第74話 掲示板と天宮 沙羅
【死神アマツを語るスレ 10層目】
344 名無しの探索者
今ネットですごい騒ぎになってるな
345 名無しの探索者
謎のNPCエリュシール⋯⋯今までEXダンジョンには、NPC的な存在は一人もいなかった。だがその常識を、死神が変えやがった。
346 名無しの探索者
でもやっぱり怪しいよなぁ。
347 名無しの探索者
エリュシールたんがただただ可愛い
348 名無しの探索者
これ、普通にモンスターなんじゃないの?
349 名無しの探索者
エリュシールたん優秀すぎるな。豊富な支援魔法に、治癒能力が高い回復魔法。正直、アマツの相棒としてベストマッチしてる。
350 名無しの探索者
≫348 その可能性は低い。一応、ディーパッドがあれば実物じゃなくても写真さえ撮れればモンスターの詳細を確認することができる。だが、エリュシールを撮影しても【エリュシール】という名前が表示されるだけで、レベルも、危険度も表示されなかった。だからモンスターではないはず。
351 名無しの探索者
なんかアマツがカメラの奥であたふたしてるけど、なんかあったんかな。
352 名無しの探索者
≫350 それ、エリュシールがボスモンスターだからじゃないのか?
353 名無しの探索者
アマツがなんか頭抱えてるな。
354 名無しの探索者
エリュシールたんみたいな可愛い子とダンジョン探索できるなんて、羨ましすぎる。
355 名無しの探索者
エリュシールたん胸元が無防備だから、結構危ない場面が多いぞ。カメラに向かって前屈みになる度に大きな谷間が見えちゃってる。
356 名無しの探索者
≫352 ボスモンスターなら、そもそも名前すら表示されない。だから、エリュシールはボスモンスターではないと断言できる。
357 名無しの探索者
⋯⋯下着つけてなくね?
358 名無しの探索者
たゆんたゆんや〜
359 名無しの探索者
死神アマツを語るスレが、エリュシールたんを語るスレになろうとしてるぞ。
360 名無しの探索者
トレンド1位が【叢雨 紫苑】から【アマツ】に変動したぞ! 叢雨 紫苑は今回もダメだったな。
361 名無しの探索者
今回でアマツの実力が分かったな。危険度A+になると、さすがに厳しいと見た。
362 名無しの探索者
≫360 仕方ない。ガエンマルは現状発見されてるユニークモンスターの中でもかなり上位の強さだからな。ほとんどの攻撃が即死級の威力、速さなんてもうチートだよ。
363 名無しの探索者
エリュシールたんアイドルになりつつあるな。
364 名無しの探索者
⋯⋯なぁ。これ、エリュシールたんがユニークモンスターっていう可能性ないか? EXダンジョンだから、ユニークモンスターが出現してもおかしくないと思うのだが⋯⋯
365 名無しの探索者
エリュシールたんのファンになっちまったよ
366 名無しの探索者
トレンドに【エリュシール】が上がってるの面白すぎるだろ。
367 名無しの探索者
≫364 それはないと思う。ユニークモンスターが出現したら、乱入モンスターが出現したみたいにディーパッドから警告音が鳴るからな。少なくとも、アマツがエリュシールと出会った時にはそんな音は鳴らなかった。
368 名無しの探索者
仮にエリュシールが善良なNPCとして、ダンジョンを攻略したらこんな場所にまた1人ぼっちになるのかな⋯⋯
369 名無しの探索者
≫368 大丈夫。多分、エリュシールたんに会うために色んなディーダイバーが【深緑の大森林】に殺到するはずだ。これからドライアードリピー狩りが始まるぞ。
370 名無しの探索者
実際エリュシールが味方になるとすごい心強いよな。危険度A+のダークナイト・テラーが相手でも活躍できるあたり、そんじょそこらのディーダイバーよりも明らかに強い。
