第33話 桃葉モモとの突発コラボ!?
ど、どうしてこんなことになってしまったんだ。
やけに胸元が見えたり、綺麗で色白なおへそが見えてしまったり、下手すれば下着が見えてしまいそうなくらい短いスカートを履きながら飛び跳ねている女性──桃葉モモさんを目の前に、俺は内心そう呟いていた。
今日俺は、先日デスリーパーを討伐した際にドロップした【首断ツ死神ノ大鎌】の性能を確認するために、この【蠱惑の花園】に足を踏み入れた。
聞けば、このダンジョンは危険度B以上のモンスターが多く生息していて、かつフィールドも開けているとのことだったため、強力な大鎌を振るうにはもってこいの場所だと思ったのだ。
実際、道中に出てきた【ギガワーム】とかいうミミズや、ひたすら蜘蛛の糸を飛ばしてくる【キャッチスパイダー】などは、全て一撃で仕留めることができた。
首に攻撃が命中しなかった場合は生き残る個体もいたが、首にさえ刃が当たればほぼ確実に息を止めることができるため、この武器は本当に破格の性能をしてると言えるだろう。
そして俺は軽い足取りでひたすらダンジョンを突き進んでいたのだが、9階層目に足を踏み入れた時、すぐに異変に気づくことができた。
なぜなら、モンスターの数が今までより少ないのに、少し遠くの方でまるで雷が落ちたかのような騒ぎが聞こえたからである。
俺はそこに雷を扱う強力なモンスターがいると睨んで、その現場に直行したのだが。
その結果、今に至るというわけである。
「いやぁ、まさかあの伝説の神回配信を残したアマツさんとこんなところで出会えるだなんて! モモ、光栄です!」
「い、いやいや、伝説の神回配信だなんて大袈裟ですよ」
「大袈裟なんかじゃないですよ! あの配信、実はモモも見てたんです! たまたま配信まで時間があったから暇潰しにサイトを見てたらすごい盛り上がってる配信があって、試しに覗いたら丁度アマツさんがデスリーパーと戦ってるところだったんですよ!」
どうやら桃葉さんはあの配信をリアルタイムで見ていた人のようで、あの時の配信をまるで自分事のように興奮した様子で語っていた。
ネットやSNSで散々伝説だの神回配信だの言われてきたが、実際こうして面と向かって言われると、やはり恥ずかしいものがあって。
俺は我ながら冷たいなと思いながらも、桃葉さんの言葉にただ相槌を打つだけにして、余計なことは言わないように徹底した。
「それで、それで、あとあのシーンとかもめちゃくちゃすごくて──」
「も、桃葉さん? 感想を言ってくださるのはありがたいのですが、そろそろ攻略を再開しませんか⋯⋯?」
「あっ! それもそうですね! すみません、夢中になってました!」
自分の後頭部を撫でながら、たははーと笑う桃葉さん。
テンションが高くて賑やかなのはいいことだが、さすがにこれ以上俺の話が続いてしまうのは、配信的にまずいだろう。
あくまで今俺は桃葉さんの配信にお邪魔しているのであって、俺の枠で配信しているわけではない。
つまり桃葉さんを見に来た視聴者がいるわけで、その視聴者からしたら桃葉さんが俺のことを喋りまくっているのはあまり気持ちよくはないはずだ。
俺は敵を作りにきたわけではない。だから早いうちに話を切り上げて、さっさとダンジョン攻略を再開したいのだ。
「とりあえず⋯⋯先に進みますか」
「そうですねっ。あ、でもモモ実はまだ魔力が回復しきってなくて⋯⋯次の階層、ボスモンスターが出るじゃないですか? だから、少し待った方がいいと思うんですけど⋯⋯」
「それなら任せてください。桃葉さんの魔力が回復するまで、俺が先陣を切りますので」
魔法や魔術を使用するには、魔力が必要不可欠となる。
そして魔力を回復するには、時間経過による回復か、魔石を使用して魔力を回復したり、特定のモンスターのアイテムを使用して回復する必要があるらしい。
手っ取り早く回復するなら魔石やらアイテムを使用した方がいいのだが、今現段階で魔法が必要になるほど、モンスターに手こずっているわけではない。
