第103話 ダンジョン攻略完了⋯⋯?

『ギ、ギギギギギッ!』


 全身に甲羅のように硬い甲殻を纏い、口から糸に巻かれた土塊を吐き出し攻撃をしてくる芋虫型のモンスター【タンクワーム】が、木々を薙ぎ倒しながらこちらに向かって一直線に突き進んでくる。


 動きは遅く飛ばしてくる土塊の精度も悪いが、それでも太い木を破壊し地面を抉りながら進む力強さはあるモンスターであり、あんな突進に轢かれてしまえばひとたまりもないだろう。


 だが所詮、ノロマに動き回る的には変わりなく。


「フィルエラ、お願い!」


『フィー!』


 白銀の掛け声と同時に、すぐさまフィルエラが自身の魔力を練って一本の魔矢を作り出す。


 その魔矢を受け取った白銀は、右手に装着した【精霊弓の指輪】に魔力を流して弓を生み出し、慣れた手つきで魔矢を放ち。


『ギィッ──』


 刹那、タンクワームの肉体が弾け飛んだ。


 頭部から僅かに逸れた魔矢だったが、それもお構い無しに尖った鏃がタンクワームの肉を抉り、貫き、破壊した。


 タンクワームの硬い甲殻を、まるで包丁で豆腐を切るようにいとも容易く打ち砕く一本の魔矢。


 しかし、白銀は弦を引く時にそこまで力を込めてはいなかった。


 軽く放ったはずの魔矢は鋭く空を切り、タンクワームを貫いた後に後方にある一本の木の幹を大きく抉って止まっていた。


 魔力が霧散し、跡形もなく消えていく魔矢。そのとんでもない破壊力に、俺は驚きを隠せなかった。


「⋯⋯何度見ても、弓の一撃とは思えないな」


「ふふーん。わたしとフィルエラが力を合わせれば、こんなもんでしょっ」


『フィーフィー!』


 自慢げに胸を張る白銀と、そんな白銀の頭の上で同じように胸を張るフィルエラ。


 今俺たちは【鈍虫の森】9階層目に来ていて、この階層を攻略してしまえばあとは10階層目のボスモンスターを倒して終わりというところまで来ている。


 実はもう既に10階層目へと続いている【転送陣】は発見済みなのだが、ボスモンスターに挑む前にこうしてタンクワーム等のモンスターを相手に白銀は精霊弓の特訓をしているのである。


 精霊弓は、魔矢を使用する際はあまり力を込めなくても弦を引けるという特徴がある。


 そのため、スタミナを温存しつつどんな体勢からでも力強く魔矢を放つことができるというのが精霊弓の強みなのだが、今まで普通の弓を使ってきた白銀にとっては少し厄介な性能をしており。


 力を込めなくてもいい。というのは、逆に捉えれば力を込めることができないということである。


 変に力めば魔矢は明後日の方向に飛んでいき、だからといって力を抜くと今までとは違う動きのせいで魔矢の挙動がおかしくなったりと、どこか癖のある精霊弓に白銀は頭を悩ませていた。


 だがそれからしばらくして、何度も何度もモンスターに魔矢を放つ度にコツを掴んできたのか、今では一撃でモンスターを仕留めることができるようになったのである。


 しかし、それでも白銀はまだ満足していない様子であり。


「でもまぁ、まだ80点ってところかな。最初より精度は上がってるけど、さっきだって頭から少しズレちゃってたしね」


「厳しい自己採点だな。俺からして見れば、もう十分なくらいだと思うのだが」


「百発百中⋯⋯とまではいかないけどさ、最低でも百発九十九中くらいはいきたいじゃん? それにまだ動きが遅いモンスターとしか戦ってないから、すばしっこいモンスターが相手になったら多分対応できないと思うんだよね」


