第85話 EX.残夜の影く滅国-⑱
紅月が煌めき、無数の星が瞬き、この地を滅ぼさんとする隕石が砕け散り流れ星となって降り注ぐ中。
俺は漆黒の刃を持つ大鎌を、エリュシールの首元にあてがっていた。
ほんの少し。少しでも力を込めれば、エリュシールの首を刎ねることができる中。
エリュシールは肩で呼吸をしながらも、諦めたように、だがどこかやりきったような表情でこちらを見つめていた。
「⋯⋯月の魔女ルナに憧れて20年余。ようやく憧れ、夢見ていた月の魔女に成ることができたのに、なにもできず、なにも成すことができずに私は終わってしまうのね」
哀愁が漂うが、それに対する後悔はないようで。
揺らぎつつも確かな光の宿るその瞳は、ただ俺に早く終わらせてほしいと、もう満足していると訴えているようであった。
「⋯⋯聞かせてくれないか。どうして、お前は⋯⋯エリュシールは、月の魔女なんかになりたかったんだ?」
俺がずっと抱いていた疑問。
なぜエリュシールは俺を騙してまで、かつての友であったリーウェルを手にかけ、仲間であったはずの魔女たちの命を捧げてまで、月の魔女に成ろうとしたのか。
強くなりたかった。強力な魔法や魔術を使いたかったから。それくらい単純な理由なら、わざわざ聞かなくても戦っているうちに分かることではある。
だが俺には分からなかった。エリュシールが月の魔女に成った理由が。月の魔女に成って、なにがしたいのかが。
するとエリュシールは自嘲するように天を見上げながら、その瞳から一粒の涙を零していた。
「⋯⋯神様なんて、いなかったの」
「⋯⋯え?」
「⋯⋯神様なんていなかったのよ。信じれば救われると、助けてくれると、幼い頃母親から教わったわ。祈り続ければ、いつか神様は応えてくれて手を差し伸べてくれるって。でも⋯⋯そんなもの、ただの偶像崇拝でしかなかった。この世に神様なんて、いなかったの」
「だからお前は⋯⋯」
「えぇ。神様がいないのなら、私が神様になろうと思ったの。神と等しき力を持つ、月の魔女と成ることによって」
馬鹿馬鹿しい。そう感じる者も、きっとこの世に存在するだろう。
俺も、一瞬そう感じてしまった。
だがエリュシールの表情を見て、握られた拳が震えているところを見て、その言葉が嘘ではなく真意であることが分かった。
「⋯⋯私ね、許せなかったの。魔女を迫害する人間たちが。持たざる者が、持つ者を無意味に排斥するこの世の中が。私たち魔女を、ただ魔力を持って魔法や魔術が使えるだけの人間を、差別し、人ではないなにかとして扱う人間が、大っ嫌いなの」
「そのための【魔女ノ夜会】じゃなかったのか? 迫害され、排斥された者たちの居場所を作っていた者たちを、なぜ──」
「あんなもの、根本的な解決に繋がらないからに決まってるじゃない⋯⋯!」
振り絞るように、声を荒らげるエリュシール。
だがその声は、ただ虚しく夜の世界に響き渡るだけであり。
一瞬魔力の圧を感じたが、それはあまりにも弱々しく、エリュシールが既に魔力を消費しきっていることがこれでもかと伝わる瞬間であった。
「彼女たちは諦めたのよ! 魔女が疎まれ、蔑まれ、迫害されるこの世の中を! それでも居場所が欲しかったから、あんな【魔女ノ夜会】なんて組織を作ったのよ!」
「⋯⋯それが悪いことなのか?」
「⋯⋯否定はしないわ。事実、助けられた者は多いもの。でも⋯⋯それじゃ根本的な解決には繋がらないわ! 魔力を持つだけで、この世では幾つもの幼い命が奪われている! 弄ばれている! 失われた命は、【魔女ノ夜会】なんかじゃ救えないわ⋯⋯!」
ぼろぼろと涙を零しながら、絶望に打ちひしがれるように膝つき、俺を見上げてくるエリュシール。
大鎌の柄を握る手が、震える。
エリュシールは大罪人であり、倒さないといけない相手だ。だが、彼女は大罪人ではありながらも人を救おうとしていた。
やり方は間違っている。確実に間違ってはいるのだが。
