25.それ、たぶん日本人だよ

 ブレンダの進言で「貰える物は貰っておこう」という方針になった。いずれ足りなくなるかもしれないし、見直しされて減る可能性だってあった。猫達の餌だってあるし、お金はないよりあった方がいい! アイカは大きく頷いた。


「では、勉強の続きと行こうか」


 レイモンドは背負ってきた何かを下ろし始めた。階段のついたやぐらのような何かだ。誰かが背に乗せて縛ったのだろう。苦戦するレイモンドを見かねて、ブレンダが手を貸した。上下を確認したレイモンドが、器用に前足で向きを直す。


「ふむ、これでよし。アイカはここに上ってくれ」


「あ、はい」


 階段には丁寧に手摺りもついている。手先の器用な人がいるんだな。感心しながら登ったところで、下からブレンダに呼ばれた。


「アイカ、これ」


 ぶんと振り回したのは、クッションのようだ。両手を伸ばして受け取る体勢を整えたところへ、勢いよく飛んできた。がちっと受け止め、礼を言って櫓の頂上に置く。というか、時代劇で観た火の見櫓にそっくりだった。頂上も危なくないよう、手摺りがぐるりと取り囲んでいた。


 高さも丁度良く、ぺたんとお尻を落として座ったレイモンドと視線が合う。


「これ作った人、器用ですね」


「ああ、昔落ちてきた別世界の人が組み上げたんだ。なんでも釘を使わないから長持ちするらしいぞ」


「宮大工さん?」


 神社仏閣の修理をする人じゃないよね。というか、日本人は数百年いなかったんだっけ。じゃあ、別世界の人だからいっか。


「みやだーくとやらは知らんが、キョウトジンという種族だった」


「京都、人? それ、たぶん日本人だよ」


 額を押さえながら呻く。もしかしなくても、それぞれ地域名を名乗ったの? アイカは複雑な思いで、京都は日本の都市の名前だと教えた。確かに大阪の人は大阪人って言い方するもんね。それも伝えると、オオサカジンやハカタジンもいたらしい。


 後で、別世界から来た外の人の出身地リストを見せてもらう約束をした。日本人が結構交じってそう。アイカの遠い目をよそに、レイモンドは新しい発見があったと喜んでいる。喜んでもらえて何よりだが、想像していた知識の譲渡と違う。


「こちらの世界の常識は読んでもらうとして、気になる点を先に指摘してくれ」


「私から見るとこの世界は獣人ばかりなんだけど、ニンゲンは他にいないの?」


「いるぞ」


 あっさり予想外の答えが返ってくる。じっと見つめれば、レイモンドはぽっと頬を染めた。


「そんなに直視されると、常識知らずと理解していても照れる」


 慌てて初級の常識リストを確認すると、目をじっと見つめるのは愛情表現とあった。本当にこの世界で生きていけるだろうか。常識が違い過ぎて、何もせず引きこもりになりたい……アイカは切実にそう考えた。


「だがニンゲンの毛皮は茶色だったぞ。それに、肌も少し色が違う」


 外国人かな? いや、この世界で日本以外を外国と表現したら問題あるかも。アイカは表現を悩みながらも、会えるかどうか打診した。


「ふむ、アランがいいと言えば構わん」


 アランさん、名前からして間違いなく他国の人だ。というか、同じ世界だよね? 手が触手だったり、肌に吸盤があったりしても……この世界なら驚かないかも。私って適応力豊かだったんだな。アイカは会わせて欲しいとお願いした。

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