63.実家ができるようです
銀色の鎖で編んだ首輪は、きらきらと綺麗だった。かなり奮発したと言われ、細工が上質なのかな? と安易に考えたアイカだったが、金属が特殊だった。白金の上位素材らしい。
名前を聞いたのだが、アイカには宇宙人の言葉のように響いた。自動翻訳されない上、聞き取れない。そのため「プラチナよりお高い金属」として認識された。外の人が聞き取れない単語は、稀にあるらしい。
お祭りの準備が整ったので、早速明日から開催される。三日後に結婚式だった。急ピッチで進む準備に、アイカもてんてこ舞いだ。ブレンダは握り飯片手に、声を張り上げる。
「早く食っちまいな」
「おう!」
「うまそうだ」
わっと集まって、両手におにぎりを掴んで去っていく職人達。思い思いに座って食べ始めた。レイモンドの進言で、ご近所さんがお茶を用意する。案の定、喉に詰まらせて咳き込む人が発生し、アイカは大忙しでお茶を配り歩いた。
「こういう賑やかさっていいね」
「ああ、楽しいものだ」
お茶が一段落したところで、アイカもおにぎりを受け取って食べ始める。隣でレイモンドが、ひょいぱくっと大量に口へ投げ込んだ。これは食費がとんでもない金額になりそうだ。味付けよりまず量かな。
「にぃ」
「にゃー!」
ブランとノアールが駆け寄り、おにぎりの匂いを確認する。食べ物か迷っているようなので、ちぎって中のご飯を与えてみた。日本のお米とは違い、細長い品種だが問題ない。匂ったあと、ノアールはそっぽを向いた。しかしブランは食べ始める。
「ぶぎゃあああ!」
突進するオレンジが、アイカの手からおにぎりを叩き落とした。転がったおにぎりを海苔ごと食べる。ワイルドな猫の姿に、レイモンドは唖然としていた。
「食べる猫と食べない猫がいるのか」
「個体差が激しいし、気分次第ではノアールも食べると思うよ」
まったく同じ食べ物でも、日によって食べたり残したりする。そんな雑談を繰り広げながら、レイモンドの毛皮に寄りかかった。短いからもふもふとは違うけれど、触り心地は最高だ。すべすべと気持ちいいし、艶もあった。
「その……考えてみたんだが、ブレンダとトムソンに、この家をプレゼントしようかと思う。実家ならアイカも帰って来やすいし、週に一度くらいは遊びに来れる距離だ」
「え? 高いんじゃない?」
家って高額なんでしょ。心配になってそう尋ねると、レイモンドはきょとんとした顔をする。
「高くはないな。二ヶ月分の給与くらいだ」
レイモンドって高級取りなのね。アイカはそう感じて納得したが、実際のところ、他の人が買っても給与二ヶ月分である。この話は結婚後、かなり経ってから判明するのだが……今は勘違いしたままでも問題なかった。
「実家か。ありがとう、ブレンダと話し合ってみるね」
「話し合うなら、トムソンも入れてやってくれ」
弾き出された狼獣人が、なぜか未来の自分のような気がして口出しするレイモンドである。実際、女性同士の仲の良さは、意図せず夫や兄弟をのけものにする事態が起きた。
「もちろんよ、レイモンドは心配性なんだから」
からりと笑うアイカだが、言われなければ忘れていたと思う。心でそう突っ込んだのは、木の陰で昼寝していたトムソンだった。賢い彼は気配を隠し、心の声も呑み込んだ。
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