58.このタイミングで空き巣事件発生?!
世界の常識を知れば知るほど、複雑な思いが生まれた。というのも、本物の猫といわれる三匹と私の立ち位置、同じじゃない? アイカはそう気づいたのだ。
レイモンドは妻にと望むのだから別だろうが、他種族の様子を見ていると幼子のように扱われている。当然、保護対象だった。
「あれかな、愛玩動物ってやつ」
「アイガン動物……新種か?」
レイモンドが首を傾げる。苦笑いして「なんでもない」とアイカは誤魔化した。家具もほぼ選び終えた今、結婚式までに残っている作業はドレスの試着のみだ。
「試着は今日だったか」
「うん、皆が用意してくれるから着ようと思って。ブレンダもすごく綺麗なんだよ」
ブレンダは毛皮の色が焦茶なので、白いレースがよく似合う。アイカは黒髪に合わせ、白いドレスにピンクのレースをあしらった。まったく同じ白一色より、華やかさがある。それにブレンダと合同なので、変化をつけたのだ。
「俺とトムソンは事前に見てはいけなかったな。残念だ」
「花婿だし、当然だよね。私とブレンダも見れないんだから、おあいこだし」
くすくす笑いながら手を振って別れた。レイモンドはカタログを掴んで、空に舞い上がる。手配があるのだとか。家も改築が必要だと聞いた。
「アイカ、遅れるよ」
待っていてくれたブレンダと手を繋ぎ、愛猫達にお留守番を頼む。眠っていて返事をしないオレンジやブラン、お見送りに来たのはノアールだけ。それが猫らしいんだけどね。アイカはそう言って、扉を閉めた。施錠して歩き出す。
「おめでとう」
「幸せになるんだよ」
あちこちからお祝いの声がかかり、ご祝儀だと物を渡される。それをブレンダは器用に捌いた。
「帰りにもらうよ。あんたは二度目だろ、店主……店の商品がなくなるよ」
二度目の人は断り、店の商品をかき集める店主には減らすようやんわり言い聞かせる。やっぱりブレンダはおかん属性だ。アイカはふふっと笑みを漏らし、試着のために店の扉を潜った。
満足のいく出来だったドレスはご祝儀だと差し出され、二人でお礼と称してお金を置いてきた。よくある二度まで謙遜して、三度目は受け取る慣習が伝わっている。京都人のシミズさんが原因だろう。
受け取った後、同じ三回のお礼差し出しを経て、ドレスを届けてもらう日時が決まった。
「結婚式前日の朝に受け取るから、奥の部屋に隠しておこうかね」
「うん、猫が入らないようにしないと」
爪でも研がれたら、修繕が間に合わない。一番奥の衣装部屋に隠すことを決め、両手いっぱいのお土産を抱えて帰宅した。
「あれ?」
扉を開いたアイカは、違和感を覚える。何かおかしい。うーんと唸る彼女の元へ、オレンジとノアールが駆け寄った。
「ブラン?」
お見送りは気まぐれだけど、お迎えはほぼ全員が顔を見せるのに。珍しいなと思いながら、テーブルに荷物を積む。名を呼びながらぐるりと家を確認したアイカに、ブレンダが叫んだ。
「裏の窓が割られてるよ! すぐに警察を呼ばなくちゃ。あ、アイカは危険だから猫と隣に避難してな!」
自動翻訳のため、アイカには耳慣れた「警察」という単語。一気に危機感が高まった。
「えええ?! じゃあ、ブランが盗まれたの?」
青ざめるアイカに、捕まえた猫二匹を入れたキャリーを持たせる。そのままブレンダは強引に隣家に預けた。二度目の空き巣事件に、ブレンダは凄まじい勢いで警官の元へ走った。
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