【早宮果乃】
「アイツはただの引き立て役だから」
その言葉を放ったのは、私の親友であり、私の憧れのアイドルだった。
その言葉を放った同級生――
それどころか、私が、廊下でその言葉を聞いている可能性なんて、微塵も考えていなかったはずだ。
偶然その場に居合わせて、聞き耳を立ててしまった私が悪いのである。
妃芽花と私――
幼馴染といっても、狭い離島の出身である。
島に小学校と中学校と高校は一つずつしかなく、同じ年に生まれた子どもは、漏れなく幼馴染となるのである。
仲は良かった、と思う。
ただし、生を授かった時から、神は、妃芽花と私との間に、あまりにも大きな差を設けていた。
ルックスレベルという言い方は、あまり好きではない。「レベル」というと、いかにも後から努力で上げられるような誤解を招く。
妃芽花は美人で、私はそうではなかった。
ただそれだけだ。
それでも、金魚のフンのように常に妃芽花につきまとっていた私は、島民から、妃芽花と「セット」のように見られていた。
その延長として、私は、妃芽花と2人でご当地アイドルユニット「キャンディー・クルーズ」を組むことになった。
中学一年生の頃である。
自分は「おまけ」に過ぎない、という自覚は、ずっとあった。
アイドルの世界は残酷だ。ルックスの差はそのまま人気の差となり、アイドルとしての価値の差となる。
ほとんどのファンは妃芽花目当てで、私とチェキを撮ってくれる人は、ゼロではなかったが、あまりいなかった。
たまに私とチェキを撮ってくれる人がいても、憐れみに違いない、と私は卑屈になってしまうこともあった。
「いつか二人で天下を取ろう!」
妃芽花の口癖、と言っても良いかもしれない。
アイドル活動は楽なことばかりではなく、むしろ辛いことばかりだったが、妃芽花はいつも、この言葉で私を鼓舞してくれた。
私はその言葉をずっと「信じていた」。
まさか離島出身のご当地アイドルが本気で天下を取れるなんて思っていなかった。
人気のない私が、妃芽花の「お荷物」になっているという自覚もあった。
それでも、「いつか二人で天下を取ろう!」と声を掛けてくれる妃芽花の存在は、私にとってあまりにもありがたかったのだ。
どこまでも妃芽花について行こう、と私は思っていた。
おそらく、私は、他の誰よりも妃芽花のファンだった。
「アイツはただの引き立て役だから」
その言葉を聞いたのは、中学校の卒業式の日だった。
妃芽花は、同級生の男子から、進路のことを訊かれるとともに、私のことについても質問されたのだ。
夕陽差し込む教室には、妃芽花とその男子しかいなかった。
忘れ物が気になった私が、偶然その教室に入ろうとしていただなんて、妃芽花が気付くはずもなかった。
その陰口を聞いた私は、どちらかと言うと、ホッとした。
――「お荷物」ではなく、「引き立て役」で良かった。
こんな私でも、妃芽花の役に立てていたのだ、と。
私と妃芽花の中学卒業をもって、キャンディ・クルーズは解散となった。
そして、妃芽花は、私に一切相談することなく、内地の高校に進学し、私よりもはるかに可愛い子たちとアイドル活動を始めたのである。
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