第10話 ダメな教師


「はぁ、アタシは生徒に何を言っているのかしら」


 アタシは自分の部屋に戻った後、大きく溜め息を吐いた。

 水島君の反応を見て、つい彼のことを褒めてしまった。まぁお世辞というわけでもないし、本心でもあるのだけれど……。


 それでもサトちゃんには刺激が強すぎたかもしれないわね。あの子に悪い影響がないと良いけれど。



「それにしても、アタシの初恋の人かぁ……」


 今でもあの人のことはハッキリと覚えている。軟らかな焦げ茶色の髪に誠実さを表す黒縁眼鏡。優しく微笑む姿は今でも目に焼き付いている。

 だけどその姿は十年近く前のままだ。



「あの人は今どこで何をしているのかな……?」


 名前も教えてもらっていないし、連絡先も分からずじまいだ。今頃はもう結婚して幸せな家庭を築いているかもしれない。

 だったら、いっそのこと……。


『ヒビキお姉さんもお兄ちゃんのこと好き!?』


 サトちゃんの言葉が脳裏をよぎる。

 ……思っている以上にアタシ、水島君のことが好きなのかもしれない。


 彼が照れくさそうに笑う姿が脳裏に浮かぶ。

 胸がドクン、と高鳴った。



「もし勇気を出して告白したら――あの子はアタシを受け入れてくれるかな」


 まさかね。

 日南さんという存在が居るし。

 教師と生徒という関係上、丁重に断られていたに違いない。


「でも彼女が居なければ――」


 どうしよう。

 こうして一緒に生活しているうちに、あの人の面影が段々と水島君にダブってきている。間違いなくアタシの恋心が彼で上書きされていっている。


「ふふっ、やば……思い出したらドキドキしてきた」


 ベッドの上で悶えていたら、我慢できなくなってきちゃった。

 彼らがいるうちはダメって決めていたのに……。


 気付けばアタシは、クローゼットの前に立っていた。

 南京錠を掛けた、アタシだけの秘密の小部屋。

 無意識のうちにそのカギを外し、中を開ける。


「ごめんね、水島君……いけない先生でごめんね……」


 そこには、アタシが隠していた宝物の数々があった。

 隠し撮りの写真、下着、体毛……どれもこれも水島君に関するものばかり。

 それらが目に入った瞬間、アタシの理性は限界を迎えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る