19.ベルベットの手触りだと思う
竜帝――その名称から想像した鱗のドラゴンではなく、不思議な生き物だった。大まかな形はドラゴンで間違いないし、見上げるほど大きい。そのため授業は外で行うこととなった。
雨天の場合はどうするのか、後で確認しておかないと。アイカは見上げながら、首に手を添える。結構疲れる。
ドラゴンは西洋でも東洋でも、鱗が生えている。稀に恐竜タイプの滑らかな肌っぽい皮もあるらしいが、物語では鱗付きだった。硬い鱗が敵の攻撃を弾いたりするから、圧倒的強さを持つ動物を想像した。まあ、物理的に大きい方が強いとは思うけど。
「知ってるドラゴンと違う」
思わず呟いたアイカに、全員が興味の視線を向けた。洗濯用タライのような器を運ぶブレンダは、そこへ大量のお茶を注ぐ。隣でカーティスも運搬を手伝ってるけど、それバケツだよね? ちゃんと中を洗ったのかな。
最後のバケツはカーティス用だったらしく、彼は顔を突っ込んで飲み始めた。礼を口にする竜帝様もがばっと顔を突っ込む。気にしないところが、大らかというか。潔癖ぎみの日本人とは相容れないかも。
「アイカの知るドラゴンはそんなに違うのかい?」
ブレンダが話を振ったので、挨拶を後回しに説明した。特に鱗の部分は重要だ。ドラゴン系は逆鱗があって、ここが急所だったり怒りの原因だったりする。
「ほぉ……ずいぶんと違うな」
感心した声を上げる竜帝様は、形こそ西洋風ドラゴンだった。頭の上にツノのような突起物もある。しかし……全身が毛に覆われていたのだ。猫で言ったら短毛種だろう。
ベルベットのような艶のある見た目は、豪華だ。しかしドラゴンと表現するには、抵抗があった。アイカの複雑な心境を聞いて、全員が頷く。別世界だから常識が違うって、こんな部分にも適用されるんだな。アイカは乾いた喉をお茶で潤した。やや温いので飲みやすい。
愛猫達は家の窓や入り口付近でこちらを窺うが、近づく様子はなかった。巨大すぎる動物に対しては、やはり警戒心が働くのかも。
「別世界から来たアイカです。よろしくお願いします」
礼儀作法はさすがに共通だろう。目下から挨拶すべき、そう考えたアイカが名乗ると、竜帝様は豪快に笑った。びっくりするくらい大きな声だ。
「丁寧な挨拶痛みいる。種族はニンゲンだったな。見ての通り俺はドラゴン種で、名はレイモンドだ」
「保護者として登録した熊のブレンダですよ」
ついでのように名乗ったブレンダに、お辞儀する様子はない。カーティスは名乗らず、近くの草を喰み始めた。あの子が遊びに来ると草むしりの手間が省けそう。アイカはくすっと笑った。
「ふむ。本物の猫が一緒とは、これまた珍しい。なんとも嬉しいことだ」
住人が増えるのは大歓迎だ。そう告げた竜帝様の声に嘘は感じられなくて、ほっとしながらアイカは草の上に座った。話をする間、ずっと上を向くのは疲れるな。そんなことを考えながらも、言い出せない。
「その姿勢では疲れるだろう。こちらへ参れ」
巨大ドラゴンは、ブレンダの家よりやや小さいくらい。手招きされた風圧を感じながら距離を詰めた。踏まれないよう、距離感には気を配る。
「ここへ乗れるか」
差し出された手にきょとんとした後、アイカは「はい」と返事をして飛び乗る。もちろん、日本人らしく靴を脱いで。
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