アルマーク/やまだ のぼる
【モーゲンと九人の仲間たち】
とある休日。
さざ波通りにあるモーゲンの行きつけの菓子店が、なんと十種類もの新しい味の焼き菓子を発売するのだという。モーゲンはさっそく買いに行こうとしたが、そこで問題が発生した。
もちろん全種類の味を食べるつもりだったが、敵もさるもの、店では一つの味につき十枚一包みで販売しているのだ。さすがのモーゲンも、十枚一包みを十種類、合計百枚もの焼き菓子を食べるほどの胃袋は――まあ、ないことはないが、しかし百枚も買うだけのお金がなかった。
だけど、食べたい。諦めたくない。
そこで彼はいいことを思いついた。
クラスメイトたちを募って、十人で買いに行けばいい。一人一種類ずつ買って、みんなで一枚ずつ交換すれば、それぞれが十種類の菓子を一枚ずつ手に入れられる。なんて素敵なアイディア!
そうと決まれば、休日でみんなが寮を出ていってしまう前に。
さっそくモーゲンは仲間を募ることにした。
まずは、いつも一緒にいるバイヤーを、と思ったのだが、薬草好きのこの少年は、朝早くに森へと出かけてしまったらしく、留守だった。
次に、北から来た編入生の部屋を訪ねる。
「アルマーク、さざ波通りのお店にお菓子を買いに行こうよー」
そう言いながらノックすると、出てきたアルマークは明らかに興味がなさそうだったが、モーゲンの説明を聞くと納得したように
「なるほど、頭数が必要なんだね。それなら僕も協力するよ」
「ありがとう、アルマーク!」
「じゃあネルソンたちも誘おうか」
「うん」
一階の談話室を
「ネルソン、レイドー、みんなでお菓子を買いに行こうよ!」
「何だ、そりゃ」
そう言いながら近寄ってきたネルソンは、すでに嬉しそうに口元を綻(ほころ)ばせている。楽しいことが大好きな彼の隣で、レイドーも仕方ないという顔で微笑んでいた。
「わざわざ僕たちに声を掛けるっていうことは、これはモーゲンにとって重大なことみたいだね」
二人を仲間に加えたモーゲンは、談話室を出たところでいつもの三人組と出くわした。
トルク、デグ、ガレイン。
大声で何か話しながら外へ出ていこうとしている三人の背中を見送るモーゲンを、アルマークが不思議そうに見た。
「モーゲン、トルクたちには声を掛けないのかい」
「だって絶対に断られるよ」
「聞いてみなきゃ分からないじゃないか」
「あ、アルマーク、ちょっと待って」
モーゲンの制止も聞かず、アルマークは三人に歩み寄ると説明を始めた。果たしてトルクは面倒そうに顔を
「は? 菓子? 興味ねえな」
「そうみたいだね」
アルマークは頷く。
「でも、二人は興味あるみたいだ」
そう言われて、デグとガレインが慌てた顔をする。
「い、いや、別にそういうわけじゃ」
だが、二人がさっきから食べてみたそうな顔をしていたのには、トルクも気付いていた。
「お前ら、行って来いよ」
そう言って、トルクは身を
「ちょうどよかった。今日は一人でやりてえことがあったんだ。ついてくるなよ」
トルクがそうなったら、もう追っても無駄なことはデグとガレインにはよく分かっていた。彼らを仲間に加えて、これで六人。
「声を掛けてよかったね」
「う、うん。ありがとう。アルマーク」
「あ、レイラがいるぞ。おーい、レイラ」
「ま、待って、アルマーク……!」
「そんなことで私の邪魔をしないで」
廊下が凍るかと思うほどの冷たい声でレイラに断られたアルマークが、特に気にする様子もなく戻ってくると、モーゲンはこれ以上アルマークが誰かを見付ける前にウェンディの部屋を訪ねることにした。
「楽しそうだね。うん、行く」
「私も、私も!」
ウェンディだけでなく、彼女と同室のカラーまで一緒に行くと言い出した。
これで、八人。
「ノリシュとリルティは、今日は街へ出かけるって言ってたわ」
「キュリメとセラハもいないね」
「ピルマンはいつもどこにいるか分からないしな」
「でも、そろそろ行かないと、売り切れちゃうかも」
モーゲンの焦った顔を見て、ネルソンが声を上げる。
「それならもう行こうぜ。八人でもいいよ」
「そうだね……」
僕が三包み買えばいいか、と考えながらモーゲンが外に出ると、そこで金髪のクラス委員に出くわした。
「ウォリス!」
モーゲンはウォリスに抱き着く。
「お願い、僕と一緒にお菓子を買いに行って!」
「突然だな、モーゲン」
事情を話すと、ウォリスは苦笑して頷いてくれた。
これで、九人。
「あと一人、集まらなかったね」
「うん、残念だけど仕方ない」
学院の正門をくぐろうとすると、ちょうど衛士のジードが勤務を終えて交代するところだった。
「ジードさああん!」
「うわっ」
ふかふかしたモーゲンに飛びつかれたジードが、優しく了承してくれて、これでついに十人。
十人の一行が笑顔で街への道を歩く。先頭を歩くモーゲンの胸は、未知のお菓子への期待でいっぱいに膨らんでいた。
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