 これに関しては、白銀の言う通りだ。


 確かに、何度も何度も練習を続けたおかげで精霊弓を使っても安定してモンスターを倒せるようにはなったが、まだ白銀は動きが遅いモンスターとしか戦うことができていない。


 この【鈍虫の森】は名の通り動きが遅い虫のモンスターが多く生息しているモンスターであり、そういった面では弓の練習には持ってこいな場所ではあるのだが。


 逆に言ってしまえば動きが素早いモンスターと遭遇することがないため、あくまで矢を射ってモンスターに命中させるところまでしか練習することができないのである。


 既に白銀は、手に入れたばかりの精霊弓をある程度使いこなせるようになっている。


 だから更なるレベルアップを目指すためにはもっと難易度が高く、出現するモンスターのレベルも高く、厄介な動きをするモンスターが多いダンジョンを選んだ方が練習になるのである。


「それなら、もうサクッとボスモンスターを倒しに行くか。時間的にも丁度いいだろ」


「そうだね。それに、これ以上ここのモンスターを相手にしてもそこまで練習にならないしね。せめて、乱入モンスターとかが出てくれば面白いんだけどなぁ」


「乱入モンスターか⋯⋯ちなみに、このダンジョンってどんな乱入モンスターが出現するんだ?」


「実はわたしも分からないんだよね。そりゃあ、調べれば分かると思うけどそれじゃ面白くないじゃん? そう思って何度もこのダンジョンに潜ってるんだけど、未だにまだ一回も遭遇してないんだよねぇ」


 腰に手を当てながら、不思議そうな表情を浮かべる白銀。


 俺は乱入モンスターの出現率がどのくらいかなんて知らないのだが、何度もダンジョンに潜っても遭遇したことがないということは、俺が思っている以上に乱入モンスターの出現率というものは低いのかもしれない。


 それこそ、モンスターごとに出現率が定められている可能性もあるし、ダンジョンによって乱入モンスターの出現率がバラバラという可能性もある。


 だが今回の探索でも最終階層前である9階層目に到達しても乱入モンスターは出現しなかったため、このダンジョンは乱入モンスターこそいるものの、その出現率は極めて低いと考えた方がいいだろう。


「まぁ、遭遇できたらラッキーみたいなものだしな。俺はたまたま運が良かっただけで、そのうち白銀も乱入モンスターと戦う日は来るだろうさ」


「本来なら乱入モンスターと遭遇することは最悪中の最悪なんだけどね。でもやっぱり、強いアイテムをゲットするには乱入モンスターと戦った方が手っ取り早いし、自分の力を確かめてみたいから戦ってみたいよ」


「ははっ、白銀も戦闘狂になってきたな」


「そりゃあ、誰かさんの後輩ですから」


 白銀の言う"誰かさん"とは、説明するまでもなく十中八九俺のことだろう。


 これに関しては別に否定するつもりはないのだが、俺が白銀に教えたことはあくまでディーダイバーについてのことやダンジョンのことくらいであり、ここまで成長したのは白銀自身の力だ。


 だから白銀の中に宿る戦闘意欲はあくまで自分自身のものであり、俺がなにかをしたから触発されて戦闘意欲が増したわけではないはずだ。


 まぁ、白銀は対人ゲームの大会に出場するほどのゲーマーなため、根本的に戦うこと自体が大好きなのだろう。


 戦うことが好きならば、すぐに強くなれる。白銀ほど真面目な人間ならば、尚のことだ。


「さて、じゃあ10階層目に向かうとするか」


「了解っ。フィルエラ、次のボスモンスターはちょっと手強いと思うけど、一緒に頑張ろうね」


『フィー!』


 こうして俺たちは、ボスモンスターが待ち構えている最終階層の10階層目を目指して既に見つけておいた【転送陣】へと向かって歩いていく。


 【精霊弓士】となった白銀の力がどれだけボスモンスターに通用するのかが、非常に楽しみで仕方がなかった──




──────




 【鈍虫の森】10階層目。


 そこは森の中ではあったのだが、見渡す限り虫型のモンスターの亡骸が無数にも転がっていて、なんだか異質な雰囲気が漂っている。


 空気も悪く、差し込む日差しも少ないため視界も薄暗く染まっている。そんな中で、一匹の巨大なモンスターが大きな足音を立てながら亡骸の山の中を闊歩していた。


「⋯⋯ねぇ先輩。あれ、虫じゃなくて⋯⋯」


「⋯⋯どこからどう見ても、カニだな」


 今俺たちがいる【鈍虫の森】は、名前の通り動きの鈍い虫型のモンスターばかりが出現するダンジョンだった。


 だが最終階層である10階層目に待ち構えていたのは、今まで出てきた幼虫型のモンスターでも5階層目に戦った蛾のようなモンスターでもなく、どこからどう見てもカニであった。