大罪人ではありながらも、悪人ではない。俺はそう、感じてしまった。
「神様になれば、月の魔女に成れば世界を変えることができるの⋯⋯! 全ての人類を滅ぼし、また1から世界を創成する。それが、私が月の魔女に成った一番の理由よ⋯⋯」
「⋯⋯だが、その方法は⋯⋯」
「⋯⋯分かっているわ。でも、もうそうするしか方法がなかったのよ⋯⋯! 私は、魔女が魔女として誇りを持って生きることができる世界なんて、どうでもよかったの⋯⋯! 魔女が普通の人として。ただの人間として受け入れられる、そんな世界にしたかったのよ⋯⋯!」
エリュシールのその訴えは、まるで悲痛の叫びのようであり。
だがそれでも、俺は首を縦に振ることはできなかった。
「⋯⋯エリュシール。お前の思想は正しいと思うし、否定するつもりはない。だが、お前はやり方を間違えた。道を踏み外した。人としても、魔女としても」
「⋯⋯っ、それなら⋯⋯! 私は⋯⋯どうすれば、よかったの⋯⋯?」
教えを乞うように、救いを求めるように、揺らぐエリュシールの瞳が真っ直ぐに俺を見つめてくる。
だが、そんなの俺にも分からない。分かっていたとしても、俺にはそれをどうにかする力を持ち合わせていない。
だから俺は、エリュシールの要求に対しただ俯くことしかできなかった。
「⋯⋯結局、俺たち人間は同じ道を辿るんだ。仮にエリュシールが世界を創り変えたとする。そしたら、今度は魔力を持たない者が迫害される世界になってしまう。魔力を持つ者がこの世に生まれたように、必ずどこかでイレギュラーは発生する」
「⋯⋯っ」
「人が人である以上、人が心を持ち、自我を持つ以上差別はなくならない⋯⋯ってのが、俺の持論だ。言語の違い、肌色の違い、はたまた性別が違うだけで、人は区別する。そしてその区別は過激化していき、やがて差別となる。エリュシールの、誰かを救いたいという気持ちは理解できるし素晴らしいものだと思う。だが⋯⋯人類を滅ぼしこの世の中の固定概念を変えることが、根本的な解決になるとも俺は思わない」
これは難しい話だ。
正直、俺の言っていることが全て正しいわけではないし、真っ当な意見を言っているとも思わない。
あくまで俺個人の意見であり、それが正しいかどうかを決めることができるのは、俺でも、エリュシールでも、どこかに住む誰かでもない。
それこそエリュシールにとっては皮肉なことかもしれないが、神のみぞ知る⋯⋯というやつなのかもしれない。
「⋯⋯私がなにをしても、どう頑張っても、人類はまた同じ過ちを犯すというの⋯⋯?」
「絶対ではない。だが、過ちを犯さないとは断言できない。俺たちは人間だ。心があって、アレが好きとか、コレが嫌いとか、そういう感情を持っている。感情があるから、心があるから人は過ちを犯す。エリュシールの抱く理想郷を創るには、きっと⋯⋯人として失ってはいけない、心や感情までもを奪わないといけなくなる」
「⋯⋯私の行いは、全て無駄だったということ⋯⋯? あの犠牲は、リーウェルや他の魔女たちの死は、全て無意味ということ⋯⋯?」
「⋯⋯違う。そうじゃないんだ、エリュシール。答えはきっとシンプルなものなんだよ。だが、俺たちはそれに気づけない。答えに辿り着けない。だからこそ、祈るんだ。神様という偶像に。見たこともない、空想上の存在に。生きている以上、立ちはだかる壁を全て乗り越えることはできない。それは文明や、歴史だってそうだ。人が二人生まれれば、二つの思想が生まれる。その思想がぶつかり合うから、醜い争いが起きて、差別が起きてしまうんだ」
「でも⋯⋯でも、それだと⋯⋯」
「エリュシールは最後に気づけた。そうだろ? きっと、リーウェルたちが気づかせてくれたんだ。確かに、必要のない死ではあったかもしれない。だが、その死は無駄じゃなかった。最後に、そう気づかせてくれたじゃないか」
「⋯⋯!」
