無職転生 ~異世界行ったら本気だす~/理不尽な孫の手
【ルーシーの誕生日】
今日はルーシーの十歳の誕生日だ。
我が社では家族の節目の誕生日には休暇を取ることが許されている。
というか、俺がそう決めた。
社長も嫌とは言わなかったし、各支部長も容認してくれた。
家族のいない方々から理解を得られたのはうれしいことだが「え? そんなに大事なの?」という、疑念の目で見られることもある。五歳毎の誕生日を祝うというのは、人族の中では一般的だが、人族以外にはそういった風習は無いのだ。
そういう人たちからすると、なんでこんなルールがあるのかわからないだろうが、俺は家族のためにオルステッドの配下をやっており、会社のルールを決めることができる立場でもあるのだから、そうさせてもらう。異論は聞くが、それはルーシーの誕生日が終わってからだ。
というわけなのに、俺は前日の出張が長引いてしまい、まだ家に帰れずにいた。
俺の手にあるのは、出張先で手に入れたルーシーの十歳の誕生日プレゼント。
時刻は夕方、お誕生日会は夜からではあるが、今日は学校も休みということで、昼からお祝いムードなのは間違いあるまい。
ルーシーの誕生会に俺が出遅れるわけにはいかんのだが、もう完全に遅刻だ。
パパ嫌いと、そう言われてしまうかもしれない。
逆に、俺抜きでも楽しくやっているかもしれない。
どっちにしろ泣いちゃうと思う。
「ただいま!」
「ん……おかえりなさい」
そうして帰ってきた我が家、出迎えてくれたのは、レオに乗った青髪の少女、ララだった。
ララは、かつて五歳の誕生日の時にみんなで作った三角形の帽子をかぶっていた。厚紙を組み合わせて作ったやつだ。まだ残ってたんだな。さらに、その時に俺が着用していた鼻眼鏡も身に着けている。完全にパーティ仕様の浮かれた格好だ。
「ララ、今日はキマってるね。みんなは?」
「ん。もう始めてる」
ララが両手を差し出してきたので、抱っこしてあげる。
そして、言われるがままダイニングへと突入した。
「ただいま、ルーシー、十歳の誕生日おめでとう!」
「あ、ルディ、おかえりなさい!」
ルーシーはアルスとジークと一緒に、リーリャが作ったであろうケーキを食べていた。
もちろん、他の面々も一緒だ。エリスはクリスをだっこしてごはんを食べさせているし、シルフィは子供たちの様子をにこにこと
ロキシーはというと、開封されたプレゼントの数々を整理しているようだ。
ていうか、なんかプレゼントの量が多いな……。まぁいいか。
「パパ!」
ルーシーは俺の姿を見るとパっと立ち上がった。そして両手を広げようとするも、俺の腕にララが収まっているのを見て、「む」と手をひっこめた。
おお、我がお姫さま、あなたは本日の主役なのだから、そのような遠慮はよろしくない。
俺はララを傍らにいたレオの背中へと戻し、ルーシーを抱き上げた。
お、結構重いな。前にルーシーを抱き上げたの、いつだったっけか。もう十歳かぁ……。
「もうすっかりお姉さんだね」
「はい! ……あの、パパ、プレゼントは、あります、か?」
「もちろんあるよ。はい、どうぞ」
俺はルーシーを下ろし、背中のバックパックから一つの小包をルーシーに渡した。
「……!」
ルーシーはやけに神妙にそれを受け取り、中を開いた。
そして、中のものを見て、ちょっと固まった。
中に入っていたものは、銀のイヤリングだ。
今回の出張先であるアスラ王国で特注したものだ。
「ルーシーも、そろそろこういうのを付ける時期かと思って」
「……あ、はい! ありがとうございます! ママ! 付けて!」
ルーシーはそれを恐る恐るといった感じで持ち上げ、ハッとした感じでとたたっとシルフィの方にいき、つけてもらった。
そして戻ってくる。その耳には、キラリと光るイヤリング。ちょっと大人っぽすぎたか。
「どう、ですか?」
「うん。似合ってる」
「……はい! 大切にします!」
ルーシーは笑顔になり、アルスとジークの方に走っていった。
なんかこう、喜んではくれているけど、ちょっと予想と違ったなぁ、って感じの反応だ。
高級な装飾品は、十歳の娘には、ちょっとばかり早すぎたかもしれない。
でも、ルーシーも今後、いわゆる社交界デビューというか、そういう場に参加するようになっていくと思うんだよ。
俺も一応はアスラ貴族として認識されているわけだし。
そういう時のためにも、ああいう装飾品を持っておくのは、決して悪くないことではないかなと思うんだ。
……そう、俺なりに結構考えた結果なんだよ。
ごめんな、いまいち娘の好きなものがわからないパパで。
「パパ」
と、ララが俺の所に戻ってきた。
また両手を広げたので抱き上げてあげる。
「ん? どうしたララ」
「あたしの誕生日は、杖がいい」
自分の要望か。ララは最近、ちゃんと自己主張をする子になってきたように思う。
「杖なんかでいいのか?」
「ん」
「わかった。ララに似合う、いい感じの杖を作ってもらうよ」
「ん~……もっと良いのがいい」
「えぇ……じゃあ、オルステッド様に相談して、何か凄い杖を
「ん~……じゃあ、それで」
ララは相変わらずよくわからない子だけど、こうやって自分の欲しいものを口にしてくれるから、その点は楽だな。
楽とか思っちゃいけないのかもしれないけど。
ルーシーだって手のかからない子ではあるんだ。
学校の成績はトップクラスだし、来年は生徒会に入ると意気込んでいる。めちゃくちゃ優秀だ。
家では弟や妹たちの面倒も積極的に見てくれる。
自慢の娘なんだ。
ただちょっと、お年頃なのかな、難しい部分も増えてきたなと思う。
まだ十歳だが、もう十歳だ。女児から女の子へと成長していってる。自我もしっかり芽生えてるだろうし、学校という環境で考え方にも変化が生まれていることだろう。
俺もそれに対応して、相応の扱いをしてあげたいが、どう反応していいのかは……よくわからない。俺も子育てはルーシーが初めてだからな。
何にせよ、今日はルーシーが
十年間、無事に育ってくれてありがとう。
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