24.動物を食べる方が野蛮だそうで

 次の日も飛んできた竜帝様は、少し離れた森の中に着陸した。その後、ぺたぺたと足音をさせて走ってくる。あれに似てる、エリマキトカゲが走る姿……。懐かしのCM特集で観た映像を思い出し、アイカは微笑ましい気分になった。


 だが背中に巨大カナブンが付着しており、昨夜のトラウマを発動させたアイカの「きゃあああぁぁ!」の悲鳴に、ブレンダの太い腕が唸る。レイモンドの背中にいたカナブンは捕獲され、丁寧に梱包された。何でも専門の引き取り業者がいるらしい。


 猫目当てで顔を出したカーティスが、大喜びで引き摺って行った。唖然とするアイカだが、カーティスの好物だと聞いて顔を引きつらせる。ヘラジカ系なのに草食じゃないんだ……というか、ご馳走扱いなのが怖い。話を聞いたレイモンドは、逆に質問してきた。


「ならば、アイカのいた世界では何の肉を食うんだ?」


「牛、馬、豚、鳥……イノシシ? あと、鹿とか……」


 馬肉は桜で、イノシシは牡丹、鹿は紅葉だっけ。ジビエだと兎や鳩も食べてたけど。そんな説明をしたところ、逆にレイモンドの顔が引き攣った。隣でブレンダも青褪めていく。


「熊も食われるんじゃないだろうね」


「あ、地域によっては食べてました」


 隣国は漢方薬にするから熊の手……あれ? 違うな、それは熊の胃で……手は食材だったかも。曖昧な知識で肯定しながらも、詳細は伏せた。目の前にいるブレンダに、熊の食べるところレクチャーをするほどアイカは図太くない。だいたい恩知らずもいいところだ。


「別世界の方が野蛮だねぇ」


「……そう言われると返す言葉がない」


 アイカは苦笑いした。机以外の四つ足は全部料理する、と言われる国もあるくらいだ。日本を離れる直前は、昆虫食も話題になっていた。もちろん、普通サイズだけど。この世界だと普通サイズが昨夜のカブトムシだったり、今のカナブンなのだろう。やや肥満猫のオレンジより一回り大きかった。


 猫のサイズで六キロ以上かな。サイズを猫で測って溜め息を吐く。この表現、この世界で通用しないよね。アイカは真剣に勉強しようと決めた。本気で命に係わる。可愛い猫達のためにも、危険と常識は必須科目だった。


「生活支援金の給付許可をもらったから、目を通しておけ」


 思い出したと呟き、レイモンドは羽の付け根から書類を取り出す。封筒は小さく見えたが、手にするとA4ぐらいか。封筒を開けて、中身を確認する。そこには数字と日付が記されていた。数日後には最初の支援金がもらえるらしい。お金の単位はアイカには分からない。


「ブレンダ、これで生活できそう?」


 素直に尋ねると、覗き込んだブレンダが目を見開いた。それからレイモンドに向き直る。


「これ、出し過ぎじゃないかい?」


「初回だけさ。よく見てごらん、準備金が足されているだろう。その後はこの六割しか出ないから」


「いや……その六割が一般家庭の生活費以上だって話だよ」


「え?」


「うそ……」


 なぜかレイモンドも驚いた顔をする。きょとんとした顔のアイカと目を合わせ、二人同時にブレンダに尋ねた。


「そんなに高額なの?」


「いや、本物の猫もいるしこんなものだろう」


 なんとなく、ブレンダとアイカは察してしまった。金額の決定をしている上層部の人は、金銭感覚が緩い。このレイモンドのように。

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