目を見開いたエリュシールが瞳から溢れる涙を零すように流しながら、地面に手をつき肩を震わせた。
鼻をすする音。そして小さく啜り泣く声が、やがて大きなものへと変わっていき。
「ごめん、なさい⋯⋯っ、ごめんなさい⋯⋯! 私は、私はただ自分のわがままを押し通したいだけだった⋯⋯! もっと、もっと話せばよかったのに⋯⋯! 私の思いを、願いを、みんなに⋯⋯!」
「エリュシールは悪くない⋯⋯とは、言えない。お前は罪を犯した。大罪だ。だからきっと、このまま死ねばお前は地獄よりも恐ろしい場所⋯⋯お前が教えてくれた、天獄ってところに送られるだろう」
「天、獄⋯⋯そうね⋯⋯私は、それだけの罪を犯したわ。私はもう、報われるべきではない存在よ⋯⋯だから、私は⋯⋯天獄すらも、受け入れないといけないわ⋯⋯っ」
死を受け入れるように、少し怯えながらも俺に向けて無防備な首筋を差し出してくるエリュシール。
そんなエリュシールに対し、俺は。
「だから⋯⋯俺がお前を救ってやる。お前は大罪人だ。決して天国にはいけない。だがせめて⋯⋯せめて、天獄でも地獄でもないところへ送ってやることはできる」
大鎌を持ち上げ、再度エリュシールの首筋に漆黒の刃をあてがう。
「言っただろ? 俺は"死神"だ。死神は、命を奪ったものを冥土へ送る者だ。まぁ、冥土がどんなところかは分からないし、もしかしたら天獄よりも厳しい世界かもしれない。それでも、少しは気が楽になるだろ?」
そう言うと、顔を俯かせ涙を流していたエリュシールがゆっくりと顔を上げた。
そして大きく目を見開いたと思えば、手で涙を拭い、満面の笑みを浮かべながら俺に向かって祈りを捧げてきた。
「あぁ⋯⋯嬉しい。本当は、神様って存在してたのね。ずっと否定し続けてきた。頭ごなしに拒絶してきた。でも⋯⋯最期は、死神様が私の命を貰ってくださるのね⋯⋯っ」
エリュシールの体が、淡い光に包まれていく。
だんだんと体が透き通っていき、命の灯火が消えていく。
魔力を莫大に消費する大魔術を連続で展開したことにより、きっと体に大きな負担がかかっていたのだろう。
いくら紅月の魔女に成ったとはいえ、その器まではまだ完全に成熟しきっていなかったはず。
エリュシールだって分かっていたのだ。あの星を落とす大魔術を展開することは、魔力の消費だけでなく自身の命を削る行為であることを。
そうまでしてでも、エリュシールは俺を超えたかった。倒したかった。自分の行いを、自分なりの正義を、わがままを、正しいことであると貫きたかったのだ。
それほどまでの覚悟を決めることは、決して簡単なことではない。
だから俺は、そんなエリュシールに対し敬意を表する。
こんな切羽詰まった絶体絶命の戦いを、俺のわがままを、ただのエゴに付き合ってくれたエリュシールに、最大限の感謝を。
「⋯⋯これで、正真正銘最後だ」
大鎌を大きく振り上げる。
赦しはいらない。慈悲もいらない。ただただ、敬意を持って俺はエリュシールを殺す。
それこそが、エリュシールにとっての救いとなるから。
「えぇ、ありがとう。そして、さようなら。私にとって、生まれて初めて──」
首を差し出してくるエリュシールに、大鎌を振り下ろす。
断末魔は上がらず。恨み言も口にせず、エリュシールはただソレを素直に受け入れた。
「────」
宙に舞う一つの首。
やがてその首は光の粒によって包まれていき。
死して生気を失う瞳。だがその瞳は、夜空を埋め尽くす星空と紅色を失った大満月によって照らされ、まるで宝石のように輝いており。
「──、────」
空を見上げながら、なにかを口にするエリュシール。
だがその言葉は、声にならないまま光に包まれて消えていき。
エリュシールどの長く続いた激闘は、これにてようやく幕を下ろし──
『──ありがとう』
「っ」
突如背後から聞こえてきた声に、俺は釣られるがまま後ろを振り向く。
