第9話 vs迷惑系配信者
トクダという名前で思い出したが、
迷惑系、というより本来ならほぼ犯罪者に近い。ダンジョン内は無法地帯な上、日本の法律が及ばない(まあ、ダンジョン出現後、地上ですら法律はろくろく守られていないのだが)。
というわけで、ダンジョン内では殺人以外のほぼすべてが許されてしまう。
徳田はかなりの実力があるAランク冒険者だが、他の冒険者を襲い、その装備や資材を奪う。
しかも、ダンジョン内に火を放ち焼き尽くしたり、大量の危険なモンスターを解き放ったり……。
おまけに、女性冒険者を強引に自分のものにすることすらあるという。無理な決闘を持ちかけて、敗者に絶対服従を誓わせると、そのままホテルに連れ込むのだとか。
夏菜子がそう実菜に説明すると、実菜は「最低っ」と吐き捨てた。
<徳田は引っ込めよ!>
<俺たちは実菜と橋川のチャンネルを見に来ているんだ!>
だが、徳田は忌み嫌われているが、その確かな実力と、過激な言動でチャンネル登録者数も多い。
そして、彼は俺たちの前までやって来た。長身の茶髪のチャラそうな男だ。俺と同い年ぐらいか?
徳田はにやりと凶悪な面を歪ませる。
「よう。英雄さんよ。たかだか女子高生を助けたぐらいで調子に乗りやがって」
典型的な悪役ムーブで少し笑ってしまう。
「それが気に食わないから難癖をつけに来たのか」
俺の言葉に徳田はむっとした様子だった。
「ああ、気に食わないね。Dランク冒険者のくせして」
「俺を気に食わないのは個人の自由だが、別に君と争う気はない」
「こっちにはあるんだよ」
そう言うと、徳田は背後の女性冒険者三人に顎で指示をして、こっちに呼びつける。
パーティメンバーでいずれもおそらく実力者なのだろう。しかも、いずれも美女・美少女揃い。
この女性たちは徳田の愛人なのかもしれない。ちなみにダンジョン出現後、一夫多妻が許可されている。
治安の悪化、格差の拡大、そしてダンジョン探索による男性人口が急減しているのだ。
結婚可能年齢も13歳まで引き下げられたし。そうでないと生きていけない女性や少女たちがいる。
ダンジョン探索はやはり様々な理由で男の方が向いている。
だから、腕の良いダンジョン探索者に、複数の女性や少女が妻や妾として囲われていることも珍しくないのだ
<徳田のハーレム軍団かよ>
<あんなクズでも可愛い子たちを愛人にできるんだから羨ましいよな>
<わたしは進一さんの愛人になりたいですけどね―>
ともかく、この徳田の狙いが気になる。
「勝負しろよ、橋川」
「何の話だ」
「ダンジョン内決闘。おまえだってやったことあるんだろ?」
「昔はな。いまはそんなことはしない」
ダンジョン内での決闘。冒険者同士の生命を賭けた戦いだ。
血気盛んな若い冒険者なら、互いのレアアイテムを賭けて戦ったり、自分の実力を誇示したくなるのかもしれない。
けれど、俺にとってダンジョン探索は仕事であり、義務にすぎない。危険な真似をするわけにはいかないのだ。
俺がそう断ると、徳田は突然、魔法を使った。白い触手のようなものが現れる。そして、近くにいた実菜を拘束した。
「きゃあああああっ」
実菜が悲鳴を上げる。実菜は触手に絡め取られ、宙に浮いていた。しかも、触手が実菜の制服のスカートをめくろうとしている。
「ちょっ、や、やめてよ……!」
実菜が必死で抵抗するが、Aランク冒険者の魔法には敵わないのか、びくともしない。太もものあたりが、際どい感じになっている。
<み、実菜ちゃん……!>
<ああっパンチラしそう!>
<そうじゃなくて助けなきゃっ、橋川さん!>
コメントに言われるまでもなく、俺は魔法剣を一閃して触手を断ち切った。
ふわりと宙に浮いた実菜が「きゃーっ!」と悲鳴を上げるが、それほど高い場所ではないので、抱きしめる。
ちょうどお姫様抱っこのような形になった。
「あっ……」
実菜が小さく声を漏らして、顔を赤くして俺を見上げる。
「おっさんに抱き上げられるなんて嫌だろうが、我慢しろ」
「橋川さんなら、嫌じゃない。むしろ……」
実菜はなにか言いかける。だが、いまはそれどころではない。
夏菜子が武器の槍を抜き、徳田たちに対して身構えている。臨戦態勢だ。
ちなみに夏菜子がパーティを組む場合、役割は前衛の攻撃役だ。
