62.お神輿は荷馬車の上に直置きで
アイカの知るお祭りでは、お神輿には子どもが選ばれた。まだ神の子とされる七歳までの子が、順番で毎年お神輿に乗るのだ。
「アイカが乗ったらいいと思う」
「却下で」
リス店主の発言に、一言で断った。絶対に嫌だ。なんとなく怖いし、小さい子が乗った方が楽しめると思う。毎年乗る人を変えれば盛り上がるよ、とアドバイスして離れた。
ここで問題が発生する。すでに山車と呼んでもいいサイズまで大きくなったお神輿は、アイカが乗るサイズで設計された。種族によっては子どもが乗れないのだ。
日本人は人間の中でもやや小さい。そこに加え、この世界の獣人は全体に大きかった。リスなど小型な種族もいるが、珍しい部類に入った。半数ほどの種族では、子どもがお神輿に乗れないのだ。
実際の話をブレンダから聞き、うーんと考え込んだ。無理に乗せる必要はないから、いっそ御神体代わりの人形を飾って、子どもは別の場所というのはどうか。
「上は御神体でお人形にして、どこかに子どもが乗れる場所を作ろうよ。下なら大きい種族でもいけるでしょ」
目立たなくなるけど、その辺は元を知らなければ誤魔化せる。アイカはペンを借りて、さらさらと絵を描いた。あちこちから覗き込んだ獣人達は、納得するとすぐに変更に取り掛かった。
職人は人形が乗る部分に装飾の彫刻を始め、山車のように車輪が付いたお神輿はすぐに形になり始める。どうやらブレンダが提供した荷馬車に、上の飾りを直接作るらしい。
お神輿の完成までわずか三日だった。結婚式の前哨戦でお祭りをすると言われたけれど、前哨戦ってこういう場面で使うのかな? 誰が伝えたんだろう。京都人の宮大工の人物像と合わない。別の日本人の知識?
アイカは完成したお神輿のチェックに駆り出され、朝早くから点検中だ。その脇で、ブレンダがおにぎりを握り始めた。アイカが「人が集まるならおにぎりでしょ!」と口にしたためだ。毛皮に肉球の獣人が多いためか、おにぎりは知られているが普及していなかった。
手袋をすればいいと提案すれば、すぐに取り入れられた。作ったおにぎりに、隣家の猫獣人奥さんが海苔を巻く。この海苔は、海の海藻ではない。海苔と呼んでいるが、実際は別物らしい。正体は怖いので聞かない。
風味は海苔に近かった。美味しければ、食べ物の正体を突き止めないのが正しい。アイカはこの世界での生き方を学んでいた。
――知らぬが仏。あれ? これもここで使っていいのかな。まあ、間違ってても誰かに指摘されることはない。
「お神輿は完璧! さすがだね」
いろいろ違うけど、形としては近い。何より職人の皆の自信作なら、それ以上指摘するだけ野暮だ。アイカは大雑把さを発揮し、太鼓判を押した。
荷馬車の前方部分に子どもが乗る場所が作られている。初代はカーティスだが、彼は引く方を選んだ。好きにしたらいいよね。明るく笑うアイカ達の上に影がかかり、今日もレイモンドが合流する。
「アイカ、これを見てくれ! 結婚首輪だ!」
「あ、やっぱり首輪なんだ」
レイモンドの爪の先に掛かった丸い輪に、アイカはくすくすと笑う。銀細工のような輝きに目を細め、楽しみだと両手を伸ばした。
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