第22話 光苔の洞窟-⑦

 乱入モンスターであり、危険度Aに指定されている【デスリーパー】を討伐することができた俺は、いつものように戦利品を確認しようとしていた。


 だがそんな俺を邪魔するように、目の前にやって来たカメラからピコーン! ピコーン! ピココココーン! と、連続でとある音がなる。


 その音の正体。それは、オーガを討伐した時にも聞いた、スーパーチャットが送られてきた時に鳴る音であった。


 どれだけ待っても、音が中々鳴り止まない。


 そのため、俺は一度コメント欄を確認しにいくのだが。


────スーパーチャット────


 ¥5,000 チンチラ

・デスリーパー討伐おめでとう!

 ぶっちゃけ、勝てるって思ってなかった!


────────────────


────スーパーチャット────


 ¥10,000 オルドミール

・記念の初スパ。デスリーパー討伐はすごすぎるから誇っていいぞ。


────────────────


────スーパーチャット────


 ¥20,000 通りすがりの金投げおじさん


────────────────


────スーパーチャット────


 ¥8,500 P.B.Y

・最高のショーをありがとう。

 今後も期待してます。


────────────────


 まるで雪崩のように流れるスーパーチャットの嵐に、俺は戸惑いを隠せずコメント欄の前で固まってしまっている。


 ディーパッド右下に映し出される視聴者の数を示す数字は、なんと2684。チャンネル登録者もいつの間にか2107人と、有り得ない現象が起きていた。


「えっ、えーと、その、えぇ⋯⋯?」


 ただひたすらに、困惑が止まらない。


 だが俺がそんな反応を見せている間にもカメラからはピコーン! ピコーン! と音が鳴っていて、コメント欄の速度も恐ろしいくらいであった。


────コメント────


・マジですごすぎた!

・これで初配信とか、まじでヤバすぎる!

・唯一無二の偉業を達成したぞ、これ。

・アマツ、お前最高!

・Aスキル使ってないよな!? まじやべぇ!

・アマツ! アマツ!!

・デスリーパーを単独撃破でしかも無傷とか、どうなってんだよ!

・どっかの配信者のドッキリ企画とかじゃないよな? それだったら許さんぞ。

・【速報】配信初めて1時間で、スパチャ額が10万を超える。

・これで同接数2600人とか、少なすぎるww

・生で見れてよかった! アーカイブで見る奴ら、絶対悔しがるぞこれ笑

・1番最初から見てるけど、まさかこんなことになるとは⋯⋯

・期待の新星じゃない。期待の超新星や!

・発狂したデスリーパーを倒した配信者なんて、多分お前くらいやぞ。

・これからもずっと応援するわ!!


────────────


 温かい──いや、あまりにも温かいすぎるコメントの数々に、ほんの少しだけ目頭が熱くなってしまう。


 だが【黒染の仮面】をしているおかげか、俺の目が若干潤んでいることはコメント欄の視聴者たちにはバレていない様子で。


 俺はただただ、配信に来てくれた視聴者たちに感謝の言葉を告げることしかできなかった。


「皆さんありがとうございます。スーパーチャットも、本当に嬉しいです。まさか初めての配信でこんなことになるなんて思ってなかったんで、ちょっとなに言えばいいか分からなくなってます⋯⋯すみません」


 感謝の気持ちを伝えたいのに、どうも上手く言葉が出てこない。


 だがそれでも、コメント欄に流れてくるコメントは優しいコメントばかりであり。


────コメント────


・いやいや、充分でしょ。

・相変わらず丁寧だなw

・戦ってる時とのギャップがすごすぎて風邪ひくわ。

・意外と声が優しめなの草

・なんだ? もしかして生粋のバーサーカーだったりするのか?

・もっと胸張ってええんやで

・てか、何気にドロップ品とかすげー気になるわ。

・初見で発狂したデスリーパー倒したのに、あんまり嬉しそうじゃないね?


────────────


 流れてくるコメントの中から、俺はとあるコメントを拾う。


「"初見で発狂したデスリーパー倒したのに、あんまり嬉しそうじゃないね?"ですか。あー、その、なんといいますか⋯⋯正直なところ、危険度Aの乱入モンスターって教えてもらったんでもっと強いもんだと思ってたんですよね」


 そう。ダンジョンに出てくるモンスターは、1番弱くて危険度F、1番強いのが危険度Sなのだ。


 細分化すればそこに+とか-とかも出てくるが、それでも危険度Aは中々上位の強さのモンスターであることが分かる。


 だから俺はデスリーパーに期待していたのだが、期待外れとまではいかないものの、数多あるスキルの内、俺は【空歩】しか使わなかった。


 別に使おうと思えば使えるスキルはまだまだあるのだが、それだと一方的な戦闘になってしまうため、非常に面白くない。


 せっかくゲームのような体験ができるのだから、戦闘はギリギリのところを楽しみたいのである。


 そう考えると、俺から【空歩】しか引き出せなかったデスリーパーは、そこまで強いモンスターではなかったのである。


 なんて言っていると、コメント欄に流れるコメントが再び爆速になり。


────コメント────


・強者発言すぎるww

・前世はどこかの星の戦闘民族でしたか?

