八男って、それはないでしょう!/Y.A

【王国主催、王宮筆頭魔導師就任十周年パーティー】



「あなた、王国から招待状がきていますよ」

「招待状? 今回はなんのパーティーかな?」

「伯父様が王宮筆頭魔導師に就任して十周年だそうで。王城で盛大に祝うそうです。私たちだけでなく、イーナさんやルイーゼさんたちも招待されています」

「イーナたちは、導師と魔の森で一緒に遺跡探索までした仲だからかな?」

 一応導師は子爵家の当主でもあるから、招待客はその身分に準じたものになる……イーナたちは俺の妻だから、おかしな話ではないのか。

「王宮筆頭魔導師に任命されたら就任と退任のパーティだけじゃなくて、節目節目でお祝いするんだ」

 他の顕職けんしょくでも、こんなパーティーをやるのかな?

 あっ、でも。

 大臣職は基本的に五年で交代だから、パーティーは就任、退任の時だけのはずだ。

 俺自身、『○○卿就任〇周年記念パーティ』とかに招待されたことなんて一度もないのだから。

 それにしても、パーティを開催する方も招待される方も、交際費がかさんで大変だよなぁ。

 まさか手ぶらでは行けないし、毎回同じ服ってのも……特に奥さんのドレスがいつも同じだと問題なので、貴族がパーティーをやると新しいドレスが売れる、なんて話をキャンディーさんから聞いたことがある。

 そうやって王国の経済を回しているんだろうけどさ。

「今回のパーティは、陛下が伯父様のために主宰したのだと思います」

「陛下が主催するのか。じゃあ必ず行かないと」

 導師と陛下は親友同士の間柄だし、導師の王宮筆頭魔導師としての対外的な評価は低くないどころかとても高い。

 そりゃあ帝国が王国に戦争を吹っ掛けたら、あの筋肉親父が最前線に出てくるんだ。

 悪夢以外の何者でもなく、陛下からしたらそんな導師のために就任十周年パーティーを開くことなど容易たやすいはず。

「ではドミニクに、パーティーに出かける準備を頼まないといけませんね。それでもう一枚添え状がありまして、これは伯父様の字なのですが、その……」

「その、なにかな?」

 エリーゼが困惑しているので添え状の中身を見てみると、そこには予想外の内容が書かれていた

「……お祝いはお酒がいいそうです……むしろお酒一択だと」

「お酒以外お祝いは受け取らないってか。凄いな……」

 そりゃあ、エリーゼが困惑するわけだ。

 この添え状、俺や親しい間柄の人たちのみに付けたと思われるが、お祝いの品を指定するなんて前代未聞だ。

「まあ、いいんじゃないの? お祝いの品ってなにを贈るか悩むけど、貰う本人が指定してくれたんだから」

「喜んでくれることは確かですね」

 貴族は贈り物をすることが多いけど、それを選ぶ際にとても苦労する。

 向こうから、『こんなもの貰ってもなぁ……』って思われたら嫌だけど、相手が気に入ることがわかっていても、貴族への贈り物に相応しくないのものは贈れない。

 お金がかかるので、実は贈り物が嫌いな貴族は多かった。

 それでも贈り物をやめられないのが貴族だけど。

「お酒なら、高いやつを持っていけば問題ないからなぁ」

 俺はお酒を入手する機会が多いけど、普段あまり飲まないし、料理酒に使うには勿体無いお酒が多く、他人への贈答用に回されることが多かった。

 それを導師にプレゼントすればいいのだから。

「伯父様のパーティー、きっと盛大なんでしょうね」

「招待客は多そうだ」

 そして、導師の王宮筆頭魔導師就任十周年パーティーの当日。

 俺たちは着飾って王城にある大ホールに向かったが、予想どおり招待客も多くて大盛況だった。

 たまに忘れてしまうけど、導師はああ見えても王国の重臣だからなぁ。

「導師、王宮筆頭魔導師就任十周年おめでとうございます」

「伯父様、おめでとうございます」

「バウマイスター辺境伯、エリーゼ、ありがとうなのである!」

「これはつまらないものですが……」

 この世界でも、『つまらないものですが……』と謙遜けんそんしつつ、でも前世ならあり得ない金額のお酒を贈り物とする俺。

 思えば遠くへ来たものである。

「素晴らしい酒をすまないのである!」

 普段導師が俺にせびるお酒よりもワンランク上のお酒に、導師はご機嫌だった。

「時間の許す限り、ごゆるりと過ごしてほしいのである!」

「ご馳走を堪能しますよ」

 エリーゼの予想どおりパーティーは陛下が主催したので、出てくる料理はすべて美味(ルビ:おい)しく、せっかくなので堪能しようと思う。

「(あの……、あなた?)」

「(エリーゼ、どうかしたのか? ……まあ導師だからねぇ……)」

 会場の端に大量に置かれたお酒の瓶と樽の量に絶句する俺とエリーゼ。

 どうやら導師は、すべての招待客にあの添え状を送ったようだ。

 『贈り物はお酒がいいです!』と平気で言えてしまう導師はさすがというか……。

 常に人生を堪能している気がする。

「これでしばらく、酒に困らないのである!」

 大量のお酒を貰ったにも関わらず、導師はパーティー会場で出されたお酒も大量に飲んでいた。

 よく急性アルコール中毒にならないなといつも感心してしまうが、きっと肝臓がドラゴン並に頑丈なんだろう。


 俺ならとっくに、急性アルコール中毒で倒れていると思うから。

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