第2話  アンドロイド少女・サリア

顎に指先をやり「どこかで間違えましたでしょうか、しかしプログラム通りのはず」と呟くと、少女は自己紹介を始める。


「はじめまして! 私はある雪国の小屋に住む大きなおじ、サンタさんに、エリカさんのプレゼントとして運ばれて参りました。 名前はまだ付けられていない、人間型のアンドロイドと申します。 AIなので不備は多いかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたしますねっ」


少女は腰をガクッと九十度折り曲げてお辞儀する。ダンサーのパフォーマンスみたいなキレだ。


私は人が出てきた事と、その子がアンドロイドと名乗った事で呆気に取られ、言葉を失いながらもある感情を抱く。


少し肩にかかったミディアムボブは、この前見た『白鳥と空を飛ぶ』という映画に、舞台として登場する水面鏡のような綺麗な銀をたたえていて、サンタ衣装から露出した白い肌は、雪のようだった。


そして、精密加工を施されたガラス玉のように繊細な碧眼に、しんしんと降る雪が似合いそうな、あどけなく静やかな雰囲気を纏った声は、私の心にスッと刺さって癒していく。


私は『可愛い』と一言、心で呟いた。


少し脳内の情報処理が進んだ所で「よろしく」と返すと、少女はにこやかにはにかんだ。


すると、少女はしゃがみ、開いたプレゼントの底を漁り始める。

少しして立ち上がると、少女の手にパンフレットのような紙が見えた。


少女は、その紙を私の前に差し出す。


「説明書でございます。 読んでいただけると、私の事をたくさん知れますよ。 あ、既にご存知でしたら、蛇足ですねっ」


私は、は、はい。と零すと、恐る恐る説明書を受け取った。


「説明書を読んでいる間、私はどうしましょう?」


「ちょっと待ってて」


「かしこまりました」


説明書を開く。

目新しい文字の羅列に図解、私の心に大きめのワクワクがきざした。


十一ページの説明書を一通り読み終えると、私はもう目の前にいる少女を、文字通りのアンドロイドとして、見ることが少し難しく思えた。

それほどまでに細かく、バリエーションに富んだ仕掛けが施されていたのだ。


それでも、人間に見えないのは、その見るものの口を奪ってしまうような美貌は勿論のこと、『食事を摂ると故障します』、『風呂に入れると故障する恐れがある』といったロボットらしい注意点のお陰だろう。


そして、そのおかげで現実を忘れて、気楽に接する事が出来そうだ。


それにしても、この子……私のプレゼントとして運ばれてきたと言っていたけど……

プレゼントする相手を間違えたって訳では無かったんだ……

でも、どうして……。

こんなプレゼント、本当に貰って良いのだろうか。


……こんな、とても私には収まりきらないような……凄い……。

エリカはかなり困惑し、目の前の存在を疑い、その場から逃げ出したくなった。


けれども一応、この少女はサンタさんからのプレゼントであることを示すような自己紹介をした。

だから、多分受け取るのが正解……なんだろう。


少なくともサンタさんは、私に受け取ってほしいからこんな所、タイミングに、私の名前を指定してまでプレゼントを届けたんだろうし。


でも、こんな凄そうなの受け取りづらいよ。

何より、めっちゃ高そうだし。

せめて、もっとありふれたものとかであれば、素直に喜んで受け取れるんだけど。

赤い長靴の中に詰めたお菓子のおかわりとか、ね……。


そう思いつつエリカは、恐る恐る、ドキドキとワクワクを胸に携えて少女に名前を付ける。


「サリア。 あなたの名前は今日からサリア……」


アンドロイド少女は、はにかむ。


「かしこまりました。 私は今日からサリアですね。 とても可愛らしい名前で気に入りました」


「そ、それはよかった。 私の名前は溝口エリカだから、エリカって呼んで……ほしい」


「かしこまりました。 では、改めてよろしくお願いいたします。 エリカさん」


「うん、後、喋り方はタメ語、タメ語モードでいいよ。 友達感覚でいたいから」


「分かった!」


「じゃあ、早速だけど勉強に付き合ってくれる?」


「分かった!」


「ありがとう」


こうして、私とアンドロイド少女・サリアの愉快で奇妙な生活が始まった。



このアンドロイド(厳密には人間型アンドロイド)には多種多様な機能が存在する。


先ず、名前を付けられる機能については、先程のエリカがしたように、アンドロイドに『あなたは今日から○○という名前ね』と、話し掛ける事で設定が可能だ。


また、『あなたに名前を付けたい』や『あなたに名前を付けて良い?』といった言葉でも、設定可能で、その際は、許可を貰った上で付けたい名前を伝えれば設定できる。


更に、名前にパスワードを付けることも可能で、その際は名前を付けた後で『パスワードを付ける』と伝えれば最大八文字で設定可能だ。


ちなみに、パスワードを忘れると名前を変更出来なくなるので注意。


次に、話し方のモードについてだが、それも先程エリカがしたように、"タメ語モード"というように、語尾に"モード"という単語を付けた上でお願いや指示をする事で設定可能だ。


ちなみに現時点での話し方は、敬語・タメ語・お嬢様風・メイド風の四種類である。


また、性格(姉御肌・妹系・男勝り・天然・電波・真面目etc.)や、趣味(ガイドラインに反しない程度)も設定可能で、二つの要素を組み合わせて楽しむことも可能だ。


充電に関しては、セットで届いた椅子や、折り畳みベッドに寝かせることで可能。


注意点については、激しい運動をさせると故障する恐れがあるといったものや、先程挙がった食事を摂ると故障する、お風呂に入れると故障する恐れがあるといったもの、そして、ながら充電は故障の原因となる。といったものだ。


※追記


人間型アンドロイドはWiFiの接続、スマホとの連携という機能もあり、WiFiに接続すれば定期的なアップデートをしてくれ、スマホと連携すれば専用のアプリケーションを配布してくれる。



「ただいまー」


「いつも夜遅くにごめんなー」


ガチャりと玄関を開け、申し訳なさそうな表情を浮かべた両親は、廊下に面した部屋が暗くなってる事に気付くと「プレゼント開けてるみたいね」「気に入ってくれてると良いんだけどな」と、囁き、微笑みながら暗いリビングへと向かう。


そして電気をつけると、あたりを見渡して「アンドロイドは二階か」と小さく零し、寝てたら起こさないようにと慎重な足運びで暗くなった二階のドアを開ける。


慣れた目で、あたりを見渡すと学習ノートに臥すエリカと、それをもう一つの椅子に座って眺めるサリアがいた。


「勉強に付き合ってもらってたんだな」

と、父が微笑んだ。

「充電器はここに持ってこようかしらね」と、母も微笑む。


そうして、エリカはベッドに移され、ユリカは二階に置かれた充電器に座らせられた。


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