・デスリーパーじゃ、アマツの本気が見られないってコト!?

・えぇ⋯⋯

・お前頭おかしいよ(褒め言葉)

・実際無傷だもんな

・これ、装備とアイテムが充実してる配信者涙目すぎるだろw

・実際、武器が棍棒だけでもいい勝負ができるって証明できたもんな。

・えげつないよお前⋯⋯

・なんかデスリーパーが可哀想に見えてきたわ

・狂ってるね。そういうの好きよ


────────────


 なんかよく分からないが、コメント欄は盛り上がっているためとりあえずは大丈夫だろう。


 そんな感じで俺はコメント欄を眺めたり、定期的に送られてくるスーパーチャットにお礼を言いながらも、デスリーパーの情報をディーパッドで調べてみることにした。


【個体名:デスリーパー】

【危険度:A(特定条件下でのみA+)】


【闇色をしたローブを身に纏い、漆黒色の刃を持つ大鎌を手に生者の首を求め彷徨う骸骨。その姿から死神と呼ばれ、生きとし生けるものたちを恐怖のどん底へと叩き落とす。胸中にある赤い水晶はデスリーパーの記憶を司るモノであり、ソレに触れると忽ちデスリーパーは絶叫し、発狂状態へと以降する。一度発狂したデスリーパーは、命絶えるその時まで生者の首を狩り続ける亡者の執念に囚われ続ける。



 かつて、1人の少女がいた。農民として生まれた少女は貧しい生活を送っていながらも、家族と楽しい日々を過ごしていた。


 しかしある日、少女が住む農村が山賊に襲われ、家族や村の人たちは皆帰らぬ人となった。一人生き残った心優しき少女はやがて復讐の鬼となり、たった一人で山賊を襲撃し、一晩で山賊頭領以外二十余人の首を晒し上げた。


 そんな少女に残ったのは、父親が草刈りで使っていた鎌と、母親が大事にしていた赤い宝石のブローチのみ。


 やがて少女は山賊頭領に殺され、短き一生を終えてしまう。そんな少女の飽くなき執念は、死神になっても尚治まることを知らない】


 という説明文を読み、俺は大きく息を吐く。


 な、長い。あまりにも文章が長すぎる。


 だが危険度が高いモンスターは、それだけバックグラウンドというか、ストーリーがあるのだろうか?


 それに、どうやらデスリーパーも特定条件を満たすと危険度が変動するモンスターだったらしい。


 俺はてっきりあの赤い宝石が弱点だと思っていたのだが、説明文を見た感じだとどうやら触れてはいけないもののようであった。


 あれだけ弱点ですよ〜みたいな雰囲気を放ってるくせに、触れたら発狂して強くなるだなんて、罠にもほどがある。


 それだけ、あの赤い宝石はデスリーパーにとって大切なものだったのだろう。


「⋯⋯さて、次はドロップアイテムだな」


 デスリーパーの情報を見終えたため、今度はドロップアイテムの確認に移る。


 今回ドロップしたアイテムは、全部で2つ。


 1つ目は、俺がデスリーパーとの戦闘で最後に奪ってトドメの一撃を与えた、大鎌である。


 そして2つ目は、デスリーパーが羽織っていた闇色をしたローブなのだが。


────コメント────


・デスリーパーって武器ドロップするのか

・確か、デスリーパーがドロップするアイテムってローブだけって話だったよな?

・レアドロップか? それとも、なんらかの条件を満たしたからなのか?

・少なくとも、大鎌をドロップしたっていう情報は今までどこにも上がってないはず。

・ここにきてまさかの新規武器登場かよ

・アマツの運が良すぎる件について


────────────


 コメントによると、どうやらデスリーパーがドロップするのはローブだけというのが、視聴者たちの中での常識だったらしい。


 それからしばらくコメントを眺めていても大鎌に関するコメントは一切なく、もしかしたら俺が初めてこの大鎌を獲得したディーダイバーなのではないかとのこと。


 そんなコメントを見て少しだけニヤケながらも、まずはこのデスリーパーが脅威と呼ばれる所以となっている大鎌について、調べてみることにした。


【名称:首断ツ死神ノ大鎌】

【レアリティ:A】

【装備効果1:聖属性特攻(大)】

【装備効果2:首へのダメージ増加(特大)】

【装備効果3:攻撃命中時、相手の体力が一定値以下or低確率で即死効果発動】


【漆黒色の刃が特徴的な大鎌。大きく取り回しが難しい分、攻撃力は絶大。湾曲した刃による切断は当然のこと、刃の背部分による打撃の威力も侮れない。狭い場所では扱えない代物だが、広々とした場所なら最上級の破壊力を誇る凶刃となる。