371 名無しの探索者
エリュシールの話題ばかりになってるが、アマツの快進撃がやばいぞ。新発見のボスモンスターを発狂させた状態で討伐して、それから更に新しいEXダンジョンの発見。危険度Aのバーングリズリーロアやシャドウジャッカルの単独撃破。これ、もうディーダイバーの中でも上位100位以内の実力確定だろ。
372 名無しの探索者
ドライアードリピー戦で急に動きが異常なくらい速くなったけど、あれ多分新しいスキルだよな。それとも、出し惜しみしてただけで前々から持ってた可能性もありそう。
373 名無しの探索者
いつかアマツにもガエンマルと戦ってほしいな。それとも先に、叢雨 紫苑がガエンマルを討伐するか。
374 名無しの探索者
いくら死神でもユニークモンスターはキツイだろ。そもそも、ユニークモンスターを楽々突破した奴なんてまだ誰もいないからな。ユニークモンスターを2匹討伐してるサイバーRyouも、どっちもギリギリの戦いだったし。
375 名無しの探索者
ユニークモンスターを討伐したディーダイバーの中で、一番討伐時間が短かったのは確か叢雨 紫苑だったよな? それでもガエンマルに致命傷すら与えることができてないと考えると、サイバーRyouでもガエンマルは討伐できなさそう。
376 名無しの探索者
ダークナイト・テラー戦で初めて目立った怪我をしたアマツだが、まだ本気を出してる感じじゃなかったんだよな。アマツは戦いを楽しんでるから、楽しむ余裕がなくなるほどの強敵と出会った時、どんな表情でどんな戦い方をするのかがすごい気になる。
377 名無しの探索者
とりあえず今はエリュシールたんのご尊顔をひたすら拝ませてもらうわ。
378 名無しの探索者
純粋で無垢そうだから、言葉巧みに操ればワンチャン悪いことできそうだな⋯⋯
379 名無しの探索者
まぁ、このダンジョンのボスモンスターはエリュシールたんが言ってた闇の魔女リーウェルでしょ。
380 名無しの探索者
≫379 もしくは、もうリーウェルが月の魔女ルナになってるかもな。
──────
掲示板上でのアマツは、エリュシールという存在もあってか一番注目されている話題となっていた。
だがそれは掲示板だけでなくネットやSNSでも同様であり、新種のモンスターであるドライアードリピーの討伐から始まり、新発見のEXダンジョンを探索していることで、アマツの話題は1秒足りとも尽きることはなかった。
SNS上でのトレンドも遂に【アマツ】の名が1位に上がり、2位には【叢雨 紫苑】が来て、3位には【死神】の名称が上がっている。
チャンネル登録者100万人を超えるディーダイバーですら、いくら配信してもトレンドに上がるのは難しいと言われている。
だがアマツは駆け出しのディーダイバーかつ、まだ2回目の配信だというのにも拘わらず、その話題は、知名度は、既にチャンネル登録者100万人を超えるディーダイバーを上回るようになっていて。
それに加え、まだ謎が多く、数多くのディーダイバーが挑むどころか見たことすらないEXダンジョンにアマツが挑んでいることが、更に拍車をかけており。
トレンドが1位に上がったこと。そして、未発見のEXダンジョンを探索していることからネット記事でも取り上げられ。
ドライアードリピーを討伐した時にはチャンネル登録者50万人を突破したアマツのチャンネルが、登録者67万人と、とんでもない勢いでその数を増やしていた──
──一方その頃、天宮 沙羅はというと。
『ねぇ見た今の!? やっぱりすごくない!?』
「あ、あはは⋯⋯もうすぐ1時だよ? そんな大声出してたら、莉子ちゃんお母さんに怒られちゃうよ?」
現在沙羅は、ディーダイバー界隈で話題になり時の人となりつつあるアマツの配信を、友達である莉子と通話しながら眺めていた。