ただ、いまはパーティを組んでいる場合ではない。そもそも盾役が不足している。上層だから、本格的なパーティ編成は不要なはずだった。
だが――。
「女たちに手を出されたくなければ決闘しろ、橋川。それとも怖気づいたか?」
徳田はせせら笑う。
<やっちまえ橋川!>
<わたしの橋川さんならきっと勝てます!>
<徳田のくそ野郎を――して――しろ!>
コメント欄が盛り上がっている。というか、一部検閲済みなぐらい口が悪いコメントがあるのは、徳田が嫌われているからだろう。
できれば決闘なんてしたくない。俺は負ける気は一切ないが、万に一つでもリスクがあるなら、無用な戦いは避けたい。
だが、配信されている以上、逃げ出すわけにもいかない。俺と実菜のチャンネル登録者数をこれからも増やしていかないといけないのだから、視聴者に無様な姿を見せるわけにもいかないだろう。
なるべく派手に勝つ必要がある。
腕の中の実菜が、不安そうに俺を上目遣いに見つめる。
「橋川さん……?」
「安心しろ」
「うん」
実菜は素直にうなずいた。
そうだな。実菜や夏菜子にカッコ悪いところも見せたくない。俺は実菜を優しく床に降ろして立たせる。
それから、俺は徳田に向き合った。
「……乗った」
俺の言葉に徳田は満足そうにうなずく。
「賭けの対象は、全員の装備。それともちろん『女』だ」
びくっと隣の夏菜子が震える。
勝ったほうが相手側のパーティの女性を好きにしていい。徳田がよく使う手だ。夏菜子たちを賭けの対象にするなんてありえないが、どのみち徳田が勝てば、夏菜子たちを守る存在はいない。
徳田が言う。
「ルールはパーティ戦だ」
「一対一じゃないのか?」
「当然だろ? 4対4のパーティ戦闘こそ、決闘の花形だしな……!」
どうやら、パーティ戦闘は避けられないらしい。
俺が条件を拒否しても、徳田たちは襲いかかってくるだろう。
だが――俺はパーティでは戦えない。
「御城と夏菜子は下がってろ」
「先輩……名前で呼んでくれましたね?」
「そんなこと、言ってる場合じゃないだろ……」
「一人で戦うつもりですか? 相手はたぶん全員Aランクですよ」
「俺は……仲間と一緒に戦うことはできない」
過去、俺はパーティの仲間だった少女を死なせてしまった。彼女――橋川愛華は最後まで俺を信じてくれていたのに。
そのトラウマで俺は一人でしかダンジョンを探索できなくなった。
「あたしは……先輩の役に立てます! 足手まといになったりしません」
夏菜子は必死な様子で食い下がる。
だが、もう答えは決めていた。
俺は夏菜子に微笑んだ。
「大丈夫。あんなクズたち俺一人で十分だ」
そして、俺は相手へ向かって一歩踏み込んだ。
「決闘開始だ。どこからでもかかってこい」
徳田と三人の女が、俺に一斉に攻撃を加えようとする。一気に方をつけるつもりだろう。
「橋川、おまえを倒してオレが真のインフルエンサーになってやるぜ!」
徳田が何を言っているか、俺はもう聞いていなかった。
ただ、意識を集中する。
<さすがに橋川でも4対1は……負けるじゃないか>
<徳田もめちゃ強いしな>
<夏菜子ちゃんと実菜ちゃんも戦わせればいいのに>
<橋川さん……頑張って!>
コメントが次々と流れてくる。それももちろん、意識の外だ。
俺は魔法剣を軽く動かし、相手の攻撃を流す。剣、斧、炎の放射、聖属性の攻撃。そのすべてを剣で順番に受け流した後、魔法剣を一閃させた。
すると、後方に衝撃波を生じさせた。これで後衛の黒魔道士と白魔道士を一掃した。
二人の女性と少女はばたんと倒れて、気を失ってしまう。
<は?>
<どうなってんの?>
<何がおこったかさっぱり……?>
<意味がわからん>
徳田も呆然としている。
「なっ……!」
徳田が口を動かす前に、俺はやつとの距離を詰める。
こんなやつに魔法剣は不要だ。
「相手が悪かったな。格が違うんだよ」
俺は短く告げた後、やつの頬を思い切り殴りつけた。
そして、徳田は無言で吹っ飛び、床に倒れた。
わずか十秒ほどで、俺はAランク冒険者パーティを殲滅し、制圧した。
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