亀裂

「昨日と今日、休みで心配してた。学校へ来て大丈夫なの?」


 心配そうにリアナが言う。ぎゅっと胸が締め付けられた。私はリアナになんて言えばいいんだろう。


 でもこれは私が言わないといけないことだ。


「……リアナ、いつもの場所で少し話せないかな?」




 第二図書室で向かい合って座る。この場所にルイスのいない景色は変な感じだ。もうここで三人が揃うことはないんだと思うと、胸が冷たくなった。


「ルイスも最近学校を休んでるって聞いたけど、エマは何か知ってる?」


 リアナが言った。


「うん。そのことで話があるんだ。ルイスは今、原因不明の病気にかかってるの」

「え……」


 リアナは目を丸くした。


「私の知り合いに博識な人がいて、その人にルイスを診てもらうために私は昨日から学校を休んでたんだ。隣の国にいるその人のところへ一緒に行ってきたんだけど、それでルイスは王都から離れると体調が回復するってことが分かったの」

「……正直、信じられない。そんな話、聞いたことがないから」

「それはそうだと思う」


 だってこれは乙女ゲームの世界という仕様上の問題なんだから。


「ルイスは今どこにいるの?」

「今は家で眠ってるよ。それでね、リアナ……私とルイスは国を出ようと思うの」

「え……?」


 リアナの戸惑った表情に胸が痛む。


「ルイスはこの国じゃ生きていけないから、元気に過ごせる場所に移り住むしかないって決断したんだ。ルイスのご家族から了承を得られたら、明日にでもルイスは国外転出の準備をして……」

「ねえ、エマ」


 リアナは口を挟んだ。


「そんなに大切なこと、どうして私には一言も言ってくれなかったの?」


 その真っ直ぐな瞳が心苦しくて、私は目を逸らした。


「それは……」

「私は二人にとってそれほど大切な関係じゃなかったってことなの……?」

「それは違う!」

「じゃあどうして!」


 リアナが声を荒げるのなんて初めて見た。


「二人で決める前に私にも相談してほしかった。私じゃ役に立たないのかもしれないけど、一緒に考えさせてほしかったと思うのは、私のワガママなのかな……」

「ごめん、リアナ……」


 私には謝ることしかできない。


「それなら私も二人と一緒に国を出る」

「それは……!」


 主人公のリアナとルイスが一緒の世界にいることはもうできない。


「それは、嫌?」


 リアナの刺すような視線に言葉が出ない。


「私、気づかないうちにエマとルイスに嫌われるようなことしたの? 教えて。もうしないって約束するから」


 リアナは何も悪くない。リアナは自分の好きな人と恋をしただけ。それだけでこの世界はルイスとリアナが共に過ごすことを許さない。


「それも言えないんだ」

「ごめん……」

「分かった」


 そう言うとリアナはカバンを掴んで立ち上がった。


「一生の友達になれたって、思ってたのに」


 リアナが出て行って、私は一人ぼっちになった。

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