第11話 最後の登校日
僕は憂鬱な気分で通学路を歩いていた。
今日は夏休み中に一日だけある登校日だ。
八月はもうすぐ終わりを迎えようとしているけれど、まだまだ暑い日が続いていた。アスファルトからの照り返しもきつくて、歩いているだけで汗が滲んでくる。
早くクーラーが効いた教室に入りたいなぁ……寝不足のせいで、頭が少し重い。担任の先生には申し訳ないけれど、保健室で休むのもアリかもしれない。
「ケイくん、どうしたの?」
僕が上の空で歩いていると、寝不足の元凶であるキョウが心配そうに顔を覗き込んできた。
彼女の手には有名なカフェチェーン店のドリンクカップが握られている。
普段の登校時と違ってメイクもバッチリ。
学校指定外の小悪魔みたいなリュックからは、月曜発売の週刊誌が覗いている。トボトボと歩く僕と違って、彼女の足取りは軽やかだった。
「あ、いや……ちょっと考え事をね」
キョウはふーん、と意味ありげに相槌を打つとストローに口をつけた。中身は多分キャラメルマキアートかな? 朝からたっぷりの生クリームを堪能できて幸せそうな笑みを浮かべている。
お父さんの重圧から解放されたおかげか、この数日の彼女はいつも以上に明るい。
「(いいなぁ、キョウは呑気で)」
太陽を恨めしく見上げながら、気付かれないように愚痴を吐く。
昨晩、キョウから言われたセリフが頭をよぎる。
『その犯人が見つからない理由って、身近なところに協力者がいるからなんじゃない?』
自分の知っている人が僕を殺そうとしているなんて、考えたくもないよ。
グルグルと嫌な気持ちが胸の中に渦巻いて、心と体を重くする。
「ねぇ、本当に大丈夫? 顔が真っ白だけど」
「……キョウこそ、昨日は遅くまで起きていたんでしょ? よく元気でいられるよね」
僕のまとめたメモを元に、徹夜で事件のヒントがないか情報収集をしてくれていたらしい。パソコンを点けっぱなしにしていて、みんなが寝静まった後もネットサーフィンを続けていたそうだ。
「(何か気付いたことがあるみたい。教えてくれなかったけど)」
拗ねたように頬を膨らませる僕を見て、キョウは楽しそうに笑っていた。
そんな会話をしながら歩いていると、いつのまにか校門の前だった。
見慣れた光景に安心感を覚えながら校舎内へと入る僕たち。
そこかしこで生徒の声が響いていた。
教室に向かう途中で何人か同じクラスメイトを見掛けたけれど、僕は足を止めずに下を向いて通り過ぎる。キョウは珍しく友人たちの元へは向かわず、僕の隣を離れることはなかった。
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