異世界で手に入れた生産スキルは最強だったようです。 ~創造&器用のWチートで無双する~/遠野九重

【コウ・コウサカのその後のその後 ~感謝と祝福の点心ランチセット~】



 それは、俺がゾグラルとの戦いを終え、オーネンの街に戻ってから一〇日ほどが過ぎた夏の朝の出来事だった。

「マスターさんにお願いがあるよ!」

 馴染なじみの宿である『静月亭』の部屋(お金もあるんだから自宅を買うか建てるかしてもいいんじゃないかとアイリスやレティシアからは言われているが、静月亭の居心地が良すぎて先延ばしになっている)でくつろいでいると、スララが絨毯じゅうたんの上をピョコピョコと跳ねながらやってきて、元気よく声を上げた。

「ぼくだけじゃ地下都市に入れないから、おひまなときに連れて行ってほしいよ! 久しぶりに仲間の皆と会いたいよ!」

 スララはおせわスライムという、古代文明によって生み出された魔導生物だ。

 普段はオーネンの近くに隠されている地下都市で暮らしているが、そこは管理者である俺の許可がなければ出入りができないように設定されている。

 そういえば――

 ゾグラルとの戦いでは、ブラズニルの乗組員としておせわスライムたちにはお世話になった。

 ……なんだかダジャレみたいになってしまったが、とても感謝している。

 戦いも無事に終わったことだし、お礼を言いに行きたいところだ。


 というわけで――


「マスターさん! 連れて来てくれてありがとう!」

「あいかわらず、地下とは思えない広さね」

「空間拡張の魔術を検出しました。メートル法換算で、一立方メートルが一〇〇立方メートルに拡張されています」

「要するに、とっても広いってことだねー」

 スララに加えて、アイリス、フルア、ゾグラの三人を連れ、俺は地下都市を訪れていた。

 視線を上に向ければ、どこまでも青空が広がっており、あたたかな陽光が家々を照らしている。

 ここが地下だと言われても、なかなか信じることはできないだろう。

 古代文明のテクノロジー、恐るべし。

「あっ、マスターさんだ!」

「マスターさんが来てくれたよ!」

「熱烈歓迎だよ! 満漢全席だよ!」

 満漢全席はちょっと違うんじゃないか……?

 細かいツッコミはさておき、おせわスライムたちは大喜びで俺たちを出迎えてくれた。

「マスターさん、元気そうでよかった!」

「この世界を守ってくれて、ありがとう!」

「今日はお礼とお祝いに、おいしいごはんでおもてなしをするよ! れっつごー!」

 おおっと。

 俺たちはあれよあれよという間に大勢のおせわスライムに囲まれ、抱えられ、近くのレストランへと運ばれていた。

「マスターさん一行、ごあんなーい!」

「せっかくだから、レストランをリニューアルしたよ! ぴかぴか!」

「今日のメニューはなにかな? なにかな?」

「中華料理だよ! 点心ランチセット!」

 んん?

 なんだかこの世界にそぐわない単語が聞こえたような……?

 俺が首を傾げていると、向かいの席に座っていたフルアが教えてくれた。

「コウ・コウサカがこの世界に来てから口にした料理は、出身地の世界で言うところの洋食ばかりとなっています。昨日、ランチのメニューについてスララ様から相談を受けまして、中華および和食を提案させていただきました」

 なるほど、そういうことか。

 フルアはもともと【フルアシスト】というスキルだった。

 俺と記憶を共有している部分も多いから、気の利いた提案をしてくれたのだろう。

 ちなみに和食は今のところ修行中らしい。

「いつかごちそうするから待っててね!」と、レストランで働くおせわスライムたち(頭にはコックの帽子を載せている)が言っていた。

 それからほどなくして――

「いい匂いがしてきたわね」

 アイリスがキッチンの方を向きながらつぶやいた。

「ちょうどお昼時だし、お腹も空いてきたわ」

「味見してくるー」

「我慢しような」

 右隣の席に座っていたゾグラが立ち上がろうとしたので、俺はやんわりといさめる。

「そんなー」

「一人だけ抜け駆けして食べるより、皆で一緒に食べた方が楽しいぞ」

「確かにー。分かった、待つー」

 ゾグラは両手でピースサインを作ると、チョキチョキと指を動かしてうなずいた。

 たぶん、確かに・・に引っ掛けてカニのマネをしているんだろう。

「そういえばー」

「ん?」

「どうして点心なのか、知ってるー?」

「なにか理由があるのか」

 言われてみれば、中華料理には飲茶など様々な種類がある。

 その中でも点心になったことに、何か意味があるのだろうか。

「点はテンで一〇だからー。一〇周年記念にちなんでゾグラが提案したよー」

「一〇周年? いったい何のことだ」

 俺が異世界に来てからの年月って、そこまで長くないよな。

「あっ、ごはんだー」

 おっと。

 料理が運ばれてきたことで、ゾグラの関心はそっちに向かってしまったらしい。

 なんというか、気まぐれなネコみたいな性格だよな。

 結局のところ一〇周年記念が何のことなのかは分からなかったが、これに限らず、ゾグラは元々が人智を越えた存在ゾグラルだったせいか、わりと言動が唐突だ。

 ただ――

 もしかしたら俺に関係のあることかもしれないので、社会人時代の記憶を掘り起こして、心の中で祝辞を述べておこう。


 一〇周年おめでとうございます。レーベルに身を置く一員としてめでたく感じると共に、支えてくださっている読者の皆様には深く感謝を申し上げます。


 んん?

 自分でもよく分からない文章が頭に浮かんできたな。

 もしかしたら、最後の戦いの後、ゾグラルとしばらく融合していたことによる影響かもしれない。

 実際、レティシアからは「オーネンに戻って来てからのコウ様は、少しばかり不思議系になっていますわね」と指摘されているからな。

 まあ、大きな問題はないからいいだろう


 ちなみに、運ばれてきたランチセットには中華の定番である春巻はるまき小籠包しょうろんぽうだけでなく、さまざまな種類の餃子ぎょうざが添えられていた。

 肉、エビ、そしてフカヒレ!

 フカヒレを餃子に使うなんて、元サラリーマンの俺としてはものすごい贅沢に感じる。

 本来、フカヒレは無味無臭のはずなんだが、やたらと美味うまく感じられた。

 今度は、修行中という和食も食べてみたいものだ。


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