第65話 三度目の深緑の大森林-⑥
無事【深緑の大森林】のラストボスモンスターであるドライアドを討伐し終えた俺は、今残った太い木の根の上に腰を下ろしていた。
ディーパッドを取り出してみると、なんと同接数は7万人を超えていることが明らかとなり、そのおかげか、先ほどからピコーンピコーン! とスーパーチャットの音が鳴り止まない。
試しに、コメント欄を開いてみると。
────スーパーチャット────
¥10,000 まりも
・討伐おめでとうございます!
死神の快進撃は止まらない⋯⋯!
────────────────
────スーパーチャット────
¥5,000 赤木
・相変わらず戦い方が鮮やかながらも、圧倒的なまでの実力で相手をねじ伏せていくのが見てて面白いです。
これからも活躍に期待してます。
────────────────
────スーパーチャット────
¥25,000 通りすがりの金投げおじさん
────────────────
────スーパーチャット────
¥50,000 みぃみぃ
・アマツ様の配信、楽しみにしてました!
いつも応援(←まだ配信二回目なのにw)してますので、これからも頑張ってください!!
────────────────
────スーパーチャット────
¥2,500 アンドロメダ
・最高に面白かった
────────────────
────スーパーチャット────
¥30,000 りんごなしみかん
・初配信の時たまたま見かけて、そこからファンになっちゃいました! ラスボス討伐、本当におめでとうございます!
────────────────
────スーパーチャット────
¥8,000 LION
・めちゃくちゃすごかった。これからも応援するから、よろしく頼むぜ。
────────────────
スーパーチャットに載せられているコメントはどれも温かく、眺めているだけで元気が出てくるものだ。
だが、せっかくお金を貰っているのだから、ただ眺めているだけなのは失礼にあたってしまう。
だから俺は小さく笑みを作りながらも、カメラに向かって深くお辞儀をした。
「皆さん、スーパーチャットありがとうございます。数が多すぎて一つ一つ読むことはできないのですが、皆さんの気持ちをしっかりと受け取っています。おかげで、今回も配信を成功させることができました」
丁寧に、失礼のないように俺はそう口にする。
そして俺は再びコメント欄に視線を戻すのだが、普通に流れていくコメントの量がとんでもないことになっていて。
────コメント────
・いや、まじですごかった。初見であんな化け物倒すとか、やっぱあんたすげぇよ。
・死神という名に相応しい戦いだった! 見ててドキドキしたけど、余裕で期待を超えてくれるから本当に最高の配信だったよ!
・強すぎるだろ、本当に何者なんだ?
・これで発狂個体を討伐したのは二回目か。他にも発狂個体を倒してる配信者はいるけど、アマツほどスムーズじゃないからただただすごいわ。
・好きです、結婚してください。
・今回の配信がトレンド2位になったからか、チャンネル登録者がいつの間にか50万人超えてるぞ。このままだと100万人まで秒読みかな。
・新人ディーダイバー最強──いや、全ディーダイバーの中でもトップクラスの実力なんじゃないか?
・これからも推し続けるぜ、死神。
────────────
流れるコメントに、アンチ的なものは一切見受けられない。
どれも温かく、俺を賞賛し褒め称えるようなコメントの数々に、心が温かくなり力が湧き出てくる。
だから俺はカメラに向かって視聴者の人たちに何度も何度もお礼を言いながらも、流れてくるコメントと、スーパーチャットをしばらく静かに読み漁っていた。
「⋯⋯あっ、皆さんのコメントがありがたくてなんか感慨に耽ってました。そろそろ、モンスターの詳細とか調べた方がいいですよね」
ディーパッドを手にしながらそう言うと、キターー! や、待ってました! というコメントがコメント欄に多く流れてくる。
だから俺は、そんな視聴者たちの期待に応えるべく早速今回討伐したドライアドの詳細について調べてみることにした。
【個体名:ドライアードリピー】
【危険度:A-(特定条件下でのみA)】
【枯れ木の肉体を持ち、頭に紫色の魔女帽子を被った一人の魔女の成れの果て。一見害のないような見た目をしているが、自身のテリトリーに侵入した者はなにがあっても地の果てまで追い詰めるという恐ろしい執着心の持ち主。頭に被る思い出の帽子を奪う、もしくは破壊することで発狂する。一度発狂したドライアードリピーは、尽きることのない命が朽ちるまでただ一人で哭き続ける。
とある小さな村に、一人の少女が生まれた。その少女は植物を操り、本来なら咲く時期でない花々を咲かせたりと、人々が恐れ慄く"魔の力"を宿していた。
