61.街はお祭りムード一色
お祭りの知識を求められ、知っている範囲で説明する。まず「お神輿」は必須アイテムだ。形を絵に描いて説明した。家具職人は、仲間を集めて作ると息巻いている。
猫の捜索で徹夜明けのため、非常にテンションが高い。
雑貨店の奥さんは、お神輿の飾りを指差し、似たようなものを提供できると言った。そんな都合のいいものがあるんだろうか。と宙を仰いだが……日本と全く同じにする必要はない。いっそこの世界で馴染んだものの方がいいかも。
アイカは細かく伝える労力を惜しんだ。というか、伝えきれなくて諦めた。
たくさんの出店と食料は、それぞれに持ち寄ったり販売したりする話が広がる。大きな窓がないため、この世界の店舗は基本的に開放的だ。雨戸に似た木製の壁を開いて商売する店もある。店の前で商売することに抵抗感はないし、衛生問題も慣れでクリアした。
「あとは……子供向けのお菓子かな」
必須ではないが、子どもの頃は楽しみだった。この世界で広めてもいいよね。アイカは軽い気持ちで、お菓子のアソートセットを提案する。わっと話が広まり、祭りの参加者は大人子ども関係なく貰える形に落ち着いた。
大人が「子どもだけなんて狡い」と言い出したのだ。一理ある。飲食店や雑貨店が寄付として、さまざまな商品を提供してくれた。そこへレイモンドの鶴の一声。
「面白そうだから、俺も金を出そう。量を増やしてくれないか」
「いいね!」
「太っ腹だね、竜帝殿は」
賞賛の声が上がり、レイモンドは金を取りに一度戻った。そんなに急がなくても……と思うが、本人の好きにさせる。
周囲は予算に合わせて、お菓子袋の中身を検討し始める。その辺はブレンダに任せた。人をまとめるのが上手いのだ。
トムソンは街の向こう側までお祭りのチラシを撒きに行った。いつ作ったのかと思えば、話している間に肉屋の奥さんが描いたらしい。先日のガリ版印刷で大量生産したのは、リス店主だ。得意げに鼻の辺りを擦った手のインクで、鼻が真っ黒になった。
笑った隣家の奥さんが布巾を差し出す。誰もが笑顔で楽しそうで、アイカも嬉しくなった。こういう知識なら実害ないし、広めてもいいと思うな。そう思いながら振り返った先で、お神輿の設計図が引かれている。
「本格的だね」
「ここに部屋を作って、本物の猫に乗ってもらうのは無理かな」
「大人しくしていないと思うよ。揺れるし」
「そりゃ残念だ」
一般的には神様の代理やお札などが入る。猫は乗るだろうけど、担いだら飛び降りるだろう。素直に引き下がった職人達は、顔を見合わせひそひそと相談を始めた。
「アイカ、知恵を貸しとくれ」
ブレンダに呼ばれ、アイカは素直にそちらへ足を向けた。だから後ろで、職人達が何を相談していたのか知らない。知っていたら、絶対に止めただろうが……後悔は後で悔いるもの。
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