57.御伽噺であり神話でもある
根掘り葉掘りとか、微に入り細に入りとか。こういう場面で使うんじゃないかな。アイカは恥ずかしい単語を交え、あれこれを白状させられた。ぐったり机に懐く彼女を、レイモンドが気の毒そうに見つめる。
レイモンドはアイカの恥ずかしがりように、途中で手を抜いた。追求を緩めなかったのは、ブレンダである。別世界の知識欲より、単に興味と好奇心が勝った事例だった。
「もう話すことはないかい?」
「ないです」
アイカが敬礼しながら返事をし、ここで一段落となった。「えっち」とやらの情報は、後日まとめて外の人の知識を記した書物に連ねる。大変申し訳ないが、記憶や理解があやふやな部分はまた尋ねることになるだろう。
「性欲だったか、それは俺も心当たりがあるぞ」
ブレンダがお茶を淹れに席を立った隙に、レイモンドはこそりと囁いた。興奮してそんな気分になることはある。もちろん、無理に相手へ欲を押し付けることはしないが。
「そうなの?」
「ああ」
「その場合、どうやって……その。鎮まるまで待つの?」
「夫婦によるだろうな。手で慰める種族もいれば、舐めて落ち着かせる種族もいる。俺達のように体の大きさが極端に違えば、お互いにこっそり慰めて終わるんじゃないか?」
人それぞれ。言われてみればそうなのだが、生物である以上性欲は存在するようだ。子孫繁栄に関係ないのに? 首を傾げるアイカに、戻ってきたブレンダが口を開いた。
「聞こえてるよ……で、性欲だっけ? この世界の獣人は元々、同種族同士で暮らしていたんだよ。その頃は子供を身籠ったんじゃないかね」
「あれは御伽噺じゃないのか?」
レイモンドが不思議そうに呟く。アイカの膝にオレンジが飛び乗り、行き場を失ったノアールとブランがレイモンドの足に擦り寄った。撫でながら、アイカに説明を始める。
この世界では、御伽噺や神話に該当する物語が残っていた。元の世界が滅びて、ここに落とされた獣人達。巨大な昆虫に苦戦しながらも、文明を築いた。その頃は同族同士で一緒に暮らし、子供も身籠って産んでいたらしい。
平和だった世界は、突如起きた災害で一気に人口を減らした。少なくなった獣人が種族関係なく集まって暮らし始め、今の状況になる。だが、当然異種族同士で子は生まれなかった。どんどん人口が減る中、外の人が持ち込んだのが、子供の木である。
「外の人が持ち込んだの?」
「どこかの世界の常識なんだろう。それで外の人の知識や文明を後世に残そうと考えたんだ」
ある意味、全員が外の人だったわけか。アイカはうーんと考え、面倒になって放棄した。要はさまざまな世界が合併したのが、この世界なのだ。それでいい。考えたって、何も変化しないんだから。
「この世界の獣人が外の人に優しいのは、このお話の影響?」
「いや、単に人懐こいだけだろう」
外敵がいない彼らは、新しい知識や物に飢えている。好奇心旺盛なのだ。新しい人や物が増えれば、大歓迎だった。
「思ったより単純だね」
深い意味はないのかぁ。残念なような、安心したような。何とも言えない気持ちで、アイカはへらりと笑った。
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