村の者たちはその少女を"忌み子"であると忌避し、物心を覚える前に少女は森に捨てられてしまった。
その森には、魔女がいた。魔の力を操り、人々に恐れられている魔の女がいた。だがそれは人々が勝手に作り出した噂話に過ぎず、魔女とは、ただ魔力をその身に宿しているだけの人間に過ぎなかった。
魔女に拾われた少女は、魔女から様々なことを教わった。魔女として生きていくための方法は勿論のこと、家事や炊事洗濯など、日々魔女と少女は笑顔の絶えない生活を送っていた。
ある日、魔女が少女を置いて家を飛び出した。机の上には普段から魔女が被っている紫色の魔女帽子と、一枚の手紙が残されていた。
"わたしは必ず戻ってくるわ。だから、あなたはわたしが戻ってくるまでの間、この森を守ってほしいの。自然を慈しみ、自然に愛されたあなたに、この長閑で豊かな森を守っていてほしいの。帰ってきたら、また一緒に美味しいチェリーパイでも作りましょう。約束ですからね、■■■"
尊敬する師であり親でもある魔女の言葉に従い、少女はたった一人で森を守り続けた。
何日も。何十日も。何百日も。何年、何十年経っても、森を守り続けた。
しかし、どれだけ待っても魔女は帰ってくることはなかった。やがて、長い年月を経て少女も魔女となり、世間から深緑の魔女と恐れられるようになった。
そして深緑の魔女となった少女は、知ってしまった。自分が尊敬し、愛する者が数十年も前に卑劣な魔女裁判によって火あぶりの刑に処され、一方的に虐殺されていたことを。
だが少女は、信じれなかった。認めたくなかった。だから少女は目を潰し、耳を落とし、ただ森の中で愛する者が帰ってくるのを待ち続けた。
寿命を迎えても、自身の魂を枯れ木の人形に宿すことで延命を続け、少女はいつまでも、いつまでも帰りを待ち続けている。
もう二度と帰ってくるはずのない者の帰りを、死した体で祈りながら──】
「⋯⋯⋯⋯」
なんとも、なんとも胸糞が悪い⋯⋯わけではないのだが、切なくて悲しいバックストーリーがドライアド──いや、ドライアードリピーにはあった。
それを視聴者の人たちにも見せるべくカメラにディーパッドを向けると、しばらくしてから一気にコメント欄が加速していき。
────コメント────
・おい死神ィ!
・お前見損なったぞ
・ドライアードちゃん可哀想
・てことは、この森自体がドライアードが守ってた森ってことになるのか⋯⋯?
・階層が進むに連れて自然がなくなっていったから、名前詐欺のダンジョンじゃねーかって思ってたけど⋯⋯深緑の(魔女がいる)大森林って意味だったのか。
・バックストーリーが悲しすぎる
・この森と、あの帽子はドライアードが守り続けてきたものだったんだね⋯⋯あれ? あの帽子、どうなったんだっけ?
・死神、お前やったな
・いやまさかこんなバックストーリーがあるとは思わんやろ
・死神がドライアードちゃんを泣かせました
・思い出の帽子を破壊しちゃったから発狂したってことで、おーけー?
・お前に人の心はないのか
────────────
「いや、だってそんなバックストーリーあるとか分からないでしょ普通⋯⋯!?」
コメント欄に流れるコメントにそう突っ込むと、コメント欄が笑いに包まれていく。
呆れたり、なにやってんだという風なコメントが多かったが、それはあくまで俺をいじるためであり。
そういうやり取りのおかげが、色んな意味でコメント欄が盛り上がっていた。
「えー⋯⋯こほん。気を取り直して、次はこのドロップアイテムですね」
だがそこで俺は一旦コメントとのやり取りを終え、ドライアードリピーがドロップした一本の杖の詳細を確認することにした。
【名称:深緑の魔杖】
【レアリティ:A】
【装備効果1:魔法・魔術威力増加(大)】
【装備効果2:消費魔力削減(50%)】
【装備効果3:常時魔力回復(中)】
【装備効果4:火属性魔法・魔術の威力減少】
【ドライアードリピーがまだ無垢な少女だった頃、尊敬する魔女から授かった杖。広大な大森林の中に眠る樹齢千年を超える神木の枝で創られた杖であり、そこには可愛い愛弟子への愛情が込められている。
少女にとってソレは、思い出の一つであった。目を覚ましてから眠りにつくまでの間、少女は決して杖を手放すことはなかった。しかしやがて、杖の創造者である師が帰らぬ人となった時。少女は杖を依代に枯れ木の人形を作り出し、己が命を杖と同化させた】
俺は桃葉さんのように【魔道士】ではないためよく分からないが、性能面ではかなり高水準な杖のような気がする。
高水準ではあるのだが、問題は俺にとってあまりにも不必要な武器というところだろうか。
いっそのこと、誰かに売ってお金にした方がいいか? いや、それはなんだか少し勿体ないような気がしてならない。
だが俺が持ってるだけだと宝の持ち腐れになってしまうから、有効活用できる桃葉さんにでもプレゼントするか?