するとそこには、先ほどエリュシールの手によって殺されてしまった──いや、俺が見殺しにしてしまったはずの、リーウェルの姿があった。
「リ、リーウェル、なんだよな⋯⋯?」
『えぇそうよ。まぁ、ココに留まっていられるのもあと僅かだけど』
その言葉の通り姿形はリーウェルそのものなのだが、その体は半透明に透けており、今にも消えてなくなってしまいそうだ。
だがこうして会話が可能だということは、彼女が意志を持っているという確固たる証拠であった。
だから俺は、拳を強く握り締めながら彼女の元へと歩み寄っていき。
「本当に、申し訳ないことをした⋯⋯!」
リーウェルに向け、ただ深々とお辞儀をした。
「見殺しにしたんだ、到底許されることではないと思っている。あの時の俺は、確かにリーウェルを助けることができたはずなんだ。それなのに俺は、自分の中での迷いに戸惑ってすぐに動くことができなかった⋯⋯! そもそもの話、最初に出会った瞬間からリーウェルを敵だと決めきって一切エリュシールを疑わなかった俺の──」
『分かった! 分かったから!! あーもう、そういうところ不思議とあの子そっくりね、本当に。ひねくれていてネガティヴ思考な癖に、変なところで真っ直ぐというか、なんというか⋯⋯』
謝りたい一心で謝罪を続ける俺の言葉を遮り、呆れたように首を横に振るリーウェル。
そして、こちらまで聞こえてくるほど大きなため息を吐くリーウェル。だがすぐに、その表情が柔らかいものへと変わっていき。
『ワタシは、あなたを許すわ』
「え⋯⋯?」
まさかの言葉に、つい素っ頓狂な声を上げてしまう。
許されるとは思ってなかった。恨みつらみを吐かれ、呪いをかけられてもいいとすら思っていた。
だがリーウェルはそんな俺の予想を大きく裏切り、見殺しにしてしまった俺を許すと口にしたのだ。
『まず訂正させてもらうけれど、第一にあなたはワタシを見殺しになんかしてないわ。あの時あなたはワタシの魔術を打ち破ったあとでしょう? いくら効かなかったとはいえ、少なくとも思考や判断が鈍っていた状態にいた。だからそれは仕方のないことよ』
「い、いや、だが⋯⋯」
『それに、話をしなかったワタシも悪いわ。昔からの悪い癖なのよね⋯⋯いつもワタシが話すと周りに分かりづらいとか、回りくどいとか言われるのよ。だから、あの場でワタシが月の魔女に成ろうとしてるのはワタシじゃなくてエリュシールの方だって、ちゃんと説明できればよかったのよ。それができなかった、しなかったワタシの落ち度が招いた惨劇だったのよ』
そう言われても。
リーウェルがそう口にしても、どうしても納得がいかない。
別に、リーウェルの話がめちゃくちゃだからというわけではない。むしろしっかりしているというか、話の統合性が取れているせいで否定したくても否定することができない。
それに先ほどまで敵対関係でいて真正面から命の奪い合いをしていた相手に対し、ここまで心を広くして許そうとしてくれるリーウェルが、俺にとっては不思議で仕方がなかった。
『むしろ謝りたいのはこっちの方よ。ワタシたちのいざこざに、無関係なあなたを巻き込んでしまったこと。ワタシが油断をしたせいであの子に殺されて、あなたに負担をかけてしまったこと。本当に、謝っても謝りきれないわ』
「ち、違う⋯⋯! それは、リーウェルが謝ることじゃない。リーウェルの罪は、罪じゃない。それに俺は、そんなことで謝られても──」
『そう。そんなことで謝られても、なのよ。あなたの気持ちと、ワタシの気持ちは同じ。謝られても、正直困っちゃうでしょう? あなたが悪人ならワタシも少しは思うところがあるけれど⋯⋯でも、あなたは違う。勘違いをして敵対していた相手を見殺しにしてしまったと悔いるあなたは、とても心が清らかで、素直で、純粋な良い人なんだとワタシは思うわ』
慈愛に満ちた表情を浮かべながら、俺の頬に手を添えるように腕を伸ばしてくるリーウェル。
