60.猫発見と犯人捕獲の一報

 この世界で本物の猫の習性を知るのは、飼い主であるアイカだけだ。すぐに意見を汲んで、猫探しが始まった。暗い場所、狭い場所を好むと聞いて、街中の住人が隙間を覗き込む。高い場所にもよく登るので、そちらは鳥の獣人が見回った。


 夜通し探し回った結果、ブランはゴミ捨て場の箱で発見される。ケガはなく、眠っていたところをアイカに捕獲された。同行したブレンダも胸を撫で下ろし、「こら」と白猫の頭を軽く叩く。うにゃぁ! 文句をぶつけるブランを連れ、自宅に戻ったところで……犯人確保の一報が入った。


 ガラス片が刺さったカマキリ……推定サイズ、アイカの八割。聞いただけでアイカは青ざめた。絶対に近づきたくないし、目撃したら夢に出る。悲鳴をあげて逃げたところへ、明け方の空気を引き裂いてドラゴンが舞い降りた。


「アイカ! 無事か?! 賊が出たと聞いたぞ」


 一歩どころか、大幅に遅れてのヒーロー登場だ。一晩飛べなかったレイモンドは、あちこちに擦り傷があった。なんでも夜中に飛び出そうとして、周辺の住人に拘束されたとか。実際、隙を見て飛び上がっても、到着せず落ちただろう。冷静に突っ込む猫警官に、レイモンドは顔を引き攣らせた。自覚はある。


 鳥目で見えない上、方向感覚も狂うのだ。行方不明者二号になる未来しか見えなかった。だが、駆けつけようとした気持ちは嬉しい。


「ありがとう、でも無理しないで」


「アイカ」


 感動する竜帝の足元を、ブレンダがキャリーを引いて通り抜ける。中の三匹はそろそろ限界だった。隣家にいたので、トイレや食事を我慢していたのだ。家に放した途端、それぞれの欲を果たしに全力疾走だった。


「窓はひとまず板で塞いだんで」


 犬警官の言葉で、応急処置が終わったと知る。ブレンダは礼を言って、板の代金に手間賃を足して支払った。ここでもまた二回拒否して三回目に受け取る儀式が行われる。効率が悪いので、いつか廃止されるだろう。


「ブランは無事だったし、私も大丈夫。折角だから、ブレンダの朝食を一緒に食べよう」


「私が作るのは確定なんだね」


 苦笑いしたブレンダがキッチンへ入り、隣家の奥さんがパンを差し入れてくれた。集まった街の住人は一度解散し、なぜか朝食を持って再集結する。


「皆で食べよう!」


「いいね」


 わっと盛り上がり、持ち寄った食事を並べ始める。机が足りなければ近隣住民が持ち込み、宮大工仕込みの家具職人が簡易テーブルを作った。


「お祭りみたい」


「オマツリ?」


 繰り返したぎこちない発音に、アイカは「え?」と驚いた。宮大工の京都人がいて、お祭りを伝えていないの? 嘘でしょう。


 ブレンダが鍋を運んで食事が始まり、盛り上がる中、アイカはお祭りへの質問攻めにあった。


「よし、お祭りをやろう」


「結婚式と一緒にやったら盛り上がるだろうねぇ」


 レイモンドとブレンダが声を上げれば、周囲から賛同される。どうやらアイカは意図せず、日本の習慣や知識を持ち込んでいるようだ。それは今後も続くのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る