Side 御城実菜:【実菜たちの初めての下層へのチャレンジ配信!】

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【実菜たちの初めての下層へのチャレンジ配信!】


 ――どうして、こんなことに……。

 エンシャント・ドラゴンを前にして、あたしは、震える身体を抑えられなかった。

 

 話は少しさかのぼる。


 あたし――御城実菜とクラスメイトの3人は、冒険者パーティを組んで、ダンジョン配信をしていた。


 10年前、あたしは、ダンジョンのせいで両親を失った。それ以来、叔父夫婦の家に住んでいるけれど、居心地が悪くて……。特に年上の従兄は、あたしのことをじろじろといやらしい目で見てくる。


 男――特に、年上の男なんて大嫌いだ。

 だから、あたしはお金を稼いで自立したかった。そこで、ダンジョンでの冒険と配信を始めたのだけれど、全然人気にならない。せいぜい同接の視聴者数は1,000人程度。


 あたしたちはそれなりに可愛い見た目をしていると思うけれど、それだけで人気になれるほど甘くはない。

 実力が伴わないと……。


<所詮、可愛いだけが取り柄の女子高生だろ?>


 チャンネルでそんなことをコメントされて、あたしはカッとなった。


 そして、焦ったあたしたちは、危険だと知っていても、下層に挑戦した。

 でも、あっさりゴブリンなんかにあたしたちは負けちゃって……。


 あたしは絶望しかけた。ゴブリンに捕まれば、凌辱されて子供を産まされる。しかも、動画の視聴者たちの一部は、


<いいぞ、もっとやれ!>


 なんてゲスいコメントを送っていた。


 女性配信者がダンジョンでひどい目にあうのを、楽しみにしている男の視聴者も多いらしい。配信の撮影はドローンが行っているから、戦闘中の冒険者は切ることができない。


 やっぱり、男なんて最低……! あたしの人生は、ゴブリンに犯されて、男たちの見世物になって終わるんだ……。


 でも、あたしを助けてくれたのは、20代後半ぐらいの男……お兄さんだった。


「立てるか……?」


 優しく手を差し伸べられて、あたしは思わず、彼に抱きついてしまった。

 中層で最初に会ったとき、あたしは焦りで苛立って、彼を罵ってしまった。なのに、彼はあたしを助けてくれた。


<誰だ? この男は? ……邪魔するなよ>


<いや、でも……プテラゴブリン五体を瞬殺って、すごくないか?>


<階級はDランクなんだよな……いや、でもAランクでもこんなに速くは倒せないぞ……>


 この人はすごく強い……。しかも……なんか、抱きしめられるとすごく安心感がある。

 助けてくれてありがとう。あたしはそう言おうとした……。


 けど――。


<あれはエンシャント・ドラゴン!?>


<深層でSランク冒険者でも倒せていない奴だぞ!>


<あーあ、死んだな。こいつら>


<見てくれは良いのに、もったいない>


<誰か助けてやれよ!>


<いや、無理だろ……>


 あたしはエンシャント・ドラゴンが現れたのを見て、ここで死ぬんだと思った。

 あたしたちじゃ、絶対に勝てる相手じゃない。


 きっと、この男の人だって……。


 でも、彼は「やってみないとわからない」と言って、にやりと笑った。


 そして、舞依――あたしの仲間で、ドラゴンに一番近い位置にいる子に駆け寄った。

 エンシャント・ドラゴンが、嵐のような激しさで火を吹く。


「ひっ……」


 あの人も舞依も、ひとたまりもなく消し炭になってしまう。

 でも、結果は違った。


 彼は右手を上げると、透明な壁のようなものを作った。

 それで、ドラゴンの炎は止められる。


「えっ……?」


 彼は微動もせず、ドラゴンの攻撃を防いでいた。


 す、すごい……! どうなってるんだろう?


<ただのDランク冒険者が攻撃を防いだ……だと!?>


<まぐれだろ?>


<偶然でそんなことができるかよ>


 あの人は、そのまま魔法剣をつかみ……そして、上方に放り投げた。

 剣は勢いよく、ドラゴンの方へと向かい、そして、その翼を裂いた。


「ギャアアアアアアア」


 ドラゴンは悲鳴を上げながら、床へと落ちる。


<どうなってるんだ!?>


<なんだあれ……。魔法剣を投げて使う!? すごすぎだろ>


<でも、次はどうするつもりなんだ……?>


 彼はそのまま、ゆっくりと床に落ちたドラゴンへと歩み寄った。

 そして、思い切り、ドラゴンを殴りつけた。

 

 凄まじい衝撃波が起きる。

 そして、次の瞬間には、ドラゴンは消滅していた。


 あたしは呆然とする。あ、あの人は……ただのDランク冒険者じゃない。

 いったい、何者なの……?


 そういえば!

 あたしは慌てて、動画を見た。玲奈がスイッチを切り忘れたようで、空中に浮かぶドローンは、撮影を続けている。

 

「ど、同接が……10,000人……20,000人!?」


 急激に視聴者数が増えていく。

 みんな、エンシャント・ドラゴンを倒せる、「謎のDランク冒険者」の登場に熱狂していた。


<す、すげええ>


<あのエンシャント・ドラゴンをソロで倒すなんて……>


<しかも、殴って消滅させるなんて……>


 あたしは、あの人を見た。

 彼はゆっくりこちらにやってきて、微笑んだ。


「な? やってみないとわからないだろ?」


 その姿があまりにもかっこよくて、あたしはドクンと心臓が跳ねるのを感じた。


 今日。あたしたちのチャンネルがバズり……。

 そして、あたしは初めて、男の人に恋をした。

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