マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-/鏑木カヅキ
【日頃の感謝を込めて(シオン視点)】
あれはいつも通り、庭で魔法の研究をしている時のことだった。
馬を引き、外出しようとする父さんを見つけ、僕は声をかけた。
「父さん、どこかに行くの?」
父さんは僕がいることに気づいていなかったようで、声をかけるとビクッと肩を揺らした。
いつも堂々としている父さんにしては珍しい反応だ。
ギギッと
「あ、ああ、シオンいたのか。いやなに、ちょっと野暮用がな」
「野暮用? グラストさんに会いに行くの?」
「グラスト!? い、いや……まあ、そうだな」
歯切れが悪いし、目は
「すまない、シオン。急ぐのでな。また後で」
父さんは逃げるように馬に乗って行ってしまった。
僕は首を傾げ、父さんの背中を見送った。
おかしい出来事はそれだけではなかった。
ある日。食事を終えた後、母さんと一緒に食器を洗っていた時のことだった。
「ねえ、シオンちゃん。欲しいものはないかしら?」
「欲しいもの? うーん、特にないかな」
家族が何か欲しいものや、やりたいことはないかと聞いてくることはたまにあったので、いつも通りに素直に答えた。
しかしその日はなんだか様子が違ったのだ。
いつもならば「あらそうなのねぇ。何かあったら遠慮なく言うのよ」と返す母さんだったが、珍しく食い下がってきたのだ。
「で、でも何かあるんじゃないかしら? ほ、ほら、好きな食べ物とか。魔法関連のものとか!」
「必要なものは全部持ってるからなぁ」
「そ、そう……」
しゅんとしてしまった母さんを前に、僕はなぜか罪悪感に駆られてしまう。
何か言わないと母さんを悲しませてしまう。そう思った僕は
「そ、そうだ! お、おいしいご飯が食べたいな! ほら、豪勢なお肉料理とかさ!」
正直、食事にそこまで興味はない方だけど、いつも質素で淡泊な食事が多いからたまには豪勢なお肉とか食べたいとは思っていた。
母さんは僕の言葉を聞くや否やわかりやすいほどに表情を晴れ晴れとさせ、にっこりと笑った。
「そうなのねぇ。ふふふ。お肉、お肉ね」
うんうんと何度も
しかしそれ以上は何も言わず、ただ真剣な顔で何かを考えている様子だった。
今度作るわね、とか言われるかと思ったけどそういうことではないらしい。
いったい、どういうことなのだろうかと思いつつも、その日は特に何もなかった。
そしてさらに別の日。
自室で魔法の研究をしていた時、バタンと勢いよく部屋の扉が開かれた。
「シオン! 出かけるわよ!」
「外で遊びましょう」
マリーとローズが威風堂々という感じで部屋の前に立っていた。
なんだかいつもと違い、圧を感じる。
「え? あ、うん。いいよ」
「いいのね! じゃあさっそく行くわよ、ほら」
「さあさあ、参りますわよ」
「あ、ちょ、ちょっと!」
左右の手をマリーとローズがぐいぐいと引っ張る。なんという強引さだ。マリーは多少強引なところはあるが、ここまで積極的なのは珍しいし、ローズに至っては初めてだ。
いったい二人に何があったのだろうと考えながら、僕は二人に連れられ、家を出た。
不意に出かける時に父さんと母さんと遭遇し目が合ったが、なぜか目を逸らされた。
うーん、やっぱり何かありそうだ。
そう思いつつも、僕は二人に連れられて、家を出るのだった。
そして、数時間後。
家に帰った瞬間、すべての謎が解けた。
「「「「「シオン、誕生日おめでとう!」」」」」
一斉に声があがった。
家には父さん母さん以外にもグラストさんや村の人達が集まっていた。
そしてリビングには大量の豪勢な料理やお菓子が並んでいたのだ。
「こ、これって……」
「シオン。中に入って! あんたが主役なんだから!」
「そうですわよ。ほらほら」
マリーとローズに背中を押されて、テーブル席についた。
みんなが笑顔で僕を見ている。
そうか。今日は僕の誕生日だったのか。だから、みんな様子が変だったんだ。
疑問が氷解すると共に、喜びが込みあがってきた。
「みんなありがとう!」
毎年誕生日を祝ってはくれていたが、こんなサプライズは初めてだった。
嬉しくて自然に笑みがこぼれた。
全員で乾杯し、僕たちは食事に
料理はすべて
庭では、みんなで踊ったり、歌ったり、マリーと父さんは剣舞を見せてくれたりもした。
本当に楽しい時間を過ごせた。
そして宴もたけなわという時に、新しく作り直したピカピカの雷火と、冒険者ギルドで自由に活動する許可をもらった。
「シオンはまだ子供だが立派に成長した。その
「そして何よりも、この世に生まれてきてくれた感謝を込めて」
父さんと母さんが笑顔で僕を抱きしめてくれた。
「あー! ずるい! あたしも!」
それを見たマリーが跳ねるように飛び込んでくる。
家族全員が抱き合い、僕はその温かさに目を閉じた。
パチパチパチと拍手が聞こえてくる。参加者の人たち全員が僕たち家族を見て、笑顔で手を叩いてくれていた。
僕は幸せだ。大事な仲間や家族、そして夢にまで見た魔法でさえも手に入れたのだから。
「十歳の誕生日おめでとう、シオン!」
マリーが元気いっぱいにそう叫んだ。
僕は幸せを噛みしめ、マリーに負けないくらいの笑顔でこう答えた。
「ありがとう!」
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