 森に擬態しているのか全身に緑色の甲殻を身に纏っており、全長5メートルは優に超えているその体には、2メートル近くはある巨大な鋏がついている。


 足の数は系六本とカニにしては少なめだが、その厳つい体とどこか重々しく感じられる風貌から、れっきとしたボスモンスターであることが分かるだろう。


「個体名はムクロダタキ。危険度はD+で、レベルは22とこのダンジョンにしては高めだな」


「そうだね。でも、今のわたしなら──ううん。わたしとフィルエラなら、倒せる気がする」


「それだけ自信があるなら大丈夫だな。じゃ、ムクロダタキは白銀とフィルエラに任せる。だが油断するなよ?」


「もちろん。初めっから全力でやっちゃうから」


『フィー!』


 気合い十分な白銀。そして、そんな白銀と同じくやる気満々なフィルエラが俺に向けて胸をどんと叩いていた。


 それならと、俺は大鎌を肩に担いだままその場から後退し、少し離れたところで白銀を見守ることにした。


「それじゃあ⋯⋯フィルエラ、行くよ!」


『フィー!』


 先手必勝と言わんばかりに白銀がフィルエラに魔矢を要求し、それに応じてフィルエラは一本の魔矢を作り出し、白銀の手に乗せていた。


 そして白銀はフィルエラお手製の魔矢を展開した精霊弓で構え、のっそのっそと動き回っているムクロダタキに向けて強力な一撃を放った。


『──ッ!?』


 魔矢が空を切る音によってようやくムクロダタキは俺たちの存在に気がついたのか、驚きの声を上げながらも体を動かし、飛んでくる魔矢に対応する。


 5メートルを超える巨体にしてはいい反応速度ではあったが、接近する魔矢に気づいた時にはもう遅く。


『ゲ、ゲギャッ!?』


 一筋の線を描くように放たれた魔矢が、ムクロダタキの右前脚の付け根を穿つ。


 それにより大木のように太い前脚は砕け散り、六本あったはずのムクロダタキの足は開幕早々五本へと減ってしまっていた。


「ちっ⋯⋯狙いが逸れちゃったか。今の一撃で決めようと思ってたのに」


 不意打ちにより足を一本奪われ動揺しているムクロダタキとは裏腹に、白銀は悔しそうに小さく舌打ちをしながら、フィルエラから追加の魔矢を受け取っていた。


 俺からしてみれば、最初の一撃で相手の足を破壊した時点で今の白銀にしては充分だと思っていたのだが、プライドの高い白銀にとってはそれでもまだ及第点止まりのようであり。


「次こそ、脳天を!」


 ムクロダタキが動き出すより先に、更に追加で魔矢を放つ白銀。


『ゲギャギャギャッ!』


 だがさすがのムクロダタキも正面から放たれる魔矢には反応できるようで、すぐさま大きな鋏を顔の前に運び、強固な防御体勢をとる。


 しかし、その選択は大きな間違いであり。


『ゲ、ギャァッ!?』


 悲鳴を上げるムクロダタキ。


 それもそのはず。なぜなら白銀の放った魔矢の一撃により、ムクロダタキの自慢の鋏が砕けてしまったからである。


 魔矢による一撃は、弓士の攻撃とは思えないほど力強く、そして重いものだ。


 さながら大剣による一撃のよう。そんな破壊力を持つ魔矢が、まるで弾丸のような速度で飛んでいた。


 そんなの、脅威でしかないだろう。


『ギ、ゲギギ⋯⋯!』


 なんとか鋏だけで魔矢の一撃を防いだムクロダタキだが、ムクロダタキにとって鋏とは、攻撃と防御を両立できる自慢の武器なはず。


 それを一撃で破壊されたとなれば、ムクロダタキはもう心もプライドもズタズタにへし折られているだろ。


「レベルはムクロダタキの方が上のはず。こんなに亡骸が積み上がってるのだから、ムクロダタキが戦い慣れてないはずがない。白銀の腕がいいのもあるが、やはり上級クラスとなるとレベルが違うな」


