第7話 下調べ
「はぁ? ディーダイバーについて教えてくれって?」
翌日の昼休み、俺は3階にある空き教室にて4人の友人たちに囲まれている火野の元に訪れていた。
火野の周りにいる奴らは同じクラスの奴もいれば他クラスの奴もいて、皆が皆「なんだコイツ」と言いたげな目で、俺のことをジロジロと見てきた。
「えーと、天宮だっけ。なに、お前もディーダイバー目指してんの?」
「ちょっとね。家庭の都合でどうしてもお金が必要でさ」
と言うと、火野の隣にいた奴がぷっと吹き出す。
それに釣られて周りの奴らもクスクスと笑い出すのだが、火野だけは真面目に俺の顔を見て話を聞いてくれた。
「ほら、火野ってチャンネル登録者5万人だろ? Dtubeの中なら結構上位層じゃん」
「まぁ、一応な」
「だから、1番信用できるかなーって思ったんだ。それに、火野レベルの配信者ならダンジョンのことについて知らないこともあんまりないんじゃないかなーって思ったんだ」
へりくだりゴマをすり、情報を引き出すべく自分を下げに下げまくる。
そうすることで火野も多少は気分がよくなったのか、俺を見て笑う奴らを一言で黙らせ、そして再び俺に視線を戻してくれた。
「で、聞きたいことって?」
「ほら、ダンジョンって外から物を持ち込むことができないだろ? じゃあ、どうやって配信してるのかなーって」
「え、そこからかよ。天宮、お前まさかディーパッドのことも知らんの?」
そう言って、火野が胸元の内側にあるポケットからスマホよりも一回りほど大きな端末を取り出した。
「ダンジョンに入ると誰でも貰えるんだよ、これ。それで、これには色んな機能があってさ──」
俺にディーパッドという真っ白な端末を見せつけながら説明をしてくれる火野だが、残念ながら俺はディーパッドについての情報を今朝調べ終わったところだ。
ダンジョンに入ると目の前に宝石が飾られた台座があるらしく、その宝石に触れるとディーパッドが目の前で生成されるらしい。
ディーパッドには様々な機能があり、その中の1つに配信という機能があるのだ。
そこで少し、違和感を抱く。なぜダンジョン内で生成されるものが、現実世界へ配信できるようなシステムが組まれているのか。
その真相は明らかになっていないが、少なくとも誰でも貰えるディーパッドに配信機能があるということは、ダンジョン側から配信を推奨しているような気がして。
「おい、天宮聞いてんのか?」
「あ、ごめんごめん。初めて見る物だからさ、夢中になってたよ。ちなみに、火野が使ってる道具とかも全部その中に入ってるんだよな?」
「あぁ。おかげで持ち運びが便利で助かってるぜ」
そう。ディーパッドには、ダンジョンでゲットした武器防具、そして道具類をデータとして保存する機能が搭載されてある。
そうすることでいつでもどこでもダンジョン製の物を持ち運べるらしく、重宝するとのこと。
一応ディーパッドがなくてもダンジョンから物を持ち出すことはできるらしいが、そうすると色々と物に変化が起きてしまうらしい。
剣や槍などの武器は朽ちてガラクタになり、鎧やローブなどの防具は塵となって消え、道具は形はそのままでも効力がなくなるらしいのだ。
つまりダンジョンでゲットしたものを別のダンジョンで使うには、ディーパッドに保存することが必須なのである。
と、案外親切に教えてくれる火野だが、俺が聞きたいのはそんな情報ではない。
俺が聞きたいのは、そう。ダンジョンの場所である。
「ところで、火野がオススメするダンジョンってこのあたりにある? 出来れば、人があまりいないようなダンジョンがいいんだけど」
「あー、そうだなぁ⋯⋯オレが普段入ってるダンジョンは隣町の空き地に出来たダンジョンなんだけど、この辺りだと海辺の双子岩の上に出てくるダンジョンがオススメだな」
「海辺の双子岩? そんなところにダンジョンがあるのか?」
「あぁ。しかも夜11時から12時限定らしいぞ。これ、知ってる奴少ないからあまり言いふらすなよ」
そう言って口の前に人差し指を立てる火野に、俺は分かったと頷いて答える。
調べたところによると、ダンジョンには2種類のパターンが存在するらしい。
1つは、常駐型ダンジョン。
出現したら24時間昼夜問わず存在し、いつでも誰でも入ることができるダンジョンのことだ。
そしてもう1つは、限定型ダンジョンだ。
それはとある一定条件下でのみ入口が出現するダンジョンであり、開いている時間も長くて1時間、短くて数分と非常に短いらしい。
火野の説明からして、海辺の双子岩の上に出現するダンジョンは後者の方だと言える。
そんなダンジョンを教えてくれるだなんて、火野ってもしかしたら普通に良い奴なのかもしれない。
「そのダンジョンは⋯⋯まぁ、行けば分かる。初心者向けのダンジョンだから、天宮にはもってこいかもな」
「なるほどな⋯⋯分かった。火野、色々と教えてくれてありがとう。最初は厳しいと思うけど、とりあえず頑張ってみるよ」
「おう。頑張ってな」
火野にお礼を言って、俺は空き教室を後にする。
今日の夜、俺は早速火野から教えてもらったダンジョンに潜り込む。
だがダンジョンに挑むのは初めてなため、配信はしない。色々と、調べたいことが多いからだ。
時間でいえばあと10時間後。どんなダンジョンが待ってるか、楽しみである──
──────
「なぁ、いいのかよ。あんなこと言っちゃってよ」
天宮が教室を出てからすぐに、火野の取り巻きの1人である近藤が、火野に声をかける。
「は? なにがだよ」
「いやだって、火野が教えたダンジョンってアレだろ。噂だとめちゃくちゃやべーらしいじゃん。この前も、どっかの配信者が挑戦して手も足も出なかったって」
「まぁ、そりゃあ20階層以上あるって噂のダンジョンだしな」
ダンジョンには階層というものがあり、エリアの中にある【転送陣】と呼ばれる魔法陣の上に立つことで、次の階層に挑むかダンジョンから脱出するかを選ぶことができる。
基本的にダンジョンの階層は5の倍数になっていて、1番簡単なダンジョンは全5階層。そこから10階層20階層と、どんどん難易度が上がっていく。
そしてダンジョンの難易度は、その階層数によって決められることが多い。
「確か、火野でも3階層でギブアップだったんだっけか?」
「⋯⋯あぁ。出てくるモンスターの危険度が、オーガと同じ危険度のD以上ばかりだからな。オレは運良くモンスターに見つからずに3階層まで進めたが、正直に戦ってたら1階層突破すらキツかったかもな」
「うぇー、マジかよ。そんなところにあいつ行かせていいのか? 初心者には厳しすぎるんじゃねーの?」
「いいんだよ。そっちの方が、都合がいい」
昼食であるパンを頬張りながら、火野がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「同業者なんか少ねぇ方がいいに決まってる。天宮には悪いが、ディーダイバーになるのは諦めてもらわないとな」
ゴクリとパンを飲み込みながら、火野はディーパッドに浮かび上がった文字を見て、ハッと鼻で笑っていた──
【ダンジョン名:深緑の大森林】
【推奨人数:2人以上】
【推奨レベル:20以上】
【出現モンスター平均危険度:C】
【乱入モンスター:有】
【全プレイヤー合計死亡回数:52】
【最終階層到達者:0人】
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