第4話 お話

『お話しよ』とは言っても、話題を用意していない私は「じゃあ、何話そうかな」と、呟いたあと暫しの静寂を呼び込んでしまった。


しかし、目の前にいる少女がアンドロイドだと分かってはいても、つい緊張してしまう。


言動が自然すぎて、ふとした時に人間に見えてしまうのだ。


ほんと、最近の技術は凄い。この子が本当にアンドロイドだったらだけど。


そう思いながら固まっていると、気を遣ってくれたのか、サリアの方から会話を始める。


「じゃあ、私からエリカに質問していっていい?」


「う、うん。 いいよ」


当惑に目をしばたたかせながらそう答えた。


「ありがとう! 答えられなかったら無理せず、その質問には答えられないって言ってね!」


「分かった」


「じゃあ早速一つ目の質問だけど────」


そう人差し指を、キメ細やかな顎にやりながら続ける。


「先ずは、簡単にエリカの一日について教えてよ。何してるのか気になる! あと出来れば、どんな遊びが好きなのかも教えて欲しいな」


「一日の過ごし方と、どんな遊びが好きか……か」


「うん!」


きっと、この質問で会話のレパートリーを増やすつもりなんだろう。

そう思いつつ、私は質問に答えていく。


「え、と普段は、朝起きたら洗顔とうがい、歯磨きを済ませて、朝食終えたら昼まで勉強かな。 そして昼ごはん食べたらDVD見てちょっと休憩して、それからは夜ご飯の時間まで勉強して、夜ご飯食べたら見返ししてお風呂入って寝るって感じかな。


あと、好きな遊びは映画見たり熊さんとお喋りしたりすること」


一日の説明、長すぎたかな。


「ふむふむ! なるほどー! ありがとう!」


サリアがニコッと笑う。

その笑顔が、あまりにも可愛いいから光って見えた。天使みたいだ。


一呼吸程の間を置いて、サリアは続ける。


「それにしてもエリカ、勉強の時間が多いね! 昨日の夜もやってたし! 」


「うん」


「不登校でいる分、後ろめたさを感じて人一倍勉強を頑張ってるって昨日聞いたから、思った事なんだけど、エリカってすっごい頑張り屋さんなんだね!」


そう、もの悲しい表情を浮かべては笑顔を向けるサリア。


「……え」


つい私は、動揺してしまった。


「私、頑張る人大好きだから、エリカのことだーいっすき!」


畳み掛けるように、天使の笑顔を向けてくるサリア。


頑張り屋だなんて、言われたことも思ったこともない私は、ついつっかえてしまったが、その後の『大好き』という言葉に、つい頬を熱くした。


「あ、ありがとう……」


照れながらそう言うと、サリアは「ふふん、かーわいいー」と微笑んだ。


「からかわないで」という私に「からかってないよー! ホントの事だもん!」と返すサリア。


私は言葉を返せなくなり、唸った。


サリアは、また微笑んだ。


そしてサリアは続けて「ヤバい! 楽しい!」と人間っぽいことを言った後「ねーエリカ! もう一つの質問に移っていい?」と聞いてきた。


楽しそうだと感じながらも、私は「いいよ」と答える。


次は、さっきの話で言ってたDVDについてだけど、と前置きをした所で、普段どんなDVDを見てるのかと、好きなDVDについて聞かれた。


私は、いくつか好きなDVDタイトルを言い、ついでに「DVDとはちょっと違うけど『白鳥と空を飛ぶ』って映画が好き」と、言った。


サリアは、全部知っていた。


人間だと、知らないタイトルが出ることは珍しくない。

だから、大体好きなタイトルを言ったあとは、物語のあらすじを簡単に説明する流れになる、と思う(映画から得た知識)。


ただ、サリアは全部知っていたので好きなシーンや登場人物を語り合う事となった。


そうして、サリアの質問にある程度答えたところで、私はサリアを映画鑑賞に誘った(そうでもしないと長時間にわたる質問攻めにあうと思ったから)。


ちなみに、見る映画は新作の探偵ものにした。


DVDプレーヤーにDVDを挿し込むと、リビングのテレビ前に敷かれたふわふわのラグマットに二人で座り、テレビを付ける。


テレビを付ける前、ふと暗転した画面に私とサリアが反射して動揺した。


映画が始まる。


それから、私たちは笑い、感動し、犯人の予想をし合った。


まあ、犯人の予想は、プロファイリングを用いて的確に当てようとするサリアを「それなんか本当に当たりそうだからストップ!」止めたけど。


あくまで映画の世界、正確かどうかは分からないけど、ネタバレを怯える私はサリアの推理を恐れたのだ。


そして、同時にこれが探偵を敵に回した犯人の気分かと戦慄した─────────



映画を見終わると、楽しさを共有して勉強に取り掛かり、夜ご飯を食べる頃には13ページも進んでいた。


これまでの最高を大きく上回る記録を残したことに、私は満足している。



そうして、時間は就寝時間の10時を迎える。



今日はいつもよりも早かった気がする。


「エリカ、今日すっごく楽しかったよ! 明日もまた話そう! おやすみ」とソファに座り眠りにつくサリア。


サリアが寝付く前に「私こそ。 ありがとうサリア。また明日ね。 おやすみ」と声を掛けた。


サリアが寝付くと、私も寝る準備に掛かる。


明かりを常夜灯に切りかえ、ベッドの布団を被ると、目を閉じた。


今日は楽しかったなー。 明日は何しよ。

て、いや、学校の事考えないと。


何のためのサリアだよ。 ほんと。


よし、決めた。 明日は、ショッピングモールに出掛けてみよう。 それで友達っぽく話してみて、大丈夫そうだったら学校に……。


頑張るぞー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

3日ごと 18:00 予定は変更される可能性があります

アンドロイド少女・サリア とm @Tugomori4285

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画