そう思わない?
「ルイス、具合はどう?」
「うん、朝より調子がいいよ」
私達は今、馬車に乗って移動している。馬車の荷台にはルイスのために簡易ベッドを用意した。
「よかった。もうすぐ国境だよ」
昨日ルイスと話をした後、急いで家に帰って今日の準備をした。アリスだけじゃなくて、シルバも力を貸してくれた。
国境付近の数十km範囲は転移魔法が使えないから、行けるところまで転移魔法専門職の人に頼んで移動させてもらい、そこから先は馬車で移動することになった。
「へぇ……もうそんなところまで来たんだ」
そう言ってルイスが体を起こす。慌ててその背中を支えた。
「安静にしてた方がいいよ! 連れ出した私が言えたことじゃないかもしれないけど……」
「ふふっ、心配してくれてありがとう。でも本当に調子がいいんだよ。だから外の景色が見たくなってね」
「それなら、いいけど……」
ルイスは窓から外を眺めた。
「わぁ……なんにもないんだねぇ」
国境付近は乾燥した砂地が続いていて、建物はおろか草木もほとんどない。
「もう少しこんな景色が続いて、それから草原、森を抜けると、目的の街に着くんだって」
「そっかぁ……ふふっ」
「何かあった?」
そんな思わず笑っちゃうようなものなんて、何もない気がするんだけど……
「ううん。エマと付き合ってから初めてのデートだから、嬉しくてつい、ね」
「デ、デート……!?」
「うん! しかも泊りがけだなんてワクワクするよ」
ルイスはニコニコして本当に嬉しそうだ。
この旅はルイスの存在を守るための大勝負。それをデートだなんて楽しむ余裕、私には……
「ねえ、エマもそう思わない?」
そう言って見つめる瞳は、きっと私の不安も焦りも全部見透かしてるんだろう。
「……うん。一緒にいられて私も嬉しい」
不安で押しつぶされそうになるのは一人の時だけでいい。ルイスと一緒にいられる時は、この時間を目いっぱい楽しもう。
しばらくして再び横になったルイスは、気が付くと眠りについていた。その穏やかな寝顔を見たら、ふっと気が緩んだ。
馬車の運転手に声をかけられて目を覚ますと、窓の外には朝陽に輝く街並みが広がっていた。いつの間にか眠っているうちに目的地へ着いたらしい。
「ルイス、起きれる?」
「うん、大丈夫だよ」
荷台から降りて、朝の清々しい空気を吸い込む。久しぶりによく眠れたから、元気も十分だ。
バッグからシルバにもらった地図を取り出して広げる。会うのは久しぶりだ。
「それじゃあ、行こう」
地図に示された建物に着くと、扉には「クラム商会」と書かれた看板がかかっている。ドアノブに手をかけると、扉はすんなりと開いた。正面のカウンターに座っていた彼と目が合う。
「エマ、お嬢様……?」
「久しぶりね、ノア」
ノアは急な訪問に驚いているみたいだったが、立ち上がって私達の方へやってきた。
「いつかまた会えたらとは思っていましたが、まさかお嬢様の方から来て下さるとは……」
ノアは私の隣に立つルイスに目を向けた。
「そちらの方は、以前王城でお見掛けしました。お嬢様のご友人でいらっしゃいますよね」
「ええ。彼はルイス・コーネル。今は友達じゃなくて、お付き合いしてるんだけどね」
「お付き……!? ああ、最近のシルバ様の様子がおかしかったのはそういう事でしょうか」
ノアは口元に手を当てて笑った。私はルイスの方を向く。
「ルイス、紹介するね。この人はノア・クラム。国外追放騒動の時に……まあ色々あって、私の教育係をしてもらっていたの」
「そうだったんだね」
ノアは申し訳なさそうにうなだれた。
「お嬢様、その節は……」
「謝るのはなしね。その時知り合えたおかげで今日ここに来られたんだから」
「……ええ、そうですね。わざわざ私のところを訪ねてこられたという事は何か事情がおありなのでしょう。二階が自宅になっていますから、詳しい話はそちらで」
そう言うと、入り口の方へ歩いて行って表から看板を下げた。
「さあ、ご案内します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます