フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~/埴輪星人
【数に関するエトセトラ その2:数字の十】
「そういやさ、いつだったか六個入りか八個入りの商品って結構多いって話、してたわよね」
澪が中学を卒業した年の春休み。進学に必要なものを買いに来た日のこと。
潮見駅の地下街にある通称『飲兵衛広場』と呼ばれるフードコートでの昼食中に、自分の寿司を見ながら真琴がそんなことを言いだす。
なお、本日一緒に買い物に来ているのは、真琴と澪の他に宏と春菜、達也の三人だ。
さすがに繁華街を連れ歩くには菫はまだ小さすぎるため、詩織は今回もお留守番である。
「うん。そんな話してたね」
「逆にさ、十個って区切りがいい割には十個入りのものってあまりないわよね」
「ああ、そうだね」
「せやなあ。十の近辺やと、大体八個か九個か十二個やわな」
「確かにそうだな。十個って数でぱっと思いつくのは、寿司一人前ぐらいか。今日食ってる寿司も一人前十貫だったし」
「ん。少なくとも、食べ物だと珍しい」
真琴の言い分に、言われてみればそうだと同意する春菜達。
実際、食べ物は十個で一組というのはあまり見ない。
「ああ、でも、一つに十個入りっていうのは見ないけど、一袋何個入りとか何グラム入りとかいうのを十個セットでっていうのは、通販を中心に結構よく見るよ」
「ん。あと、よく考えたら医者に処方してもらう薬は、十錠が一連なりでいいのかな? になってるのが普通」
十という数字について、ふと思いついたことを口にする春菜と澪。
どちらも、比較的身近な事例である。
「まあ、薬はなんとなく分かるわな。基本的に何日分で出すんやから、八とかやとややこしなるし」
「だよなあ。しいて言えば、一週間単位で出すことも多いから、十錠以外だと七錠が管理する面では比較的マシか?」
「そうね。まあ、患者に渡すときは端数分を切り分けて用意するから、結局半端な数にはなるんだけど」
「それだって、二週間分とか一日二回で一週間分とかだと、十錠の一パックと四錠って形で渡すのが普通だからね。やっぱり十錠ずつのほうが分かりやすいと思うよ」
薬の数という話題で、そんな妙な議論を始める宏達。
ぶっちゃけた話、薬などは処方されたものを最後まで飲むだけなので、一パックがいくつだろうが出された側にとってはどうでもいい話ではある。
「薬で思ったんだが、基本的にあるものをあるだけ使いきる類のものとか数の管理をちゃんとやらなきゃいけないものは、五個とか十個の倍数で売られるんじゃねえか?」
「そうかもねえ」
達也の思い付きに、そんなものかもしれないと同意する真琴。
食べ物は分けやすいとか並べやすい、詰めやすいなどの基準もあるだろうが、シャープペンの芯などの大量に消費するものや薬などのきっちり数を管理する必要があるものは、価格維持のために内容量を減らすパターン以外でわざわざ微妙な端数を出す理由もない。
なので、その手のものは五か十の倍数になっていることが多いのだろう。
「で、単品でいくらの商品を十個セットでドドンと半額、とかいうのは分かりやすいよね」
「ん。シンプルにインパクトでお得感を演出」
「通販だと、十個セットの場合は送料もサービスで無料、っていうのありがちよね」
薬についての結論が出たところで、もう一つ出てきた話題のほうもサクッと結論を出す春菜、澪、真琴。
実際、安売りや業務用サイズを売りにしているような店の場合、一般のスーパーだと単品売りしているものを十個セットで大幅割引だの内容量十倍だのしているのはよく見る。
「それはそれとして、十って数である意味一番身近というか一般的なものを、一つ思い出した」
「なによ?」
「ソシャゲの十連ガチャ」
「……それはいろんな意味で闇が深すぎるから、あまり深く掘り下げたくないわね……」
「ん。で、ソシャゲつながりで、周年系だと十周年は業種やジャンルに関係なく、大体盛大に何かやる印象」
「十年も続けるっちゅうんは、何気にかなりしんどいからなあ。割と惰性で続かんでもないけど、それも運とか巡り会わせとかもないとあかんし」
澪がネタにした十周年という言葉に、それはそうだろうと頷く宏。
十年というのは生きている分にはあっという間だが、何かを継続するには結構大変な期間である。
「でも、十周年かあ。その頃私達はどうしてるのかな?」
「どこを基準にするかにもよるけど、日本に戻ってきてから十周年だったら、エルの年と立場のこともあるから、あんた達も結婚ぐらいはしてるんじゃないかしら?」
「だといいけどね」
「まあ、仮に結婚はしてても、絶対本番はしてないだろうってのは断言できるけどな」
何とも微妙な話を持ちだす春菜に合わせ、そんな未来予想図を口にする真琴と達也。
一方、反応に困る話題に対し、目を背けてノーコメントを貫く宏であった。
《『春菜ちゃん、がんばる?』十巻の時間軸から書き下ろし》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます