第17話 光苔の洞窟-③

 【光苔の洞窟】の、5階層目で待ち構えてたボスモンスターであるオーガを討伐した俺は今、ディーパッドを使って戦利品の確認をしていた。


 戦利品とは普通はアイテムを指す言葉だと思うが、俺にとっての戦利品は、討伐したモンスターの情報も含まれている。


 そのため、まず俺はオーガがドロップしたアイテムや宝箱の中身を確認することは後回しにし、先に今討伐したオーガの情報をディーパッドで確認することにした。


【個体名:オーガ】

【危険度:D】


【全身に筋肉の鎧を纏う、額にある2本の小さな角が特徴的なモンスター。小鬼と呼ばれるゴブリンと同様、ゴブリンが成長した姿のように見えるオーガは"大鬼"と呼ばれることが多い。武器として使用される棍棒は、生息地によって材質が変わる。


 彼は、恐れを知らぬ勇敢な戦士だ。彼は、恐れを知ることなく生きた無知なる戦士だ。その無知は、彼を傲慢へと導く。やがて無知で傲慢な戦士は、死する時に本当の恐怖を知るだろう】


 やはり、倒したモンスターの情報をこうして見漁るのは中々面白い。


 だが、本題はここからである。


 俺が今1番気になっているのは、オーガがドロップしたアイテム──薄茶色をした腕輪の詳細だ。


 俺は地面の上に転がっている腕輪をディーパッドに保存し、それからその腕輪の詳細を確認することにした。


【名称:大鬼の双角腕輪】

【レアリティ:D+】

【装備効果:スキル『恐慌耐性Ⅰ』の発動】


【オーガの額に生える小さな双角が埋め込まれた腕輪。重厚な見た目に反して軽く、装備者の動きを阻害することはない。腕輪の材質は、オーガの持つ棍棒の素材によって変わる。


 恐れを知らぬ大鬼の意思が宿る双角は、装備者に微かな勇気を与えるだろう】


 2回ほど【大鬼の双角腕輪】の説明を読んだ俺だが、正直な感想を言うと微妙な性能であった。


 見た目は案外カッコイイのだが、装備しても効果が『恐慌耐性Ⅰ』のスキルしか得られないため、そこまで嬉しいわけではない。


 それに、俺は異世界でこのスキルの完全上位互換にあたるスキルを取得しているため、この腕輪を装備するメリットがなかった。


「まぁ、それはいいとして⋯⋯問題は、宝箱の中身だよな」


 ゴブリンシャーマンを倒した時に出た宝箱からは、今俺が顔に着けている【黒染の仮面】が出てきた。


 その経験から考えると、ボスモンスターを討伐した時に出てくる宝箱の中身は、ボスモンスターとは関係のないアイテムが出てくる可能性があるということだ。


 それなら、個人的には武器が欲しいところだ。


 今俺が持っている武器は、ゴブリンハンターがドロップした【首突きの短剣】1本のみ。


 ただでさえそこまで耐久力があるわけではない武器なのに、今回のダンジョン探索ではずっとこの短剣を使ってきたため、そろそろ限界も近いだろう。


 武器が欲しい。武器が欲しい。と、心の中で強く願いながら宝箱を開くと。


「おぉぉ⋯⋯お、おぉ⋯⋯?」


 宝箱の中身には、俺が願っていた武器が眠っていた。


 だがその武器は、今まで俺が扱ったことも触れたこともない武器であり。


「⋯⋯ここにきて、まさかのクローかい」


 宝箱の中には、2本の爪のような刃が甲の部分から伸びる黒色の手甲が、2つほど綺麗に置かれていた。


 俺はその爪付きの手甲にディーパッドをかざし、とりあえず情報を読み取ることにした。


【名称:黒鉄の爪刃手甲】

【レアリティ:C】

【装備効果:攻撃を与え続けることで、相手に出血状態を付与(中)】


【熱と衝撃に強い黒鉄の手甲に、鋼鉄で出来た爪状の刃が装着された武器。切り裂いたり突き刺したりなど攻撃の幅は広いが、剣のように斬るのには向かない。相手に攻撃を与え続けることで、出血状態を付与することができる。


 ①出血状態を付与すると、相手に固定ダメージを定期的に与えることができる。


 ②出血状態が付与された相手は、傷の治りが著しく遅くなる。


 それは肉を裂き、骨を断ち、鮮血を撒き散らす凶爪。身につけた者はやがて飛び散る血の香りに酔い、戦を求める獣へと豹変する】


 性能として見れば、悪くない。いや、むしろかなり優秀な部類だ。


 両手に装着すれば爪刃の数は合計4本になるため、今持っている短剣よりも遥かに手数を増やすことができる。


 それに攻撃を続ければ相手に『出血状態』を付与できるのも魅力的だ。


 血を流さない相手には発揮しない効果だが、それでも手数で相手を押すことができるため、もしかしたら俺に合っている武器かもしれない。


「⋯⋯あっ、今配信してるんだった。まずいまずい、忘れてた」


 オーガ討伐の報酬を全て確認し終えた俺は、おもむろにディーパッドの配信画面を開くのだが──


「え゛」


 俺はディーパッドの画面の右下にある数字を見て、驚きのあまり変な声が出てしまっていた。


 それもそのはず。なぜなら、いつの間にか俺の配信を見に来てくれている視聴者の数が、なんと200人を突破していたからだ。


 しかも数えられる程度のコメントしか流れていなかったコメント欄が、今では多くのコメントで溢れ返っている。


 一体なにが起きているのかが分からない。


 だが今目の前で起きていることは、紛れもない事実であった。


────コメント────


・あ、やっとこっちに気づいたぞ笑

・オーガに夢中だったからな、仕方ない

・期待の新人、現る!

・さり気なく宝箱からいい武器ゲットしてんね〜

・ドロップアイテムも、割と貴重なスキルが貰えるやつだよな。

・アイテム運が良すぎる

・今1番勢いのある配信かもしれないなココ

・初配信40分くらいでこの盛り上がりはエグすぎるww

・もしかして、初配信で最終階層の10階層目までクリアしちゃう感じか?


────────────


「いや、え、えっ?」


 流れが止まらないコメント欄に、こちらも困惑と動揺が止まらない。


 なんてあたふたしていると、突然俺の目の前で停滞浮遊しているカメラから、ピコーン! と、軽快な音が聞こえてきた。


────スーパーチャット────


 ¥2,000 PanDa

・オーガ討伐のご祝儀です。


────────────────


 スーパーチャット。それは配信者にお金を渡して送るコメントであり、投げ銭とも言われている機能だ。


 そんなスーパーチャットがいきなり飛んで来たことにより、さらにコメント欄は盛り上がり。


────コメント────


・ナイスパ!

・もう投げ銭飛んでるの草

・ナイスパ

・ナイスパ!

・あんなの見せられたら送りたくなるのも無理ないわ。

・おめでとう!

・分かる。アマツ、あんたは最高のエンターテイナーだよ。

・最近の新人は微妙な奴が多かったけど、久しぶりに大当たりを見つけた気がするわ。


────────────


 どんどん送られてくるコメントに、対応が間に合わない。


 だがとりあえず、俺は今まで見てきたディーダイバーたちの配信を思い出して、当たり障りのない返答をすることにした。


「え、えーと、ぱんださん、でいいのかな? スーパーチャット、ありがとうございます。ご祝儀、大切に使いますね。それと、あまり他の配信者の方を下げるようなコメントはお控えいただけると幸いです。コメントを残した方はそういったつもりではないかもしれませんが、どうかよろしくお願いします」


 少し早口になってしまったが、とりあえずは伝えたいことを噛まずに視聴者たちに伝えることができたとは思う。


 すると、俺が口を開いたことでまたもやコメント欄がコメントによって埋め尽くされていく。


────コメント────


・意外と礼儀正しいの、好感持てる。

・オーガと戦っている時と倒し終わったあとのギャップがすごい

・結構声若いけど落ち着いてるね。ディーダイバーになる前から配信とかしてたのかな?

・推してもいいですか?

・この配信、是非アーカイブに残してくれ。オーガ戦の前から参加したから、その前の活躍見れてないんだ。

・この盛り上がりでチャンネル登録者120人ってマジ? これ、近いうちに跳ね上がるぞ。

・今のうちに古参名乗っておきま〜すw


────────────


 なんだか、収拾がつかなくなってる気がする。


 まぁ、全部のコメントを返す必要がないのは分かっているのだが、配信を初めてまだ1時間も経っていないのに、この盛り上がり方は正直異常だと思う。


 だがそのおかげかチャンネル登録者はいつの間にか120人になっているし、言ってるそばから121人、124人と、登録者がじわじわと増えつつある。


 なにが起きているのかよく分からないが、俺がしたいのは視聴者と戯れることではなく、ダンジョン探索兼モンスターとの戦闘だ。


 だから俺は、一度コメント欄に向けて頭を下げ。


「すみません。コメントに返信したいんですけど、ダンジョンの先に進みたいので一旦コメント欄を見るのはまた後にしますね」


 そう言って、俺はカメラに背を向けて音が反響するほど広々とした大空洞の中を、1人歩き進めていく。


 そして俺は、大空洞の真ん中にあった次の階層へ俺を導いてくれる【転送陣】を発見し。


 俺は早速【転送陣】の上に乗り、次の階層である6階層目へと転送されるのであった──

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