辺境の魔法薬師 ~自由気ままな異世界ものづくり日記~/えながゆうき
【第二回新しい魔法薬への挑戦!】
この世界にはびこっている”ゲロマズ魔法薬”を一掃するための第一歩として、子供でも飲みやすい初級回復薬の作成に成功した。
やはり自分で自由に使える調合室があるのは素晴らしい! 残念なことに、妹のロザリアは魔法薬よりも、魔道具に興味があるみたいだけどね。クスン。
「ユリウス様、どちらへ?」
「あ、ライオネル。これから調合室で新しい魔法薬を作ってみようと思ってさ」
「新しい魔法薬?」
そう言ってライオネルが顔をしかめた。しかめ面もダンディーとか、なんかズルイ。
ハイネ辺境伯家の騎士団長にそんな顔をされるとは思っていなかったけど、何かまずいことでもあるのかな?
「ユリウス様、私もご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
「それは構わないけど、失敗するかもしれないよ?」
「それでも問題ありません。と言うか、ユリウス様でも失敗するのですね」
何そのなぞに高い俺への信頼感。確かに品質のいい魔法薬を騎士団に提供しているけどさ。新しい魔法薬を作るのであれば、当然、失敗もするだろう。
調合室に到着すると、さっそく作業を開始した。
「今回は魔力草をベースにして作ろう」
「今回は?」
「いや、えっと、前回は薬草をベースにして作って失敗したんだ」
「なるほど。そうでしたか」
ごめん、ライオネル。ウソなんだ。さすがに体力と魔力を同時に回復することができる、初級エリクサーができたなんて言えない。そんなものが存在したら、この世界の常識がひっくり返る。
作り方は初級魔力回復薬の作り方と同じにして、蒸留水の部分を、未知の素材であるカシオス水に変えるだけ。前回の初級エリクサーを作ったときの感触からすると、これで問題ないはずである。
あ、でも前回の初級エリクサーは渋い味だったからな。それを緩和するためにリンゴとハチミツを入れよう。
片手鍋にカシオス水を入れてゆっくりとさせる。その間に、乾燥させておいた魔力草をで細かく砕いておく。
カシオス水が沸騰したところで様子を見ながら魔力草を投入した。ちょっとずつ、慎重に。魔力草はまだあるけど、無駄にできるほどたくさんはないのだ。混じり合った溶液が沸騰するか、しないかのギリギリのラインを見極めながら加熱を続ける。
……あれ? いつもならキレイに溶けて混ざるのに溶けないぞ。もしかして、もっと魔力を込めないといけないのかな? いや、でも、すでに結構な量の魔力を込めているぞ。
疑問に思いつつも魔力を込めていると溶液が鮮やかな青色になった。よかった。なんとかなったみたいだ。かなりの量の魔力を消費してしまったな。その溶液にすりおろしたリンゴとハチミツを素早く加えて味をえる。
できあがった魔法薬は青色の透明な液体の中に、キラキラとした物が混じっていた。
「前回と同じようなものが混じっているな。毒じゃないのは分かっているけど、気になる。いつかしっかりと解析したいところだな」
「……素晴らしい」
「ライオネル? ライオネル!」
見ると、ライオネルが涙を流していた。どうした、何があった。イケオジが泣いているという光景を見て、思わずアワアワする。素晴らしいって言うからには、悪い涙じゃないんだろうけど、心臓に悪いな。
「これが、真の魔法薬の作り方なのですね」
「……ライオネル、おばあ様が魔法薬を作っているところを見たことがあるんだね」
「はい。あれは地獄でした」
「……間違ってもおばあ様の前で言わないようにね?」
いや確かに、この世の地獄のような感じになっていたけどさ。この世界ではあの地獄のような光景が普通なんだよなー。
「ユリウス様」
「ん?」
「ご存じとは思いますが、魔法薬師でない者が新たな魔法薬を作ることは禁止されています。くれぐれもお気をつけ下さい」
「もちろん分かっているよ。他には絶対に出さない。約束する」
ゲロマズ魔法薬が改善されない原因がこれだ。過去に何かがあったらしく、魔法薬師が新しい魔法薬を作らなくなっているんだよね。いつかその原因が分かればいいんだけど。
「そういえば、ユリウスは魔法薬の鑑定もできるのでしたな。その新しい魔法薬はどのような効果があるのですか?」
「おっと、そうだった。鑑定するのを忘れてた」
俺は『鑑定』スキルを発動させた。
魔力増加の秘薬:高品質。魔力量を増加させる。効果(小)。甘酸っぱい。
これは……これも世に出してはいけないものなのでは? そう思いつつ、ライオネルに完成した魔法薬がどのようなものかを説明した。
「……飲めばどこまでも魔力量を増やすことができるという認識であってますか?」
「あってると思う」
「封印しておいた方が……」
「だよね、俺もそう思っていたところだよ!」
部屋に戻った俺は、『亜空間』スキルを使って、新しい魔法薬を封印したのであった。
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