だが今のリーウェルに実体はないのか、その手は俺の頬を撫でることはなかった。
それでもリーウェルは俺を慰めるように、そして俺を励ますように、撫でるように手を動かしていた。
『⋯⋯もう時間ね。最期にあなたと話せてよかったわ。あなたはもう、悔いる必要はないの。誰になにを言われようと、責められようと、あなたにその責任はないわ。だって、このワタシが許したのだから』
「リーウェル⋯⋯」
『最後に⋯⋯あの子の野望を、暴走を止めてくれてありがとう。どうしようもないあの子に、救いの手を差し伸べてくれてありがとう。月の魔女に立ち向かってくれた勇敢なあなたに、ただただ、感謝を──』
スカートの裾を軽く持ち上げ、礼儀正しくお辞儀をするリーウェル。
そしてリーウェルが顔を上げると、その半透明な体がより透明に透き通っていき。
「⋯⋯っ」
白い光の粒に包まれたリーウェルは、そのまま優しく吹く風に流されていき、星月夜の下に消えていった。
そんなリーウェルを追いかけるように腕を伸ばそうとすると。
いつの間にか、右手でなにかを握り締めていることに俺はそこで気づくことができた。
「これは⋯⋯」
それは片手で握ることができるくらい小さな、綺麗なひし形の水晶のようなものであった。
そのほんのりと青みがかった水晶の中には、まるで燃えているかのように輝く紅色の魔力の奔流が流れていた。
ひんやりとしているのに、真の方はじんわりとした熱を帯びている不思議な水晶。
俺はその水晶に向けて、ディーパッドをかざした。
【名称:光の魔女の煌めき】
【レアリティ:S+】
【所持効果:???】
【紅月の魔女ルナ・エリュシールが遺した塊。ソレは決して砕けることはなく、潰れることも、溶けることも、風化することも、劣化することもなく。ただ静かに、鮮やかな紅色の魔力を循環させ続けている。
──この声が届くまで、私は何度でもあなたを呼び続ける。これは私の想い。私の意志。いつかあなたが、振り向いてくれるその時まで】
説明文を読む限り、この水晶はエリュシールが残したナニかであることが明らかになった。
だが明らかになったのはそれだけであり、レアリティこそ最高クラスであるS+ではあるが、この水晶を持っていることで発動する効果は不明であり、少なくとも説明文を読んだだけではどう活用していいかよく分からないモノであった。
だが、決してゴミではない。使用用途は不明だが、きっといつかこの水晶が必要になる日が来るかもしれない。
そう思い、俺はその水晶をディーパッドにしまったのだが。
その瞬間、ディーパッドの画面が急に暗転したと思えば。
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称号【紅月夜ノ支配者】を獲得しました。
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画面に映し出された文字は、俺が新たな称号を獲得したことを知らせるものであった。
今俺は、既に【死神ヲ葬ル者】の称号を獲得している。つまりこれで、俺は二つ目の称号を獲得したということだ。
「新しい称号、か。一体、どんな効果が──」
その称号の詳細を確認しようとした瞬間、突如画面にノイズが走り、映し出された文字がまた新たな文字へと変わっていく。
そして新たに羅列された文字を前に、俺は。
「は⋯⋯?」
ただ、戸惑いを隠すことができなかった──
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EX称号【紅月ノ魔女ニ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎者】を獲得しました。
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