第30話 舞依とマインゴーシュ

 俺は肩をすくめる。


「馬鹿なことを言ってないで、行くぞ」


「進一さんが冷たーい!」


 舞依がそんなふうに抗議の声を上げるが、俺は相手にしないことにした。


 もし少しでも相手にしてしまえば、否応なく舞依を意識させられる。自分に好意を寄せる15歳の少女を、俺はどう扱えばよいか分からなかった。


 そのまま好意を受け入れることなんてできるはずもない。年齢差がありすぎる。

 それ以上に、もし俺にとって舞依がこれ以上に大切な存在になれば、彼女が万一死んだ時の痛みに耐えられる自信がない。


 愛華を失った時と同じことを、繰り返したくなかった。もちろん、舞依、それに実菜たち弟子は絶対に守る。


 だが、臆病な俺にはそもそも舞依たちと距離を詰めすぎないことで、最悪の事態に対して予防線を張っているのだ。


 そんなことを考えていたら、少し先に大型のモンスターがいるのを見つけた。

 エンシャント・ドラゴンだ。

 

 一体だけだから、俺一人で問題なく倒せるだろう。

 だが、舞依のクラスメイトの裸の少女(美波という名前らしい)を背負ったままでは流石に戦えない。


 仕方なく、俺は美波を舞依に預けることにした。


「いいか、すぐ戻ってくるからここから動くなよ」


「あ、あたしも一緒に戦います!」


「ダメだ。おまえの実力じゃエンシャント・ドラゴンには太刀打ちできない」


 エンシャント・ドラゴンより数段は劣るプテラゴブリンにも、いまの舞依は瞬殺されてしまう。

 悔しそうに舞依は唇を噛んだ。

 

 俺は表情を和らげる。


「それより、おまえの役目は友達を守って上げることだろ」


「! はいっ!」


「万一のときはマインゴーシュを使って戦え。おまえはもしかしたら盾と細剣よりそっちの方が向いているかもしれないしな。だが、可能なら俺のことは気にせず、友達を背負って逃げろ」


 舞依は緊張した表情でうなずいた。


 俺が美波を舞依に預けると、舞依は美波を肩によりかからせる。

 これで万一俺に何かあっても、舞依と美波だけでも逃げられる。


 そして、俺は走ってその場を離れ、エンシャント・ドラゴンに向き合った。


「またおまえか……いい加減見飽きたよ」


 突進してくるエンシャント・ドラゴンの攻撃を何度か受け流す。相手の体力が切れたタイミングを見計らって、俺は魔法剣を投擲した。魔法剣がエンシャント・ドラゴンの内蔵を貫き、絶叫とともにエンシャント・ドラゴンは倒れた。


 一撃でエンシャント・ドラゴンを撃沈できて俺はほっとする。

 俺もまだまだ捨てたものじゃないな……。


 そんなふうに自分を過信したのがいけなかったのかもしれない。

 遠くから「きゃあああっ」と悲鳴が聞こえてくる。


 振り向くと、舞依がプテラゴブリンの集団に囲まれていた。


「舞依っ!」


「進一さんっ!」


 舞依はダガーを構えながらも、俺に助けを求める。その足元にはぐったりとした美波がいた。


 もちろんすぐに助けに行くつもりだ。けれど、魔法剣を回収してからプテラゴブリンのもとに向かうまで間に合うかどうか。


 戦っているあいだに、舞依たちとはかなり距離が離れてしまっている。

 俺がプテラゴブリンを倒すより早く、舞依は倒され、そして連れ去られてしまうかもしれない。

 今まで通りなら、プテラゴブリン相手にも、舞依は十秒も持ちこたえることはできない。


 そうなれば……舞依はゴブリンの子袋として孕まされ、場合によっては殺される。

 俺は最悪の事態を想像して顔が青くなった。


 また同じ過ちを繰り返すのか。

 いや、まだ何か手があるはず……。


 ところが、ゴブリンの攻撃を舞依は意外にもかわした。自分でも驚いているようだった。

 舞依の短剣がまるで踊りを舞うように綺麗に流れる。


 ゴブリンの攻撃をすべて受け流し、一切体勢が崩れていない。

 これなら……間に合う! 俺は魔法剣を拾うと、舞依のもとへと駆け寄った。


「進一さんっ!」


「よく持ちこたえた!」


 俺は魔法剣でプテラゴブリンを薙ぎ払う。

 本当にほっとした。

 

「危ない目にあわせてすまん」


「ぜ、全然大丈夫ですっ! それより、あたし、ちゃんと戦えていましたよね!?」


 舞依が目をきらきらと輝かせて言う。

 俺はうなずいた。


「ああ……下層のモンスターのプテラゴブリン複数を相手にしても、攻撃を受け流せてたんだからな。大したもんだ」


「先生のアドバイス通りマインゴーシュを使ってみてよかったです!」


 舞依は無邪気に喜ぶ。盾役も防御とともに攻撃を行うタイプと、攻撃の回避に徹するタイプとパターンが分かれる。


 舞依はこれまで前者だったが、もしかしたら回避に徹した盾役として、かなり高い素質を持っているかもしれない。


 嬉しそうな舞依が褒めてほしそうに俺を上目遣いに見つめる。


「よくやった」


 俺が舞依の髪をくしゃくしゃっと撫でると、舞依はえへへと笑った。






―――――――――――

いよいよ第一部クライマックスへ・・・


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