第58話 三度目の深緑の大森林-①
時刻は23時丁度。
俺は今、早速【深緑の大森林】の中に足を踏み入れていた。
そしてディーパッドを取り出し、配信アプリを起動してカメラを展開させる。
それから設定を『自動撮影』にし、配信を始めるためにディーパッドから色々とアイテムを取り出して装備していく。
【黒染の仮面】に【死神の黒纏衣】をベースに、ドロップ率を増加させる【愚鬼祈祷師の金指輪】を指にはめ、それから以前倒したジェネラルホッパーがドロップした【将軍飛蝗の黒飾靴】を履く。
この靴は、以前白銀をゴブリンシャーマンから助けた時に使用したため、使い勝手はもう分かっている。
高所から飛び降りた際に足への衝撃を軽減してくれるこの靴は、俺の【豪脚】を乗せた蹴りによる反動も吸収してくれるため、実に素晴らしい装備だと判明した。
問題はこの靴を履くことでさらに全身が真っ黒になってしまうことだが、世間で俺は"死神"と呼ばれているため、これでむしろイメージアップに繋がるだろう。
そして最後に、俺のメインウェポンである【首断ツ死神ノ大鎌】を手に取り、これにて配信の準備が完了となった。
「⋯⋯さて、始めるか」
ディーパッドの画面をタップし、俺は伝説の神回配信となった初配信以来久しぶりの配信をスタートする。
そして挨拶をするべくディーパッドを胸ポケットにしまおうとするのだが、その瞬間画面の右下にある数字が12となり、35となり、54と増えていく。
それは配信を見に来た視聴者の数を知らせる数字であり、まだ配信を初めて10秒ほどなのに、既に同接数が100人を越えようとしていた。
────コメント────
・めちゃくちゃ待ってた!!!!
・まじ? こんな急に始まる?
・全裸待機してたせいで風邪ひいたぞ
・アマツきたぁぁぁぁぁぁぁ!!
・死神は突然現れる。
・ずっと待ってたんだぞ、お前の配信をよぉ!
・第二回神回配信のスタートだ!
・てか、いつの間にかチャンネル登録者数38万超えてて草なんよ。
・死神が夜に舞い降りたぞ!!
────────────
カメラの横に表示されるコメント欄には早速コメントが流れていて、あまりの多さに目が追いつかなくなっていく。
気づけば同接数も1000、1200と増え続けていて、あまりの早さに俺は一瞬だけ息を詰まらせてしまった。
だがそれではまずいため、俺は一度ポーカーフェイスを保ちながらもゆっくりと深呼吸をし、カメラに向かって話しかけることにした。
「皆さんこんばんは、アマツです。今回は二回目の配信となります。よろしくお願いしますね」
そう言うと、コメント欄も一気に賑やかになって俺の配信を待ちわびていたという声が多く流れていく。
だから俺は一度カメラに向かって軽くお辞儀をしながらも、早速今回のダンジョンの説明をすることにした。
「今回挑むのは、限定型ダンジョンの【深緑の大森林】というダンジョンです。以前先輩ディーダイバーの方から教えてもらった場所でして、実はもう6階層目までは攻略済みなんですよね」
焦らず、ゆっくりと説明をしながら俺は話を進めていくのだが、今俺がいるダンジョンが限定型ダンジョンであると公開した瞬間、コメント欄がざわつき始める。
そして【深緑の大森林】が聞いたことのない名前のダンジョンだからか、まだ配信が始まって少ししか経ってないのにも拘わらずコメント欄は大いに盛り上がっていた。
「このダンジョン、最終階層到達者が未だに一人もいないダンジョンなので全何階層あるか分かりません。ですが、今日は一旦このダンジョンを踏破するまでは配信しようと思います。多分配信時間が長くなると思いますので、明日学校や仕事がある人は無理せずに見てくださいね」
俺の予想では、いくら順調にダンジョンを攻略しても夜の1時近くまで配信が続くと思っている。
今日は平日の夜だ。だから、視聴者の皆には無理せず配信見てほしいため俺はそう言ったのだが。
────コメント────
・アマツの配信を生で見なきゃ、絶対損するから最後まで応援するぞ!
・明日たまたま仕事ないから全然構わないぞ。
・学校休むから平気。
・アマツの配信だけは見逃せないんだ。これから4時間5時間と配信しても俺は最後まで見るからな。
・明日朝早いけどさすがにアマツの配信は見ないとダメだわ。
・桃葉モモとの関係は?