 ①聖属性特攻は、精霊など聖の魔力を有するモンスターに対するダメージが倍になる。


 ②即死効果は、攻撃が首に命中すると即死確率が上昇する。また、首のあるモンスターや生のあるモンスターには有効だが、精霊などの霊体モンスター、そしてスケルトンやゾンビなどのゴースト系モンスターには即死効果は発動しない。


 かつては小さな鎌だった。草を刈るためだけの、小さな小さな鎌に過ぎなかった。やがてその鎌は肉を切り、骨を断ち、血を吸い、髄を舐め、命を奪う悦びを知った。その狂気に満ちた愉悦は錆だらけの己を黒く染めていき、こびりつく憎悪は刃を煌めかせる膏と成った】


「こ、これは⋯⋯」


 説明を読んで、とりあえず分かったことがある。


 この武器、ぶっ壊れです。


 ただでさえ首へのダメージが微かに増加する【首突きの短剣】が強かったのに、この武器に関してはなんと増加値が"特大"だ。


 それだけでも驚きなのに、そこに即死属性まであって、聖属性特攻とかいう効果まである。


 これでレアリティAとか、レアリティSの武器とかどんな性能しているのか、気になって気になって仕方がない。


 試しに【首断ツ死神ノ大鎌】の性能だけを読み上げると、コメント欄も思った通りの反応を見せてくれて。


────コメント────


・いや、いやいやいや

・ぶっ壊れ武器で草ァ!

・そんな武器持ってりゃ、デスリーパーがあんだけ強いのも納得がいく

・性能がヤバすぎる

・即死属性持ちってマジかよw

・聖属性特攻武器って、めっちゃレアだったよな? 聖属性特攻だけでも強力なのに、他が強すぎてオマケに見えてしまう。

・首をよく攻撃するアマツの戦闘スタイルにもってこいの武器じゃん。

・効果は強力だけど、大鎌っていう武器種がちょっとピーキーよね。

・扱いにくい分、性能モリモリってことか。いや、それでも充分強いんだけど。

・オークション出したら余裕で何千万にもなる代物だぞ、これ。


────────────


 やはり視聴者たちもこの武器のことをやばい性能と言っているため、中々お目にかかれないくらいの大当たりなのだろう。


 俺はそのことに再度ニヤつきながらも、最後にデスリーパーが羽織っていたローブの情報を確認した。


【名称:死神の黒纏衣】

【レアリティ:A-】

【装備効果1:呪い無効】

【装備効果2:瘴気無効】

【装備効果3:スキル『低速落下』の発動】

【装備効果4:スキル『即死耐性』の発動】


【死神がその身に纏う闇色の死装束。復讐という強い執念を持って編まれた死装束には強い負の感情が練り込まれていて、呪いや瘴気を無効化するほどの憎悪が眠っている。


 ①モンスターの危険度がA以上、もしくは武器やアイテム等のレアリティがA以上の場合、呪いと瘴気無効の効果は破られてしまう。どちらもA-以下ならば、完全に打ち消し無効化する。


 かつては白い服だった。かつては快晴の青空の下、お花畑を駆け回る元気の象徴であった。やがて復讐に駆られ、その白は血を吸い、髄を啜り、泥にまみれ、雨に濡れ。かつての眩しい美しさはどこへやら、今はもう黒き憎悪に染め上がってしまった】


 このローブに関しても、かなりいい性能をしてるといっても過言ではないだろう。


 正直呪い無効と瘴気無効、そして【即死耐性】のスキルに関してはどうでもいいのだが、中には俺ですら持っていないスキルがある。


 それは【低速落下】のスキルであり、調べてみるとどうやら跳躍したり崖から飛び降りる際に、落下速度をゆっくりにできるスキルのようであった。


 つまりこれがあれば、もしとんでもない奈落の落とし穴とかにハマってしまっても、落下死を免れることができるということになる。


 このスキルは中々、使い勝手の良さそうなスキルであった。


 それに【空歩】との相性も良さげなため、このローブと大鎌にはしばらくお世話になりそうである。


「⋯⋯さて。それじゃあ、新しくゲットした武器と防具を装備して先に進みますか」


 俺はローブを羽織り、そして片手に大鎌を持って肩に担ぐ。


 そして一度コメント欄とお別れをしつつも、ダンジョンを攻略するべく次の8階層目を目指して、先へ先へと歩き進めるのであった。




 ──この時、アマツは気づかなかった。


 アマツが新しく獲得した大鎌やローブに見蕩れている時に、ディーパッドが微かに振動していたことを。


 だがその振動は、乱入モンスター出現のお知らせでも、モンスターの新たな情報を取得したお知らせでもない。


 アマツのディーパッドの画面には、とある文字が映し出されていた。


────────────────────


 称号【死神ヲ葬ル者】を獲得しました。


────────────────────

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