第20話 盛り上がる掲示板とコメント欄
天宮 奏汰──もとい、アマツが【光苔の洞窟】でダンジョン配信をしている頃。
完全匿名性で他者と情報共有をすることができる掲示板の、とあるスレッドにて──
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【登録者1万人以下のディーダイバーについて語るスレ 14階層目】
425 名無しの探索者
最近の新人、なんか微妙なやつ多くね?
426 名無しの探索者
≫425 そりゃ、今更ディーダイバーになるとか時代遅れ感あるしな。今時ディーダイバーになる奴なんて、大半がただの一般人だろ。
427 名無しの探索者
いや、ちょっと前に結構腕のいい新人いたけどね。まぁ、とあるダンジョンのボスモンスターにボコボコにされてトラウマになったのか、もう1週間以上配信してないけど。
428 名無しの探索者
ちょっと前まではここも1日で1000レスまで余裕でいってたのに、今じゃ数日経ってようやく100レスくらいだよな。
429 名無しの探索者
≫428 そりゃ、話題に上がる奴はすぐに登録者1万人いっちゃうしな。新人発掘として有名だったここも、もう潮時かな。
430 名無しの探索者
おい、お前ら。話ぶった切って悪いんだけど、なんかすげー新人見つけたかもしれんわ。
431 名無しの探索者
まじで急に来たな笑。で? どうせ運動神経だけが取り柄みたいな奴だろ?
432 名無しの探索者
もしくは、ただ顔が可愛いだけの奴とかなw
433 名無しの探索者
ちげーよ、ガチですごいんだって。
434 名無しの探索者
≫433 ちなみに登録者は?
435 名無しの探索者
≫434 今日配信したばかりだから、まだ200人くらい。でもまだ配信時間が50分くらいなのに、同接数がもう300を超えてる。
436 名無しの探索者
は?
437 名無しの探索者
草。それ誰かのサブ垢とか、そういう落ちじゃないよな? 前もあったぞ、そーいうの。
438 名無しの探索者
いや、違う。オレも初めて見た奴だ。名前は【アマツ】って奴。一応配信先のURL貼っておくわ。
439 名無しの探索者
ふーん、見てみるか
440 名無しの探索者
アマツとかw 名前が痛すぎるww
441 名無しの探索者
≫438 は? ちょっと待てや。アマツって、この顔に仮面を着けてる奴で合ってるよな?
442 名無しの探索者
≫441 そう、それそれ
443 名無しの探索者
≫442 なんでこいつ、デスリーパーと戦ってんの??
444 名無しの探索者
!?!?
445 名無しの探索者
デスリーパー!? 嘘だろ?
446 名無しの探索者
ただ絡まれてるだけなんじゃねーの?
447 名無しの探索者
いや、違う。コメント欄を遡ってみたけど、なんかとりあえずで戦ってるらしい。で、今はデスリーパーとの戦闘が始まって5分が経過してるらしい。
448 名無しの探索者
とりあえずで戦うとか、ヤバすぎて草
449 名無しの探索者
≫447 で、戦況は?
450 名無しの探索者
≫449 アマツは無傷。デスリーパーは両肩にヒビが入ってる。
451 名無しの探索者
はい???
452 名無しの探索者
え、デスリーパーを押してるのか?
453 名無しの探索者
≫452 完全に押し切ってはないけど、流れは完全にアマツになってる。コメント欄の盛り上がり方も、登録者200人の配信とは思えないくらいの勢いだぞ。
454 名無しの探索者
おいおい。騙されたと思って見てきたけど、まじだったわ。しかも、今回でダンジョンに挑戦するの2回目らしい。
455 名無しの探索者
ダンジョン挑戦回数が2回目で、今回が初配信のくせにデスリーパーに挑んでんのか!? おいおい、めちゃくちゃ面白そうじゃん!
456 名無しの探索者
ついに期待の新星が現れたか?
457 名無しの探索者
こいつ、多分一瞬で登録者1万人超えるぞ。よくこんな奴発掘したな。
458 名無しの探索者
≫457 Dtubeのオススメ欄に出てきて、興味本位で見たらまさかの大当たり。5階層目に出てくるボスモンスターのオーガも、3分も経過せずに瞬殺してたしな。
459 名無しの探索者
オ ー ガ 3 分 ク ッ キ ン グ
460 名無しの探索者
でも所詮サイバーRyou以下でしょ?