 ネットの記事で調べた際、クラスにも階級というものがあるとのこと。


 例えば【剣士】や【魔法使い】は下級クラスに該当するのだが、そこから成長することでクラスは変化し、それにより恩恵も大きくなっていく。


 桃葉モモさんの【魔導師】は下級クラスである【魔法使い】が中級クラスの【魔術師】となり、そこから更に成長した上級クラスに該当する。


 そしてネットでは取得条件が不明とされている【精霊術士】は上級クラスであり、そこから考えると【精霊弓士】も同様に上級クラスであると考えられるだろう。


 元々腕のいい白銀だが、【弓士】のままではきっとムクロダタキを討伐することはかなり困難であったはずだ。


 だが偶然か運命か。精霊に気にいられ、そして【招待状】を手に入れたことでEXダンジョンの【精霊王の聖域】へとたどり着き、精霊王と出会ったことで白銀は大きく進化を果たした。


 レベルこそまだ低い白銀だが、【精霊弓士】というクラスを得た時点で、同じレベル帯のディーダイバーたちよりも白銀は一歩も二歩も先に進んでいるといっても過言ではないだろう。


『ゲギ、ギャラッ!?』


 そうこうしている内にも、白銀はムクロダタキに向けて容赦なく魔矢を放ち続け、気づけばあんなに立派な甲殻を身にまとっていたムクロダタキは既に息も絶え絶えで、満身創痍になっていた。


