神様のミスで異世界にポイっとされました/でんすけ
【ボア追い祭り】
城塞都市リンドルンガ。
銀狼メンバー3人が突然俺の自宅を訪ねてきた。
「コウ! 来月リンドルンガでボア追い祭りがあるのは知っているか? 俺達も参加するんだが、参加者で欠員が出たらしいから、コウも参加してみないか!?」
ウリルが突然切り出してきた。
「嫌ですよ。ここでまったりしていたいです」
もちろん、俺は断りを入れる。
「頼む、奥さんにいいところを見せたいんだ」
ウリルが土下座する勢いで必死に懇願してきたので、渋々引き受けることにする。
「仕方ないですね。分かりました」
ため息をつき、主催している冒険者ギルドへ参加の申し込みをしにいった。
◇
ボア追い祭りの当日となった。
広場は屋台で賑わい、ボアが走る通路の両脇には頑丈な壁が作られている。既に大勢の見物人が群がり、会場は異様な熱気に満ちている。
元々、この祭りは暴れるボアをリンドルンガの大商人の小屋へ移動させるために、勇敢な冒険者が追い込んだのが起源で、その翌年からもう10年も続く祭りとなっていた。いつしか、武器を持たない冒険者達が己の勇敢さを示そうと、怪我を恐れずボアの前を走り出したことからリンドルンガで人気となった祭りだ。
スタート地点には参加する10人の冒険者達が並んでいる。その中でもウリルはソワソワと落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見回している。
「どうしたんですか? ウリルさん」と俺が聞くと、一瞬ビクッとして振り返る。
「コ、コウか。いやな、奥さんの姿が見えなくてな」と落ち着きがない。
ウリルの横ではダリルとランガが体をほぐしている。他の冒険者達も体を動かして準備をしているが、俺は友情参加なので最後尾でボケッと立っている。
ふと後ろを見ると柵があり、その柵に向かってボアがガツガツと体当たりしている。殺気満点だ。
15分ほど待つと、通路脇に設置された台に冒険者ギルドマスターが上がる。
「今回も屈強な怖いもの知らずの冒険者達が揃った。観衆も楽しみであろう!」
ギルドマスターの言葉に観衆が
「それではこれより、今年のボア追い祭りを始める!」
その宣言とともに、上空に火魔法が打ち上がって爆発する。直後、柵が開かれた。
ブギィ! ブギィ!
十頭のボアが叫び声を上げながら、冒険者達に襲い掛かる。
「ウラァ!」
ランガが大柄な体格を活かして先頭のボアに体当たりをした。凄まじい衝撃でボアが転がる。他の冒険者達もボアを
「かかってこいやぁ!」
更に気合いの入ったウリルがボアを目掛けて走り出すと、ボアはビビッてスタート地点の方向へと走り出した。
なんか本来の趣旨と少し違うような気がしたが、より凶暴さが増したボア達は、目の前の冒険者達を叩きのめそうとばかりに走り出した。
このボア追いのコースには見どころが三ヶ所ある。
一つ目と二つ目は90度に曲がるコーナー。
三つ目がゴールとなるボアを追い込む小屋である。
一つ目のコーナーが迫る。ボアは全力で石畳のコーナーを曲がろうとするが、急激に曲がろうとしたために足を滑らせて柵にぶつかっていく。
それを見た観衆が恐怖の声と歓喜の声を上げる。
二つ目のコーナーでも同じくボアは曲がりきれず壁に突っ込み、観衆が悲鳴と歓声を上げて更に盛り上がっていく。
冒険者達は迫りくるボアの前を疾走しながら、狭い路地を全速力で駆け抜けていく。
残すはゴールでボアを小屋に追い込むだけである。
しかしうまくいかない。ボアは小屋に入るのを嫌がり、小屋の前で冒険者から逃げまくる。観衆はそんな冒険者を見て笑い声を上げる。
「あれ?」
最後尾のボアを相手に走っていた俺は、ゴール前で冒険者達が騒ぎながら右往左往している光景を目の当たりした。どうやらボアを小屋に入れられず、手こずっているようだ。その中に一番気合いが入っていたウリルも見える。
俺はため息をついて結界で抑えている魔力を開放すると、その魔力に
次の瞬間、「ウオォ!」とウリルが勝利の雄叫びを上げた。
そう、ウリルは自分の手柄だと喜ぶが、実際にはウリルの後ろで開放したコウの魔力に怯えただけであった。
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