第3話 えりりん登場
「エリーゼって、本当、そういうところあるよね」
「ひゃい?」
突然、知り合いから声を掛けられて、書物から顔を上げた。場所は、日本の道百選に選ばれた通りに面した、図書館内の椅子。春には、ガラス越しに、桜と松のコントラストが青空によく映える。
「ひゃいって、お前は萌えキャラかよ」
「噛んだのお…」
顔を赤らめて、目を逸らす。友人は、隣の椅子に座った。
「あれだよね。エリーゼは、顔は良いんだけど、色気は無いんだよね」
追い打ちをかけてくる友人。
「そうなの…」額に手を当て、体重をかける。「それで、小学生から頑張ってきた習い事のほとんどを頓挫したの、私」
走馬灯が過る。真面目なんだけどね。え、大会出たいの? あなた、才能無いのよ。あ、駄目。涙が。
「泣くなよ…」
さすがに可哀想になってきたのか、えりりんが珍しく優しい言葉をかけてくる。自分の腕を抱き、温かさをかみしめる。
「嘘、えりりんがエリーゼに優しいなんて。雪が降るのか知らん」
「いや、雪なら桜が咲いてからでも降ることあるだろうに」
私は、溜息を吐いた。
「それもそうだね。入学式に雪なんて、ザラにあるものね…」
遠い目。
「それどころか、ゴールデンウィークでも、雪予報が出ることがあるぜ」
一度、えりりんを見遣ってから、うんうんと頷く。
今日は珍しく学校が真のお休み。というのも、私たちが在籍しているのは、一応、進学校だから。昔は、朝講習なんていうものがあって、勝手に休むと先生から電話がかかってくるらしい。ただただ恐怖である。まあ、なんだかんだで、七時間授業の日が増やされて、結果、朝七時台の講習は廃止されたのだ。
そして、高校三年生になると、放課後講習なるものが始まる。長い時には、十時間目まである。さすがに、こちらは、塾に行く子もいるので、サボっても電話はかかってこない。ただただ辛いだけである。頭と心と腰が。
私は、もう一度、えりりんを見た。背が高くて、すらっとしていて、髪の毛も短くて、サバサバしていて。うん、こんな彼氏が欲しい。
「ねえ、えりりん。エリーゼをお嫁さんにしても良いんだよ?」
半ば、本気で言う。
「いらねえじゃ」
鋭い一言。射られた。さすが、弓道部女子エース。県大会で活躍して、東北大会まで行ってきた豪傑である。
「私は、もっと武家の嫁ちっくなのが良いんだ。常に、夫から数歩離れて歩き、いざという時には、風呂敷包みをぶん投げて敵を目眩ましできるような女じゃねえといらねえじゃ」
「うっ…」
それは、無理そう…。それこそ、「ひゃい」とか言って、その場でしゃがみ込んで、ひんひん泣いていそうである。
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