治癒魔法の間違った使い方 ~戦場を駆ける回復要員~/くろかた

【十年後の僕は】


 珍しくローズから休日をもらった日のこと。

 休日にもかかわらず訓練をしようと思ったが、休みを言い渡したローズに『テメェはまともに休むこともできねぇのかァ!!』とド突かれたので、僕は先輩とカズキのいる王城にお邪魔することにした。

「二人も今日は休みだったんですね」

「ああ。ウサトもだなんて、奇遇だな」

「もしかしたら、ローズさんが気を回してくれたのかもね」

 確かに、ここ最近は訓練ばかりしてた記憶しかないからなぁ。

 今はお城の庭園に招かれて、僕、先輩、カズキ、セリア様の四人でテーブルを囲んで座っている。

「お二人も勉強や訓練ばかりしていますからね。特にカズキ様はあまり休みを取ることも少なくて……」

「セ、セリア、そこまで言わなくてもいいからっ!」

「ふふふ」

 セリア様の言葉で慌てるカズキに苦笑する。

「そういえば、ウサト君ってさ」

「はい?」

「子供時代ってどんな感じだったの?」

「唐突すぎないですか?」

 話に脈絡がなくてびっくりしたんですけど。

 いきなりの先輩の話題に、カズキとセリア様も興味を示したようだ。

「ウサトの子供時代か。確かに気になるな」

「全然普通だよ?」

 特に面白いエピソードもない、本当の本当に普通のハナタレ小僧だったと思う。

「まあ、十年前……僕が七歳くらいの時は……普通の子供だったと思う」

「ウサト様の普通は普通とは違うので、ちょっと信用が……」

「セリア様も結構言うようになりましたね!?」

 思いもよらない方向から鋭いツッコミを食らってしまった。

「放課後は友達と走り回ったり、近くの森で虫とか採ったり、川でザリガニとか捕ってましたね」

「わぁぁ、私はそういう経験をしたことがないので、羨ましいですねっ!」

「「……」」

「なんで先輩とカズキはそんな羨望せんぼうの眼差しを……?」

 二人からなぜか何とも言えない視線を向けられ、困惑する。

 いたたまれなくなって、カズキにも同じ質問をしてみることにする。

「そういうカズキはどんな子供時代を?」

「え、えーと……俺は従姉妹いとこに滅茶苦茶振り回された記憶しかないなぁ」

「従姉妹? カズキ様、従姉妹とは複数人でしょうか? 詳しくお聞きしても?」

「うん? 従姉妹は年上も年下も皆女の子ばっかりでさ。親戚同士での集まりの時、大人たちがお酒とか飲んでる間は、おままごととか……大変だったなー。うん、本当に、大変だった」

 カ、カズキの目がかつてないほど遠いものに……!?

「そういう話って本当にあるんですね」

「カズキ君の身の上話の八割はラノベみたいな感じだよ」

 なんというか、小さい頃からカズキは苦労していたんだなぁって。

「それじゃあ、流れ的に次は私だな。私は……週七で習い事づけの毎日だったよ!!」

「「「……」」」

予想の何倍もヘヴィなことを口にした先輩に、何とも言えない視線を向けてしまう。

「あ、あと愛犬と一緒によく遊んでたなー。家の中でだけど……。私にとっては大事な友達さ。この世界に来る半年くらい前に寿命で亡くなってしまったけれど、あの子との記憶は大切な思い出なんだ」

 思い出、か。

 三人が三人とも違う子供時代を生きている。

 それから十年経って、それぞれタイプが違う僕達がこんなに仲良くなっていることが意外だけれど……。

「ウサト君、どうしたの?」

「今の話とは逆に、十年後の僕達はどうなっているのかなって考えてしまって」

「十年後かー。多分、私たちの関係はなにも変わっていないんじゃないかな?」

 変わってない、か。

 もちろんそれはいいことだな。

 僕達は変わらず大切な友達で、それが絶対に変わらない友情を意味しているんだから。

「わ、私は……」

「ん?」

「きゃっ」

 ちらりとカズキを見たセリア様が、赤くした顔を手で押さえる。

 もうなんかセリア様は完全に計画を定めている感がありそうだな。

「ウサト君は、どう? 十年後の自分を想像できる?」

 隣にいる先輩の問いかけに、僕は少しだけ思考して……笑いかける。

「正直、今の時点で十年後の自分なんて想像できませんよ」

 自分がどうなるかだなんて、分かるはずもない。

 だけど、変わらず救命団の治癒魔法使いとして命を救う立場にいることを信じたい。

「でも、ただ一つ言えることは、十年後の僕が今ここにいる自分に誇れるような人間になっていたらいいなって思いました」

「……ふふ。十年後に誇れる自分か。ああ、全く君らしい答えだ」

 過去の自分に誇れる自分でありたい。

 十年後も、そして二十年後も。

できることなら僕はそんな考えを持っているような大人になりたいなと、心から思うのであった。

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