今沙羅が見ている画面では、アマツがEXダンジョン【残夜の影く滅国】で最初に出会ったモンスター、バーングリズリーロアを見事討伐している場面が映し出されている。
黒き外套を身に纏い、漆黒色に煌めく刃を持つ大鎌を肩に担ぎながら、バーングリズリーロアの亡骸の上に立つアマツ。
そんなアマツの姿を見て興奮が止まらないのか、莉子がただただ嬉しそうな悲鳴のような声を上げていた。
『はぁ⋯⋯やっぱり、アマツかっこいいよぉ⋯⋯わたし、将来こんな人と付き合ってみたいな〜』
「へー⋯⋯莉子ちゃんって、こういう人が好みなんだ」
『だってクールでかっこいいじゃん! 沙羅ちゃんだって、もしこんな人が彼氏だったら嬉しいでしょ? わたしだったら、周りに自慢しちゃうなぁ。わたしの彼氏、アマツなんだぞーって』
完全にアマツオタクと化した莉子の声を聞き、沙羅は乾いた笑みを浮かべていた。
それもそのはず。なぜなら、そんな莉子が夢に見ているような男が、沙羅の兄──天宮 奏汰だからである。
沙羅の心境は、少し複雑だった。自分の兄が褒められ、称えられていることを嬉しいと思う反面、そんな兄が不特定多数の女の子たちにモテモテになっていることが、沙羅の心にあるモヤモヤを形成していた。
もちろん、沙羅だって理解している。自分の兄がモテているのは、ディーダイバーとして活躍しているからだと。
皆が見ているのはあくまで"アマツ"であり、"天宮 奏汰"ではないということを。
『はぁっ!』
『グラァァウッ!』
気づけば、先ほどバーングリズリーロアを倒したばかりのアマツが、今度は影の分身を作り出すシャドウジャッカルと戦い始めていた。
見たことがない兄の姿。見たことのない動きに、嬉しそうで、楽しそうな兄の表情。
沙羅は内心ハラハラであった。アマツの戦闘方法は、正直言って他のディーダイバーよりも危険で、かなり異質な攻め方をしているからである。
基本モンスターと対峙したディーダイバーは、まずは様子を見たり、遠距離から攻撃して相手の動向を伺うことが多い。
だがアマツはモンスターを見つけた瞬間嬉々として飛び出していき、モンスターの攻撃を紙一重で回避し続けながら、攻撃を叩き込んでいくのだ。
一般視聴者からすれば、そんなアグレッシブでクレイジーな動きに興奮し、アマツの異常なほど高い戦闘能力に夢中となってしまう。
だが、そんなアマツの妹である沙羅からしてみれば、危険な行動を繰り返し続ける兄が心配で心配で仕方がないのである。
『いっけー! やっちゃえー!』
しかし、そんな沙羅の事情など莉子は知らない。
そもそも、現状でアマツの正体を知っているのは実の妹である沙羅と、シルヴァという名前でプロゲーマーとして活躍している白銀 玲だけだ。
もしここで沙羅がアマツの正体を言ったら、きっと莉子は驚くだろう。
驚く友達の顔が見てみたい。そう思う沙羅ではあったのだが。
『ねぇ沙羅ちゃん。アマツって、どんな人なんだろうね〜? なんか噂だと、わたしたちの住んでる街の近くにあるダンジョンばかり潜ってるんだって。もしかしたら案外近くにいたりして!?』
「うーん、どうだろうね? ただの偶然かもしれないよ?」
『えー、そうかなぁ。沙羅ちゃんはさ、アマツの正体とか気にならないの?』
「⋯⋯まぁ、そこまでかなぁ」
だが、沙羅は莉子にアマツの正体を言うことはしなかった。
沙羅は知っていた。自分の兄は悪目立ちすることが嫌いで、どちらかというとひっそりと暮らしていたいタイプの人間だということを。
そして、兄がディーダイバーになったのは妹である自分のためであり、自分を養うために、怖くて危険なモンスターに立ち向かってるということを。
それでいて、身内である自分にチャンネルを教えなかったのも、兄である奏汰なりの照れ隠しであったということを、沙羅は全て理解していた。