だから俺が桃葉さんを守りながら進めば、桃葉さんはアイテムを使うことなく魔力を回復できるため、桃葉さん的にも悪い話ではないだろう。
「えっ、いや、でもいいんですか? モモ、魔力がないと本当にお荷物になっちゃいますよ? 一応、近接武器は持ち歩いてはいますけど⋯⋯」
「大丈夫です。こういうのは適材適所って言うじゃないですか。桃葉さんにはできるだけ魔力を温存していてほしいんです。この先、なにが起きるか分かりませんから」
「なるほど⋯⋯確かにその通りですね! 分かりました! 魔力が回復するまでの間、よろしくお願いします!」
俺に向けて、ビシッと敬礼をする桃葉さん。
本当に分かってくれているのか少しだけ不安だが、今はとりあえず桃葉さんを信じるべきだろう。
なんて、ダンジョンの中央で移動することなく会話を続けていると、危険が迫ってきてもおかしくはなくて。
『キシャァアァァアッ!』
どこからどもなく現れたギガワームの出現により、俺と桃葉さんの会話はそこで一時中断となる。
俺は両手で大鎌の柄を強く握り締めながら、地を蹴ってギガワームへと肉薄していく。
後方からなにか驚くような声が聞こえた気もするが、俺はそれを無視して跳躍し、そしてギガワームの首に目掛けて大きく大鎌を振りかぶり。
「ふっ!」
『ギバッ──』
一振り。そのたった一振りでギガワームの首を切断し、絶命させる。
そしてそのまま俺は地面に着地しようとするのだが──
『キ、シャアァァアァッ!』
『キシャラァァァッ!!』
絶命したギガワームの足元に広がる地面から、突如として2匹のギガワームが顔を出してくる。
そして、地面に着地しようとする俺の足を喰らうべく、その2匹のギガワームは牙がビッシリと生え揃った大口を広げながら俺が落ちてくるのをまだかまだかと待ち構えていた。
「アマツさん、危ないっ!?」
桃葉さんの声が後方から聞こえてくるが、俺はそんな桃葉さんに対し軽く手を挙げ、大丈夫であるとジェスチャーを送る。
このギガワームたちの存在は、1匹目のギガワームが出現した時から気づいていた。
なぜなら、俺の直感に働きかける【危険予知】のスキルが、目の前に現れたギガワームだけでなく地中の方にもなにかがあると警鐘を鳴らしていたからである。
だから俺は空中で体勢を大きく変えて、頭から地面へと垂直に降下するようにギガワームへと接近していく。
そして、ギガワームが俺の頭部を喰らうべく2匹同時にこちらへ向かって体を伸ばしてきた瞬間──
「⋯⋯相変わらず安直な動きだな」
俺は噛みつかれるギリギリのところで【空歩】を使用し、空中での軌道を修正する。
だがそんな俺の動きにギガワームたちが反応できるはずもなく、2匹のギガワームは互いの頭に頭をぶつけ、仲良く体を仰け反らせていた。
そのタイミングを狙って、俺は逆さまで降下しながらも大鎌を振るい、ギガワームの首を2匹同時に切断する。
なにが起きたのか分からないギガワームは断末魔すら上げることなく絶命し、それを見届けた俺は地面スレスレで体勢を元に戻し、膝を使ってふわっと着地した。
「⋯⋯ふぅ。さて、桃葉さん。これ以上ギガワームが集まるのは厄介ですし、そろそろ先へ進みますか」
「は、はい! そそ、そうですね!」
なんだかやけにぎこちない桃葉さんだが、俺が大鎌を肩に担いで歩き出すことで、こちらに向かって早歩きで駆け寄ってくる。
そんな桃葉さんがなんだか小動物みたいだなぁと心の中で思いながらも、俺は桃葉さんと一緒に、10階層目を目指して【蠱惑の花園】9階層目を歩き進めるのであった──
──────
「(待って⋯⋯本当にもうムリ。ワタシ、夢でも見てるのかな⋯⋯? あのアマツさんと一緒にダンジョン攻略とか、ヤバすぎるんだけど⋯⋯!)」
なんて心で叫びながらも、ワタシ──じゃなくて、モモは前を歩くアマツさんの後ろに着いていく。
さっきのアマツさんの戦い、なにが起きたのか分からなかった。
