意味もなさないから。

 私はプライドを全て捨てて、地面に手を置き、頭を下げた。

 

「そんなもの、要らない」

「ッ」


 そんな言葉が聞こえてきて、私は思わず息を飲んだ。

 終わった。死ぬ。……今からでも、逃げる? ……無理だ。この勇者から逃げ切れるビジョンが浮かばない。

 そして、私が絶望に打ちしがれていると、勇者は私の顔をゆっくり上げさせて、ほっぺたに手を置いてきた。

 殺される。そう思って、体が震えてきて、涙が出てきた。


「私は、世界なんかより、あなたが欲しい」

「……へ?」


 ……私が、欲しい? ……どういう、こと? 奴隷にしたいってこと? 私、魔王だし、強い……から? ……この勇者に負けたけど。

 いい。それでいい。奴隷でも、なんでもいい。もう、負けた私にプライドなんで要らないんだから。


「な、なるから! 奴隷でも、なんでもなるから! こ、殺さないで、ください」

「奴隷……そういうプレイってこと? もしかしなくても、誘ってる?」

「……へ?」


 よく分からない事を言われて、私は命の危機にあるのに、二度目のそんな間抜けな声が出てしまった。

 何? 誘ってる? 何に? と言うか、プレイって何? 誘う、誘う……部下にってこと? いや、私、自分が奴隷にでもなんにでもなるって言ったよね? どういうこ――

 どういうこと、そう考えようとしたところで、私は何故か目の前の勇者に押し倒された。

 私は今度こそ殺されると思って、勝てもしないのに、抵抗をしようとしたんだけど、上から腕を押えられてしまった。

 魔力も無いし、本当にもう、何も抵抗できない。


「やだ……やだっ、許して……許してください……」


 私は殺されたくなくて、さっきより更に涙を流しながら、そう言った。

 

「もう、役に入りきってるの? ……可愛いよ」

「……なんでも、何でもします。だから、許してください」


 何かを勇者が言ってた気がするけど、私はもう、何も話が聞こえてなくて、ただ、そう言った。

 すると、勇者は私を押さえつけたまま、顔を近づけてきて、唇を重ねてきた。


 ??????????????????


 何、何が、え? なん、なんで? 今、私、き、キス、され、てる……? ファーストキス……い、いや、今はそんなの、どうでも良くて、ど、どういう、こと?


 私が困惑していると、勇者は私とのキスをやめた。

 私はそれによって我に返って、勇者のことを改めて見つめた。

 すると、勇者は顔を真っ赤にして、幸せそうな顔をして、固まっていた。

 

 ……もしかして、逃げられる?

 そう思って、私はゆっくり、私の腕を押えてきてる勇者の腕をどかそうとしたんだけど、それに反応したように、勇者の私の腕を抑えてる力が強くなった。

 

「に、逃げようなんて、してません、から! わ、私は、無抵抗な、奴隷……です」

「……ごめんね。キス、初めてで、嬉しくて、固まっちゃった」


 う、嬉しい? ……あ、あれかな? 私の初めてを奪えて、嬉しかったってこと、かな? ……いや、私がファーストキスだったなんて、知りようがない、よね。

 いや、でも、こんな力がある勇者、だし、分かる、のかな。

 

「せっかく、誘ってくれたし、もっと、これ以上もしたいけど、また、今度にしよ? 私、全部初めてだから、ゆっくり、進めたい」


 分からない。……何を言ってるのか、全然分からないけど、私に選択肢なんて無いのはわかってる。

 だから、こくこくと殺されないために、私は必死に頷いた。

 

「じゃあ、一緒に帰ろっか」


 そう言って、勇者は私の上からどいてくれた。


「……立てない、です」


 ただ、私は立ち上がれなかった。

 だって、ほんとに押し倒された時は、殺されると思って、怖かったから。

 

「あなたも、初めてだったの?」

「え? あ、う、うん」


 キスをされたことを言ってるのかと思って、私は頷いた。

 

「嬉しい」


 すると、一言そう言って、勇者は私の体を持ち上げてきた。

 

「このまま、帰ろっか」

「う、うん」


 よく分からないけど、助かった、のかな。

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