それらを理解しているからこそ、沙羅は誰にも、絶対にアマツの正体が兄であることを言わないと決めたのだ。
それはもちろん、張本人である兄にもである。
『そういえばさ、沙羅ちゃんのお兄さんって今なにしてるの?』
「えっ、どうして?」
『だって、今お兄さんの家で一緒に住んでるんでしょ? こんな時間まで起きてたら、お兄さんに心配されないのかなーって思ってさ』
「あー⋯⋯うん。お兄ちゃんは今寝てるから、大丈夫だよ」
あまり友達に嘘はつきたくない沙羅だったが、家族として父や母よりも大好きで、心の拠り所となっている兄のために、沙羅は莉子に嘘をついた。
もし兄の正体がアマツであると明かしてしまえば、それは噂となり、あっという間に話が広まってしまうだろう。
それは兄が嫌う"悪目立ち"であり、自分のために頑張ってくれている兄を裏切ってしまうのと同義であった。
そしていつか友達に正体を明かしてしまったことがバレてしまった時、兄に呆れられ、嫌われてしまう可能性があるからだ。
「はぁ⋯⋯」
沙羅は生粋のブラコンである。
どれくらいブラコンなのかと言えば、兄が寝ている最中にその顔をつい写真で撮り、たまに見返してしまうくらいに兄のことが大好きなのだ。
そのせいか、莉子がアマツのことを褒める度に沙羅の表情は無意識のうちに笑顔になっていた。
純粋に、兄が誰かに褒められることが自分事のように嬉しいのである。
『でもよかったじゃん。沙羅ちゃんって、昔からお兄さんのこと大好きだったでしょ? そんなお兄さんと一緒に暮らせるなんて、最高じゃん』
「べ、別に、そんなんじゃないし⋯⋯」
『もしかして、ちゅーとかしちゃったり!? 兄と妹なのに、禁断の関係になっちゃったり──』
「っ!!」
そこで、沙羅は莉子との通話を強制的に終了させた。
それからすぐに莉子から再度電話がかかってくるものの、沙羅はそれを無視し、兄のベッドの上で横になりながら枕を抱きかかえていた。
「⋯⋯わたしがお兄ちゃんのこと好きなのは、この世でお兄ちゃんだけが私のことを裏切らないからだもん⋯⋯私の、世界で一番カッコイイお兄ちゃんなんだもん⋯⋯」
ぎゅっと枕を抱き寄せながら、沙羅はスマホの画面に映る兄の姿を眺めた。
沙羅は見蕩れていた。兄の姿に、見たことのない、兄の活躍に胸がドキドキと高鳴っていた。
だがそれと同時に、寂しくもあった。
兄が有名になればなるほど、その存在が遠のいていく気がして。有名になればなるほど、自分から兄が離れていくような気がして。
配信者として成功し、自分のためにダンジョンに挑んでお金を稼いでくれる兄のことを、沙羅は誇りに思っている。
だが、沙羅は寂しかった。兄と顔を見て話すことができるのは大体朝起きた時か、学校から帰ってきた時の少しの間しかない。
夜になればダンジョンへ潜り、土日も別の街に行ってダンジョンに潜ったりと。
同じ家に住んでいるはずなのに、日が経つごとに一緒に過ごす時間が減りつつあって。
「お兄ちゃん⋯⋯もっと、お話しようよ。お兄ちゃんがゲームしてるところ、みせてよ。一緒にまた、お出かけしようよ⋯⋯っ」
自分のため。それは分かっている。
だがそれでも、兄がアマツとしてディーダイバーになってから、家族として過ごす時間は確実に少なくなっていて。
もちろん、お金の大事さを沙羅は理解している。
しかしそれ以上に、沙羅は兄と同じ時を過ごし、一緒に同じことをして、同じものを見て、些細なことで笑いあっていたかったのだ。
例え、貧しい暮らしになったとしても。
「⋯⋯私、お兄ちゃんと一緒がいいよ⋯⋯」
沙羅の、兄にも言えない心の言葉が漏れた瞬間であった──
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