 一方白銀はその場から一歩も動いておらず、それでいてAスキルを使っているわけでもなく、ただただフィルエラの作り出した魔矢を放っているだけである。


 その火力と狙いの正確性はさながら固定砲台そのもの。


 動きが遅く、それでいて足も追加でいくつか破壊され機動力を失ったムクロダタキにとって、ここから白銀に勝てる術などないに等しかった。


「フィルエラ、終わらせちゃうよ!」


『フィー!』


 白銀の掛け声と共にフィルエラが魔矢を作り出し、白銀が魔矢を精霊弓の弦に掛けて大きく構えをとる。


 そして普段よりもゆっくりと、そして大きく弦を引く白銀は、ムクロダタキの頭部に向けて渾身の一撃を放った。


『ギャッ──』


 短い断末魔と共に、崩れ落ちる巨体。


 白銀の放った魔矢は見事ムクロダタキの頭部を貫いており、両腕の鋏を失ったムクロダタキは為す術なく、静かに撃沈していた。


「どーよ先輩。わたし、強くなったでしょ」


「さすがだな。やれるとは思っていたが、まさかここまでとはな」


『フィー! フィー!』


「まぁ、フィルエラのおかげでもあるけどね。でもやっぱり、あれだけ的が大きいと当てるのは簡単かな」


『フィー! フィー!!』


 どこか誇らしげに胸を張る白銀と、ムクロダタキを倒せたことが嬉しいのかはしゃいでいるフィルエラ。


 だが、はしゃいでいるにしてはその声はあまりにも大きくて。


『フィー! フィーッ!!』


「もう、さっきからどうしたの? 勝てたのは嬉しいけど、そんなに騒ぐことのほどじゃ⋯⋯?」


 即座に、白銀がフィルエラの異変に気づく。


 フィルエラは決して、喜んでいたわけではなかった。むしろその逆で、必死になって白銀の服を引っ張ってなにかを伝えようとしていたのだ。


 そんなフィルエラに目を向けると、フィルエラが先ほど倒したムクロダタキの亡骸がある方に向けて指を何度も何度もさすように向けていた。


 一体なにがあったのかと、俺と白銀はフィルエラが指をさしている方に目を向けるのだが。


「な、なに、あれ⋯⋯? 黒い、糸⋯⋯?」


 横たわっているムクロダタキの亡骸に向けて、頭上を覆い尽くすまで生い茂っている巨大な木の枝から、黒く細い糸のような物体がゆっくりと垂れ下がっていた。


 だがよく見ると、その糸のような物体の先端には赤く丸い宝石のような物が二つぶら下がっていて。


『キキ、ケケケケ、キキッ!』


 どこからともなく聞こえてくる、どこか不快な声。


 その声と共に、俺と白銀が持っているディーパッドからビービー! とアラーム音が響き渡り、緩んでいた空気が一気に緊張に包まれた。


「⋯⋯なるほど、そういうことか⋯⋯!」


 この階層に来た時、俺は小さな違和感を抱いていた。


 ダンジョンの中に生息するモンスターは死ぬと光の粒になって消えていくはずなのに、なぜモンスターの亡骸がそのままの状態で散乱しているのか──と。


 だがそれはただの演出だと思っていた。フィールドギミックというか、そういうコンセプトの階層なのだろうと勝手に決めつけていた。


 しかしそれが勘違いであったと気づいた時には、もう既に遅かった。


 そもそもの話、白銀が倒したはずのムクロダタキが光の粒になって消えてなくならず、亡骸として横たわった時点でおかしいと気づくべきだったのである。


 ではなぜ、ムクロダタキは光の粒にならずに亡骸となって残っているのか。


 その答えは、律儀にもディーパッドの画面に大きな文字として表示されていた。


「白銀からこのダンジョンの詳細を教えてもらった時、妙だと思ったことがある」


「みょ、妙って⋯⋯?」


「低い推奨レベルと最終階層到達者の数に対して、死亡回数があまりにも多すぎる気がしていたんだ。だがその理由が、今判明した⋯⋯!」


 突然鳴り響いたアラーム音に動揺している白銀に、俺はディーパッドの画面を見せつける。


 その画面には【ダンジョンに高危険度モンスターが乱入しました】と表示されており、その文章を目にした白銀は、驚き目を丸くしながらムクロダタキへと垂れていく黒い糸のような物体に再び目を向けていた。


「ダンジョンに迷い込んだ子供ですら逃げ切れるくらい、このダンジョンに生息しているモンスターは動きが遅い。そして決して、強くて厄介なモンスターが出現するわけでもない。それなのに死亡回数は異常に多い。このことに、白銀は違和感を感じなかったか?」


「か、感じたけど、難易度が低い分初心者が集まりやすいから事故死が多いのかなって思ってて⋯⋯」


「仮にそうだとすると、最終階層到達者の数が多すぎるんだよ。いいか白銀。最終階層到達者の数ってのは、あくまでこの階層に足を踏み入れた人間の数であってダンジョン踏破者の数ではない。だがここまでたどり着くことができるのなら、ムクロダタキを倒すほどの実力はあると思ってもいいだろう。だがそれなら、皆は一体どこで死んでると思う?」


「っ! ま、まさか⋯⋯!」


 ここに来てようやく白銀も俺の言いたいことが理解出来たのか、頬に一筋の汗を垂らしていた。


 そう。ここのダンジョンに出現する乱入モンスターは、デスリーパーのようにランダムな階層で出現するわけではない。


 とある条件を満たすことで、"確定"で乱入するモンスターなのである。


 そしてその条件とは、10階層目にて待ち構えているムクロダタキを討伐することであり──


『ケケキキ、ギュァアァアアァァァッ!!』


 けたたましい叫び声と共に、絶命したはずのムクロダタキの亡骸がゆっくりと起き上がる。


 それだけではない。そこら中に散らばっている虫型のモンスターの亡骸がムクロダタキの亡骸に吸い寄せられるように集まっていき、一つの大きな塊へと変貌していく。


 モンスターの体が組み合わさってできた胴体や手足。そしてムクロダタキの鋏よりも遥かに大きく、歪な形をした超巨大な片鋏。


 そしてモンスターの骨が集まってできた尻尾はまるでサソリの尻尾のようであり、継ぎ接ぎだった亡骸の塊が、まるで命を宿した一匹のモンスターのように動き始める。


 その大きさは、まるで動く要塞であり──


『ギュア! ギュァアァアアァァァッ!!』


 【鈍虫の森】の乱入モンスター──いや、実質上のラストボスモンスターが今、俺たちの目の前に立ちはだかった。

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