・とりあえず、6階層目まではサクサク進めそうだね。
・配信開始してからまだ少しなのに、同接数5000人とかまじでやばすぎる。それだけアマツの配信を皆望んでたんだな。
・神回配信期待してるぜ、死神。
────────────
皆が皆俺の配信を最後まで見ると言ってくれて、俺にはもう感謝の気持ちしか出てこない。
だから俺は、そんな視聴者の人たちが満足するような配信をしなくてはならないのだ。
「今回挑むダンジョンはモンスターの平均危険度がCなので、そこまで派手なことはできないと思います。それでも、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
最後にそれだけ言って、俺はカメラの横に表示されるコメント欄を閉じる。
これ以上コメント欄の人たちと話していると、どんどん貴重な時間が過ぎていってしまう。
こんか夜遅くにわざわざ見に来てくれた視聴者の人たちのためにも、今回の配信はサクサクッとスピーディーに進めていきたい。
だから俺は最初っからフル装備の状態で、どこまで続く自然豊かな森林の中を駆け抜けていく。
道中に出てくるモンスターを全て薙ぎ倒しながらも、俺はどこかにある【転送陣】を探して森の中を探索するのであった──
──────
『ゲギャ、ゲギャラァァ⋯⋯!』
配信が始まって15分が経過し、俺はお馴染みのゴブリンシャーマンがいる5階層目にまで到達していた。
最初に挑んだ時は【首突きの短剣】くらいしかマトモな装備がなかったが、今は違う。
デスリーパーがドロップしたローブと大鎌を装備し、足にはジェネラルホッパーがドロップした靴を履いている。
全てにおいてあの頃の俺よりも明らかにパワーアップしている今、ゴブリンシャーマンなどもはや相手にならない存在だろう。
「悪いな。今回は手っ取り早く済ませるぞ」
ゴブリンシャーマンが動き出す前に、俺は地を蹴って一気にゴブリンシャーマンへと肉薄していく。
それに対し、ゴブリンシャーマンは俺を迎撃するべく棍棒を振るうように杖を振り下ろしてくるが。
「もう見飽きたんだよ、それ」
『グギャ──ゲバッ!?』
振り下ろされる杖を蹴り飛ばし、そしてそのまま【空歩】を使用して体勢を整え、今度はゴブリンシャーマンの杖を持つ腕の肘を蹴り上げる。
それによってゴブリンシャーマンの腕は本来なら有り得ない方向に曲がり、あまりの激痛に耐えられないのか、ゴブリンシャーマンは背中から地面に倒れ込んでいた。
俺はそんなゴブリンシャーマンの鳩尾部分に降り立ち、倒れ込んだことによって無防備となったその太い首に目掛けて大鎌を振り下ろした。
『ゲ、ギャガ──』
首が切断されたゴブリンシャーマンは、そのまま呆気なく白い光に包まれて消えていってしまう。
俺の足元にはゴブリンシャーマンがドロップした【愚鬼祈祷師の金指輪】と、どこからともなく現れた宝箱がゴトッと置かれていた。
ものの数秒で、俺とゴブリンシャーマンによる戦闘に決着がつく。
だが、特にこれといった達成感はない。
装備が整ってしまった以上、ゴブリンシャーマンを倒すことなんて足元にいる蟻を踏み潰すくらい簡単なことであった。
「まぁ、こんなもんだよな」
俺は【愚鬼祈祷師の金指輪】を回収してから、宝箱を開けて中にあるアイテムを確認する。
そこには20センチくらいの白っぽい色をした魔石が入っていて、俺はその魔石を回収しながらも、とりあえずコメント欄に目を向けることにした。
────コメント────
・瞬殺とはまさにこのことだな
・デスリーパーより弱いとはいえ、一応危険度D+のモンスターだよな⋯⋯?
・マジで強すぎるww
・全ディーダイバーの中で一番爽快感のある配信な気がする
・完全にただの流れ作業だったな
・一体いつになったら死神の本気を見ることができるんだ⋯⋯?
・平均危険度がCのダンジョンとはいえ、5階層目突破までにかかった時間が15分ってヤバすぎだろ。
・ずっと走り続けてるけど、スタミナ無限なのかこいつ。
・逆にどんなモンスターなら死神を手こずらせることができるんだ?
────────────
コメント欄の盛り上がりは相変わらずであり、同接数もいつの間にか1万を超えている。
探索中にカメラからピコーン! という音が定期的に聞こえてくるため、多分スーパーチャットも既に結構投げられているはずだ。
だが、まだだ。
トップディーダイバーであるサイバーRyouクラスになると、同接数は10万を簡単に超えることが多いと聞く。
チャンネル登録者数が30万を超えているからって、全員が全員配信に来てくれるわけではない。
それでも、確実に同接数が増え続けているのもまた事実。
だから俺は一度、カメラに向かって軽く手を振ってコメントに応えることにした。
「とりあえず次の6階層目までが自分の知ってる範囲なので、7階層目以降は少し攻略スピードが遅れると思います。それでも、視聴者の皆さんが飽きないように頑張りますのでよろしくお願いします」
そう言うと、またもやコメント欄に流れるコメントが加速していく。
────コメント────
・全然いいぞ
・むしろ早すぎるくらいだわ
・あんまり無理すんなよな
・まだ配信始まって15分しか経ってないんだから、そんなに焦らなくていいんだぞ
・チャンネル登録者数が40万突破おめでとう!
・開始15分でスパチャ金額10万円越えは普通にやべぇよ⋯⋯
・今でも充分面白いから、俺らのことは気にせずアマツはアマツらしく楽しんでくれ〜
────────────
寄せられるコメントはどれも温かいコメントばかりで、本当に感謝しかない。
だから俺はカメラに向かって感謝のお辞儀をしながらも、コメント欄を閉じて視聴者の期待に応えるべく【深緑の大森林】6階層目へと向かうのであった──
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