いや、仮にプレゼントしたとして、桃葉さんが配信でこの杖を使ってたらまた色々な憶測が飛び交ってしまう可能性がある。
以前桃葉さんとコラボ配信をしたことで、たまにコメント欄に桃葉さんとの関係を探ろうとしてくる輩が一定数湧いてきたのを俺は思い出す。
だからこれは自衛のため、そして桃葉さんためにも、下手にこの杖を桃葉さんにプレゼントするのはやめておいた方がいいかもしれない。
「ドロップアイテムは⋯⋯これだけ、か」
前回デスリーパーを討伐した時、ドロップアイテムとしてデスリーパーは大鎌とローブを落としてくれた。
だから今回も武器と装備がセットでドロップするものだと思っていたのだが。
────コメント────
・あとは宝箱だけか?
・死神的にはあんまり美味しくない報酬だな。
・ドライアードリピーの説明文を読んだ感じ帽子を奪っても発狂するらしいから、あの帽子はもしかしたら特殊条件によるドロップかもね。
・もしかしたら杖がレアドロップで、帽子の方が普通のドロップアイテムだったかもしれないぞ? 発狂させるために死神が破壊したから、多分ドロップしなくなったんだろうな。
・この杖の性能だと、多分色んな配信者がこのダンジョンに潜りに来るぞ。それこそ、ドライアードリピー狩りが近々始まるかもしれないな。
・まぁ、なんとなく魔法職系の武器をドロップするのは予想ついてたけどね。
・売れば500万は余裕でいくだろうな。
────────────
配信のコメントを読んでいて、なるほどと思うコメントが目に入った。
確かに、ドライアードリピーの説明文には"帽子を奪う、もしくは破壊することで発狂する"と書いてあるから、あの帽子は俺が破壊したからドロップしなくなったのかもしれない。
発狂したデスリーパーを討伐し、そのドロップアイテムを装備することで、俺は称号を得ることができた。
だから同じ発狂個体であるドライアードリピーを、帽子を奪うという形で発狂させて討伐することができれば。
もしかしたら、あの帽子がアイテムとしてドロップしたかもしれない。
そしてその帽子と杖の二つを装備することで、デスリーパーの時と同じように称号を得ることができるのだろう。
だが、デスリーパーと違ってドライアードリピーは魔法系統のモンスターなため、例え称号を得たとしても魔法・魔術系のスキルや、クラスを手に入れることしかできないはず。
それなら俺としてみればあまりメリットはないため、再びこのダンジョンに潜ってドライアードリピーと相見える必要はないだろう。
「さーて、最後は待ちに待った宝箱だ」
ドライアードリピーを討伐したことで一つだけ宝箱をドロップしたのだが、その宝箱はなんだかいつもよりもサイズが小さめであった。
大きさ的に、武器は入ってないように思える。いや、仮に入っていてもナイフが一本だけとか、そんな感じのサイズ感だ。
だから俺は少しドキドキとしながらも、待ちに待った宝箱を開けてみるのだが。
「⋯⋯なんだコレ。天使の彫像、か⋯⋯?」
宝箱の中には、純白色の綺麗な天使の彫像が一つだけ置かれていた。
とりあえず、武器や装備、そして装飾品の類ではないことは分かる。
だから俺は早速、ディーパッドでその彫像の詳細を調べることにした。
【名称:大天使の再臨像】
【レアリティ:A+】
【慈悲深い大天使をモチーフにした彫像。乱入モンスター・ボスモンスターを討伐したエリアでのみ使用することができるアイテムであり、アイテムを使用することでそのエリアで討伐した乱入モンスター・ボスモンスターを召喚し再戦することが可能となる。
嗚呼、哀れな仔羊よ。あなたに慈悲を授けましょう。力を追い求める者に祝福を。私の想いは、再度貴方に大いなる試練を与えるでしょう──大天使サキナエルの書、第三章『悠久の時を駆ける者へ贈る山茶花』】
このアイテムの説明を見た時、俺は心の中でガッツポーズを取っていた。
せっかくボスモンスターを倒したのにどうしてまた戦う必要があるんだ? と、最初俺は感じた。
だが深く考えてみれば、このアイテムはとんでもない性能をしているのである。
仮に俺が、ドライアードリピーがドロップするであろう魔女帽子が欲しいという状況になったとする。
そうなった場合、またこの【深緑の大森林】を25階層まで潜る必要になるわけで。
だがもしこのアイテムがあれば、その面倒な手間を省くことができるということだ。
そんな状況になること自体稀有なことだとは思うが、この【大天使の彫像】があったらよかったのに──という場面は、いつか訪れる可能性がある。
だからこそこのアイテムはレアリティがA+なだけあって、かなりの当たりアイテムであると言えるだろう。
「さて、モンスターの詳細とかアイテムの確認も済んだところで⋯⋯今日はこの辺りで、配信を終わろうと思います。何事もなく、無事に踏破することができてなにより──」
在り来りなことを口にして、俺は配信を終わらせようとする。
だが、その瞬間。
──ヴゥン。
後方から、どこか聞き覚えのある低く鈍い音が聞こえた──
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