461 名無しの探索者
うわ出た。サイバーRyou信者だ
462 名無しの探索者
≫460 スレッドのタイトル見ろよ。サイバーRyouなんかの話題出すなks
463 名無しの探索者
てか、アマツって奴別のスレッドにも名前が上がってたぞ。確か【初配信ディーダイバーを見守るスレ】ってところだった気が
464 名無しの探索者
今アマツの配信見に行ったけど、コイツ本当にダンジョン初心者か? 装備品とか、割と充実してるぞ。
465 名無しの探索者
武器の【黒鉄の爪刃手甲】は宝箱からしか出ないやつだな。仮面は知らん。多分宝箱だと思う。指にある金の指輪はゴブリンシャーマンがドロップするやつに似てるな。
466 名無しの探索者
うわっ、特定早杉
467 名無しの探索者
おい、お前ら。割とマジで早く見に来た方がいいぞ。デスリーパー相手にここまで戦えるやつ、滅多にいないぜ。
468 名無しの探索者
≫467 でもどうせ、聖属性系のアイテムを使ったゴリ押しとかだろ? 前どっかの有名配信者がそれやってたぞ。
469 名無しの探索者
あー、あの聖水ハメのやつね
470 名無しの探索者
≫468 いや、ゴリ押しなんかじゃない。武器はさっき465が言ってた【黒鉄の爪刃手甲】なんだけど、あくまでサブ武器だ。このアマツって奴、ゴブリンがドロップする棍棒でデスリーパー殴ってやがる。
471 名無しの探索者
え?
472 名無しの探索者
なんだそいつイカれてんだろww
473 名無しの探索者
やべぇ、めっちゃ面白そう。おれ見てくるわ!
474 名無しの探索者
そうだな。とりあえず、お手並み拝見だ。
475 名無しの探索者
まぁ、見てみる価値はありそうだな
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それからもまだまだスレッドは続いていき、いつの間にか話題がアマツに関することで埋め尽くされていく。
1時間で10レス集まれば御の字のスレッドが、ものの数分足らずで100レス以上集まり、あっという間に賑やかなスレッドへと返り咲く。
そして、一方のアマツの配信はというと──
──────
──カンッ! キンッ! ガキィンッ!
静かな空洞の中に、金属同時がぶつかり合い弾き合うことで生じる、甲高い金属音が鳴り響いている。
「はぁっ!」
『カタ、カタカタッ!』
アマツが接近して手甲を突くように振り抜くが、その一撃はデスリーパーの大鎌によって弾かれてしまう。
その隙を狙ってデスリーパーがアマツの首を狙うが、アマツは【空歩】のスキルを利用して空中で体勢を整え、大鎌の刃を手甲の爪刃の部分で受け止めて弾き返していた。
それにより、デスリーパーに一瞬の隙が生じる。
そこでアマツは棍棒を構え、大鎌の柄を握るデスリーパーの手首に、棍棒による重い一撃を叩き込んだ。
そのせいで脆い棍棒は砕け散ってしまうが、デスリーパーにもちゃんとダメージは入っていて、手首の骨が欠けて光のエフェクトが飛び散っていた。
────コメント────
・やばい、やばいやばい!
・いいぞアマツ! もっと攻めろ!
・慎重にいけ! 時間はたっぷりある!
・結構棍棒消費したぞ。大丈夫か⋯⋯?
・でたー! 謎の二段ジャンプ!
・あんなスキル、今まで見たことないぞ。
・動きが早すぎる。運動神経どうなってんだ?
・うおっ、今の攻撃よく躱したな。運動神経だけじゃなくて、動体視力もスゴすぎる。
・まさかまさかのデスリーパー討伐なるか!?