いきなりギガワームが現れたと思ったら、モモが状況を理解する前にアマツさんが一瞬で倒しちゃったし。
でもその後、地面から2匹のギガワームが追加で現れたんだよね。
あの時はアマツさんは空中にいたから、さすがに危ないと思って声をかけたんだけど⋯⋯。
「(あの手のジェスチャー、大丈夫って意味だったんだよね⋯⋯? 多分、手は出さなくてもいいっていう意味で合ってると思うんだけど⋯⋯まさか、本当に2匹同時に倒しちゃうだなんて⋯⋯)」
アマツさんはディーダイバーの中で唯一、発狂したデスリーパーを討伐した人なんだよね。しかもソロで。
だから2匹のギガワームを前にしても平気そうだったし、なんなら余裕をもって行動してたような気がする。
やっぱり身体能力がすごいっていうのもあるけど、アマツさんの持つ最大の武器は反射神経だとモモは思う。
一瞬で戦況を理解して、ギリギリまでモンスターの攻撃を引き付けて、1番ジャストっていうタイミングで攻撃を与える。それが、アマツさんの戦い方。
口で言うのは簡単だけど、実践しろって言われたらまず無理。モモが同じことしたら、多分今頃ギガワームに食べられてると思う。
「桃葉さん、止まってください。シビレモスが2匹います」
「あっ、はいっ!」
ひゃ〜! アマツさんに声かけられちゃった!
いやホント、モモって昔からアマツさんみたいな悪い見た目をしたヒーローが性癖というか、とにかく大好きなんだよねぇ。
だから、ぶっちゃけアマツさんみたいな人がすっごくタイプだったりしちゃうわけ。
身長が高くて、細身に見えるのに上着がめくれた時に見える腹筋が素敵で、口数は少ない寡黙タイプなのに声色が結構優しめで。
しかもオラオラ系じゃなくて話してみたら丁寧な感じだから、"死神"っていうあだ名とのギャップでもう大ファンになっちゃった。
それにモモがオニゴロシムカデにやられちゃいそうになった時、間一髪で助けてくれたところも⋯⋯偶然とはいえ、やっぱりキュンってしちゃうよぉ。
「桃葉さん、もう大丈夫ですよ。さぁ、行きましょうか」
「──えっ、も、もう終わったんですか?」
「はい。足元に丁度いい石が落ちてたんで、頭部を狙い撃ちしてみました」
狙い撃ちって、ここからシビレモスがいたところまで15メートルくらいありましたよね?
そんなこと配信でしたらもうコメント欄とか大盛り上がりで間違いなしだし、もっと胸を張って自慢げにしてもいいと思う。
でもアマツさんは、それが普通かのように振る舞ってる。
見せつけることも自慢することもなく、それが自分流の戦い方だと、信じて疑わないように。
なにそれ、本当にカッコイイんだけど。できれば石じゃなくて、懐に忍び込ませた黒い投げナイフとかだったら120点満点だったんだけど。
はぁ〜⋯⋯モモ、今どんな顔になってるんだろ⋯⋯だらしない顔とか、してないよね⋯⋯?
別に、アマツさんことが好きなわけじゃない。1回助けてもらっただけで好きになるような、チョロインじゃないんですからモモは。
そりゃ、配信者としてのアマツさんはカッコよくて素敵だけど、そこに恋愛感情は芽生えてない。
でもでも、もしこのダンジョン攻略が終わったらオフで打ち上げとかしたいな〜なんて、思ってみたりして!
「桃葉さん、10階層目への【転送陣】がありましたよ」
「ふぇっ!? あっ、ほ、ホントだ! さっすがアマツさんですね〜」
「⋯⋯いえ、自分はただ真っ直ぐ歩いていただけですが」
あぁ〜、そのちょっと困ったような表情が可愛くていいんですよねぇ。
それなのに、モンスターを前にしたら表情がキリッとするのが、もう本当にご馳走様ですって感じで⋯⋯。
「それじゃあ、桃葉さん。行きますよ?」
「は、はいっ! やってやりましょう!」
一足先に【転送陣】の上に立つアマツさんと肩を並べて、モモも【転送陣】の上に立ちます。
そして目を閉じて、モモはアマツさんと一緒に10階層目へと向かうのでした──
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