過去編①
「ねえ、清野ってば、起きてよ!」
体をゆるられ、俺は顔を上げる。
目の前に、仲間の少女、北宮葵がいた。
葵はギャルっぽい見た目の美少女で背もすらりと高い。制服を着崩していて、短めの茶髪がよく似合っている。
ここは高校三年B組の教室。
俺が逃げてきた名古屋の学校だ。当時の俺は清野という苗字だった。
「休み時間なんだから、寝かしておいてくれよ」
「名古屋では、休み時間ではなく、放課、ね?」
葵が訂正してくすっと笑う。葵は名古屋の生まれだが、母親をダンジョンのモンスターに殺されていた。
だから、彼女は冒険者としての活動に積極的だった。
「放課後の作戦会議をする予定だったでしょ?」
「そうだった。悪い」
「ともかく、あと一人、黒魔道士役も欲しいよね」
北宮葵が俺の机にもたれかかりながら言う。
俺たちは剣士の春人、盾役の葵、そして回復役の俺、と三人で戦っていた。
だが、どうしても火力不足は否めない。
だが、俺たちと同じぐらいの実力のある冒険者は、そんなに多くはない。
少なくとも、この学校の同じ学年では見つからなさそうだ。
「学校外で探すべきかもね。できれば同じ学校のほうが都合がいいけど」
放課後にすぐダンジョン探索に行けるし、何かと調整もしやすい。
同じ学校のほうが共通の話題もあるし、気も合うだろう。
少なくとも、年齢が近いことは必須条件だ。
そんなことを話していたら、教室の外で俺が呼ばれているとクラスメイトが伝えに来た。
俺は葵に「悪い」と断ると、廊下へと出た。
そこにいたのは、後輩の女の子だった。
「清野先輩……だよね?」
上目遣いに彼女は俺を見る。小柄で、とても可憐な子だった。ブレザーの制服がよく似合っている。
長い黒髪がふわりと揺れる。ふふっと彼女は笑った。その表情に俺は一瞬見とれた。
「ああ、俺が清野だけど……?」
「わたしは橋川愛華。あのね、先輩、すごく強いでしょ?」
「まあ、一応は」
「わたし、先輩にあこがれてここに来たの。でも、わたしも強いんだよ?」
「へ?」
「先輩の仲間になれると思う」
「あー、冒険者としてってこと?」
「そうそう。わたしが先輩の力になってあげる」
愛華がくすっと笑う。
それが俺と愛華の出会いだった。
実際、彼女は強かった。すぐに俺たち冒険者パーティの火力を一手に担うようになった
そして、愛華は不思議な雰囲気の子だった。
最初のうちは何を考えているか、よくわからなかった。葵や春人も接し方に困っていたと思う。
彼女はなぜか俺にだけ懐いていた。まるで小動物のように。
自分を慕ってくれる後輩のことを、俺は悪くは思っていなかった。
だが、そんな愛華と、恋仲になるなんてこのときは思ってもいなかった。
<あとがき>
過去編①ですが、すぐに過去編は終わります……!
また、しばらく週2回、日曜日と水曜日更新の予定です……!
後少しで、☆1,000なので☆での応援、お待ちしていますね……!
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