────────────
アマツとデスリーパーが繰り広げる戦闘によって、視聴者たちはもうお祭り騒ぎのように盛り上がっていた。
そこに『新人ディーダイバーがデスリーパーと戦ってるぞ』という掲示板の情報によってやって来た視聴者も加わり、同接数はなんと脅威の976人と、4桁の大台に乗りかけていた。
『カタ、カタカタカタッ!』
だがアマツが自由に攻めまくることで、デスリーパーは確かな苛立ちを露わにしていた。
最初は一撃一撃丁寧に、かつ正確に大鎌を振るっていたデスリーパーだが、今では突然デタラメに大鎌を振り回したりと、攻撃パターンが変化している。
もちろん、デタラメに振り回してもアマツには当たらない。
だが、一撃でも喰らってしまえばお陀仏になりかねない大鎌がデタラメに振り回されているとしたら。
いくら当たらないにしても、突然予想外の方向から刃が飛んでくる可能性があるため、迂闊に接近することはできない。
質よりも量を重視した選択は、デスリーパーがアマツと対峙して独自に考え抜いた結果の手段だろう。
さすが危険度Aのモンスターというべきか、その戦闘能力と敵への順応性は、オーガやゴブリンシャーマンとは比べものにならなかった。
「⋯⋯ははっ、いいぞ! やっとそれらしくなってきた!」
だがアマツは怯んだり臆したりするわけでもなく、むしろデスリーパーの攻撃が変化したのが嬉しいのか、意気揚々とデスリーパーに立ち向かっていく。
両腕に装着された手甲の爪刃をチャキチャキと鳴らしながら、目まぐるしい速度で繰り出される大鎌の乱舞の中へと、アマツは突っ込んで行った。
鋭い横薙ぎを、棒高跳びの如く背面跳びで回避しながらデスリーパーへと接近し。
眉間へと振り下ろされる縦振りを、スキルの【空歩】を利用して紙一重のところで躱し、そしてデスリーパーの懐へ。
そこでアマツは、デスリーパーへ立ち向かっていくと同時に拾った棍棒を片手で構え。
そして、デスリーパーの下顎に強烈な一撃を叩き込んだ。
────コメント────
・うぉおぉぉおぉぁおぉおっ!?
・なんだ今の動き!?
・オーガ戦でやった神業キターーー!!
・芸術性が高すぎんか?
・コイツ、狂ってやがる。デスリーパーが怖くないのかよ。
・デスリーパーって、前登録者80万人越えの配信者を一方的にボコしたモンスターだよな? なんで戦えてるんだよ。
・化け物だ。こいつ、正真正銘の化け物だ。
・おい、戦闘中に笑ってやがるぞコイツ
・アマツ! アマツ!!
・ディーダイバー最強ランキングが久しぶりに変動するぞこれ!
・おい、誰かこの配信切り抜けよ。絶対だからな!!
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だがアマツは、なにも知らない。
コメント欄が盛り上がっていることも、掲示板のスレッドが自分の話題で持ち切りなことも、かなり下の方だが、SNSのトレンドにも『アマツ』の名が載っていることも。
アマツがダンジョンに挑み、配信する理由は、妹である沙羅のため。
そして、異世界の空気に馴染み過ぎたせいで滾る血潮を、落ち着かせるためだ。
金は稼ぎたい。そうは思っているアマツだが、トップディーダイバーになろうとは考えていない。
だからアマツは変に視聴者に媚びることなく、常にコメント欄を監視するように見続けるわけでもなく、ただ自分が楽しみたいがためにダンジョンに挑んでいる。
そんなアマツの楽しむ心が、純粋にダンジョンを探索するその姿が、人々を魅了し、そして惹き付けていく。
『カタカタ、カタカタカタッ!』
「⋯⋯ちっ、やっぱり脳みそがないから顎を殴っても怯まないか⋯⋯」
コメント欄がアマツの攻撃によって湧いている中でも、アマツはしっくりきていないような、そんな表情で首を傾げている。
普通なら顎を殴れば脳震盪が起こるため、大きな隙ができる。
しかしデスリーパーは骸骨──肉体を持たないスケルトン系のモンスターなため、当然顎を殴っても揺れる脳がない。
だからこそ、脳震盪が起こることもないのだ。
地面に転がっている棍棒の数は、残り10本。あっという間に半分も使ってしまったアマツだが、それでもアマツは楽しそうに笑う。
自分の力を、自分の実力を、全開とまではいかないが久しぶりに解放することができる快感は、異世界を救ったアマツにしか分からない。
そして、アマツとデスリーパーとの戦闘はいよいよ終局へと向かっていく──
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